【知っておくべき!学会レポート】“脳”と“見た目”をAIで解析!アンチエイジングを極める2つのターゲットを知る!第22回日本抗加齢医学会総会①

AD(アルツハイマー型認知症)の原因として知られる脳内アミロイドβは他の臓器でも起こり、ADの必要条件であるものの十分条件ではありません。一方、酸化ストレスと血管病変によって起こる炎症は十分条件です。今回は、アンチエイジングで重要なターゲットとなるアミロイドβを血管病変や炎症の視点からひも解きつつ、AIを用いた新しい診断や予防方法と、さらに脳と見た目の相関も交えた講演「脳のアンチエイジングと見た目のアンチエイジング」についてレポートします。

ヘルスケア業界の関係者にとって必見セミナーである理由

今回、レポートするのは一般社団法人日本抗加齢医学会が主催する「第22回 日本抗加齢医学会総会」で2022年6月17日から3日間に渡り、オンラインと大阪国際会議場(グランキューブ大阪)でハイブリッド開催されました。今回のテーマは、「心身ともに若々しさを保つアンチエイジング科学とエビデンス」です。多くの研究者たちが集うこの総会で会長を務める阿部 康二氏(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)は、脳卒中や認知症、神経変性疾患などすべての脳神経内科分野における分子病態の解明と再生医療を専門としています。その功績では、世界初となる脳梗塞脳保護薬やALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬などを世に送り出したことでも有名です。また、2019年以降には抗酸化サプリメントの臨床的な研究で成功し、日本脳サプリメント学会理事長や日本化粧療法医学会前理事長なども歴任。彼が今、AIを用いて進めている研究やその周囲を取り巻く数々の最新研究を知ることは、ヘルスケア業界の関係者にとって貴重なヒントを得る機会となることでしょう。
そこで今回は、阿部康二氏による講演「脳のアンチエイジングと見た目のアンチエイジング」についてご紹介します。

今の日本は“潮目”!超高齢社会の中でアンチエイジングを見つめ直す

まず、現代の日本における認知症患者の実態を示し、これと社会的ニーズからアンチエイジングに対する捉え方について述べました。
2020年代に入った日本では65歳~74歳までの前期高齢者と75歳以上の後期高齢者がほぼ同じ人数である上に、高齢化だけでなく独居家庭も進んでいることが問題となっています。わが国で介護認定が必要となる一番の要因であった脳卒中は、その発症数について約10年前に認知症と逆転。今では認知症によって在宅で介護を受ける65歳以上の人が、全体の半数にも上ると言います。こうした数からも社会のニーズは変化していることが明らかで、認知症は医学的かつ社会的にさけて通れないテーマであるということに間違いありません。そして、いま健康な人にかぎらず、認知症を患う高齢者も出来るだけ良い状態の関節を保って骨折や転倒をしないようなアンチエイジングを行うことが求められる時代になってきたと説明しました。

脳以外にも溜まる“アミロイドβ”の対策には2つのターゲットがある

次に認知症が4つに大別されることと、その発症率について解説。最も多いAD(アルツハイマー型認知症)は、その予備軍を合わせると認知症全体の4分の3を占めています。続いて第2位の血管性認知症が9%、第3位のレビー小体型認知症は6%、第4位の前頭側頭型認知症が3%であることを示し、その差は歴然だと話しました。

そして、一般の人にも広く知られるようになってきた“アミロイドβ”について、ADでは脳にかぎらず心臓や他の臓器にも蓄積することが最近の研究で明らかになってきたと説明します。つまり、アミロイドβは今や全身病の一部という位置づけです。

また、ADでのアミロイドβの沈着は病理的に見て必要条件ではあるものの、確定診断につながる十分条件ではないと語ります。十分条件となるのは、“酸化ストレス”や血管病変から起こる“炎症”であるとのこと。さらに、ADが発症に至るには脳の白質部分における病変が重要で、これに血管の変化があって初めて確定診断がなされると言います。この2つの視点を踏まえて、脳のアンチエイジングを考えることが重要です。したがって、重要なアンチエイジングのターゲットはアミロイドβの蓄積を抑えることに加え、炎症を起こさないように小血管も良い状態で保っておくことの2つだと述べました。

脳血管障害における名称の変遷からアンチエイジングを考える

ここで、我が国における脳血管障害の発症率やその名称の移り変わりについて解説しました。1980年代の所謂“バブル経済”時代にはADの患者数はまだ2割程度で、大半の5~6割を占めていたのが脳梗塞後に起こるMID(多発性梗塞性痴呆、Multi infarct dementia)だったと言います。これが2000年代の高齢化社会に突入しADが4~5割を占めるようになってきた頃、MIDはVD(血管性痴呆、Vascular dementia)へと変わるとともに脳血管障害の中でADを重ねて発症している人がいることも明らかになりました。このとき、梗塞の有無にかかわらず血管に変化があれば血管性認知症であるという風に変わったのです。さらに2015年以降のADが7~8割に増えた頃、VDはVCI(血管性認知障害、vascular cognitive impairment)へと名称が変わります。

一方のADは名称こそ変わりないものの、その数は増え続けて中身の考え方が変わっていきました。元々は血管と関係はないと考えられていたものが2000年代から逆転して関係性のあるものと定義され、これが現在のADでは基本となっていると解説しました。そして、この背景から考えても脳のアンチエイジングは脳細胞と血管の両方へアプローチしていかなければならないと結論づけます。

AI技術を取り入れた認知症の診療と臨床応用

続いて、認知症の診療における3つの要素となる知的低下、情動変容、日常生活動作(ADL)の低下について解説しました。このうち、とくに情動変容は“被害妄想”や“物取られ妄想”といった家族関係に亀裂をきたすリスクが高いため、実際の診療でも重要視していると言います。

これまで医療現場では認知症の診療スケールとして、知的低下に対しては「MMSE(Mini-Mental State Examination、ミニメンタルステート検査)」や「HDS-R(長谷川式認知症スケール)」、日常生活動作の低下に対しては「ADLスコア」、そして情動変容に対しては「NPI(Neuropsychiatric Inventory)」や「GDS(Geriatric Depression Scale)」などが用いられてきました。阿部氏はここにAI技術を用いて「阿部式BPSDスコア(別名ABS)」※と呼ぶスケールを開発し、“知”と“情”の関係をより重視した診療を行っていると言います。

さらにこれを活用し企業とともに開発したアプリ「CogEvo(コグエボ®)」について紹介しました。このアプリは知的機能別のトレーニングを行いながら結果を“見える化”し、認知機能の変化を把握することが出来ます。タッチパネル式を採用しておよそ5分間で完了し、MMSEとも関連付けをしながら医師らが日頃の診療に活かすための機能も付随しているのだとか。また、現代の超高齢化社会では進行した状態で初めての診察となることが多く、より迅速な知的・情動スコアをスクリーニングできる手段が必要だと述べました。

“化粧”がアンチエイジングに対して有効であることをAIで立証!

最後に、“見た目”と“脳”のアンチエイジングにおける関連性について解説。
研究ではAIを使って介護施設で75歳の人に化粧をする前後での感情変化について調べ、顕著に変化が見られたと言います。さらに3ヵ月間に渡ってこの“化粧セラピー”を毎週おこなったところ、知的な改善効果があるとAIは判断しました。

そして、ADは発症する25年前から既に始まっていて、症状が出る頃にはほとんど勝負は終わっていると言います。しかしこれは、言い換えれば25年間ものアンチエイジングのチャンスがあるとも。まとめとして、酸化とストレスを抑えることでADにつながる悪循環を絶ち、その後の炎症を抑える医薬品の開発やサプリメントの服用、運動や食事を取り入れることが有用だと結論付けました。

どうやら、認知症を始めとする“脳”もシミやシワなどを気にする“見た目”も、AIによって測定できる時代へと変わりつつあるようです。こうしたAI技術を診療だけでなく身近なアンチエイジングに取り入れることにより、私たちはより健康度の高いウェルビーイングを目指していけるのかもしれません。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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