2022年成長のシナリオはどこに?ウェルネスのメガトレンドとキートレンドを紐解く

エイジングという言葉を聞いて老化や加齢を思い浮かべるのは、もはや時代遅れ。オートファジーや長寿遺伝子などサイエンスに関する解明と、多くの研究結果に基づくアプローチ方法の発見で、人びとのウェルネスに対する関心は大きく変革しています。
一般社団法人ウェルネス総合研究所は、「2022年のウェルネストレンドを紐解く」について、2022年2月10日(木)にメディア向けオンラインセミナーを開催しました。本総研理事の藤田康人氏と武田猛氏による登壇に加えて、ゲスト講演には健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏をお招きし、ご解説いただきました。その内容をレポートします。

ウォッチし続ける三者三様の視点で予測 時代が求める新たな健康アプローチとは

本セミナーでは2022年のウェルネストレンドをテーマに、第1部ではグローバルニュートリショングループ代表取締役の武田 猛氏から食品素材において成長のチャンスがあるグローバルなトレンドを、第2部では日経BP総研メディカルヘルスラボ客員研究員で健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏から、エビデンスで見る市場創造と健康産業の在り方を、そして第3部では株式会社インテグレート代表取締役の藤田 康人氏から、ウェルネス業界のトップジャーナリスト達に聞いた注目のキーワードについてお話しいただきました。
また、最後には3人でクロストークを行いました。

第1部、武田猛氏による「ニューノーマルに備える海外トレンドの見方、取り入れ方」

まずはグローバルニュートリショングループ代表取締役の武田 猛氏から、「海外トレンドを見て日本を見直す」と題して、“10キートレンド”や王道となったメガトレンドにおけるその成功戦略、売れるトレンドと売れないトレンドの違いなどを解説。
“10キートレンド”とは、一言でいうと「成長のチャンスがあるグローバルなトレンド」のことです。食品・栄養・健康ビジネスにおいて将来的な方向性を示し、少なくとも5年以上はニュートリション業界に影響を与えるトレンドだといいます。

ビジネスを成功させるためには、これらのキートレンドを時代背景や国ごとの文化をふまえて分析し、なぜそのトレンドが起きているのか、どのような変換を遂げているのかを知って活用することが重要。
例えば、プラントベースを見ると分かるとおり、失敗するか成功するかは戦略次第で変わります。この戦略をたてるときには、業界経験と科学的な知見から確かなエビデンスをもとに、各トレンドの関連性も見ていく必要があり、国が変わっても本質は同じだということです。

メガトレンドとしては天然の機能性やウェイトウェルネス、スナック化、サステナビリティなどを解説。
天然の機能性では、アーモンドやヨーグルトなどの伝統的な食品を例に挙げて成功に導いた戦略を紐解きました。また、サステナビリティでは消費者の目線で細分化したニーズをふまえたメッセージ性が重要だといいます。
すでに「プラントベース」というラベルは、もうその販売力を失っているとのこと。ここで、植物性プロテインのパラドックスに対する6つの戦略もご紹介いただきました。

売れるトレンドと売れないトレンドの話では、「免疫」というキーワードを例に消費者における関心の移り変わりをデータで示しました。
ニューノーマル時代への布石として、企業がビジネスを成功させるには、消費者のニーズにおける違いを理解し、機能性表示食品制度などの新ステージに立って区別と差別化のうえに独自性を考えることも必要だということです。

第2部、西沢邦浩氏による「健康産業の市場創造活性化のカギを握る
スローエイジング」

続いて、日経BP総研メディカルヘルスラボ客員研究員で健康医療ジャーナリストの西沢 邦浩氏から、市場の創造は健康産業の在り方を考える上で重要だということを、平均余命の延長がWTP(Willingness to Pay、総支払意思額)の増大をもたらすことを示した研究を紹介しつつお話しいただきました。
また、スローエイジングに関する最前線の素材や抗炎症性の食事、フェムテック&メルテックの視点で異なる抗老化対策についてもご解説。フェムテックとはFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)、メルテックとはMale(男性)とそれを掛け合わせた造語です。
今後、ヘルスケア市場では健康寿命延長に寄与する素材・成分を摂取する価値の評価軸を変えていく必要があると提言しました。これまでの医療費を減らすといった“後ろ向き”の価値から、生産力・消費力の高さにつながる若さの維持=老化抑制により、経済を活性化・拡大するという“前向きの”思考で価値をとらえる必要があるのではないかと言うのです。ここで引かれた研究では米国人が1歳ずつ若返ると、1年間で約38兆ドルもの市場が出来るとしています。さらに、ガリバー旅行記に登場する不死だが老化し続けるストラルドブラグと比べると、永遠に歳をとらず若々しいピーターパンは遥かに大きいWTPを生み出すことを示し、若い世代が老化制御技術の恩恵を受けることの意味を説いています。z

続いて、若さを守るスローエイジング(Slow Aging)はこれからの健康産業の王道の一つであると言え、早期に気付き行動を起こすよう若い世代の健康リテラシーを高めることが社会経済的にも重要だと語りました。
具体的には、「老化を進める固有因子をつきとめ、少しでもエイジングをスローにすること」だといいます。
26歳という若い時期から20年間観察を続けて老化の進行度合いを調べたコホート研究では、同じ45歳でも生物学的年齢に大きな差が見られ、1年間に0.4歳しか老化しない人がいる一方で2.44歳も老化した人も。このうち早く老化する人では見た目に加えて身体の中も、さらには認知機能も老化して、ネガティブな考え方をする傾向があったというのです。

そして最前線のスローエイジング素材として、スペルミジンやケルセチンのほか、オートファジーを促すとして注目を集めるウロリチンなど最新の知見も。
また、男女共通の老化因子だけでなく、女性ならでは男性ならではの老化因子も解明されつつあることから、機能性表示食品やその関与成分には、共通の生物学的老化に加え性差に配慮したフォーミュラがありうるとのこと。健康分野は今話題のフェムテックだけでなく、メルテックにも目配せをして市場を延ばす必要があると解説しました。
次に、世界中の国々の疾病・傷害とそのリスク要因をまとめた「世界の疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study)2019年版」などのビッグデータを用いて、食事を何歳時点で健康的な内容に改善するかで平均余命がどれだけ変化するかを見た研究に言及。結果は、食事内容を砂糖入り飲料、赤身肉、加工肉などが多い「西洋型の食事」から、豆類、全粒穀物、魚などが多い「健康的な食生活」に変える時期が早ければ早いほど、平均余命が延びるというものでした。
このような「健康的な食事」の典型として挙げられるものに「伝統的な沖縄食」があります。欧米型の食事に比べると自然に10~15%のカロリー制限となるという研究もある伝統的沖縄食はオートファジーの観点から見ても有用で、精製された炭水化物や飽和脂肪酸が少ないために身体に炎症を起こしにくく、抗炎症性の食事としても評価されているとのことです。

こうしたデータはいずれも、早く自分の老化因子に気付いて、若いうちに行動修正を始めるのが最も効率的であることを物語ります。そして、自分の生物学的老化がわかるAging Clockの研究も進んでいるとのこと。これからの健康産業企業に必要なのは、こうしたデータを基に、この国を引っ張っていく若い人にも気付きを与えるようなコミュニケーションだろうと語りました。

第3部、藤田康人氏による「2022年の注目トレンドトピックスとは?」

3人目の登壇では株式会社インテグレート代表取締役の藤田 康人氏から、健康食品業界のトップジャーナリスト達が注目するキーワードについて、メガトレンドともいえる「ウェルビーイング」の視点から解説。
これまでのヘルスとこれからのウェルビーイングにおけるゴールの違いから始まり、そこで最も重要な「細胞」、さらにはヒトの恒常性維持(ホメオスタシス)とマインドフルネス、未病ケア、東洋医学と西洋医学の共通点、国内外で市場動向の異なる「たんぱく質」など、トレンドキーワードの要点をお話しいただきました。

これまでの人生におけるゴールは、病気ではない状態の「健康(Health)」を維持することでした。今や、健康という“状態”は一つの手段にしか過ぎません。身体と心に加えて社会的な立場など、ライフスタイルを取り巻くすべての活動が広義でいう健康に寄与しているという“生き方”(これをウェルビーイングという)が豊かであることが、これからの人生におけるゴールなのです。
そこで重要となるのが細胞。オートファジーやマイトファジー、さらにサーチュイン遺伝子のうち「SIRT1(サーチュインワン)」の科学的データを背景に話題の食品素材を挙げて、大手週刊誌も取り上げる理由を語ります。
そして今までのアンチエイジングとこれからのポストアンチエイジングの違いについて、2022年に注目するべき“細胞の老化は戻せる”という着眼点から解説しました。

細胞へのアプローチは、ホメオスタシスを考えることが基本。不安やストレスなど心の不健康によって細胞が劣化する仕組みと、日本の禅から始まって米国で普及した概念“マインドフルネス”の活用例、「未病ケア」マーケットが伸びている理由についてお話しいただきました。

また、食品素材における“ナチュラル”とサプリメントや薬など“ケミカル”の区分から、東洋医学と西洋医学における考え方の違いと共通点を示し、「アダプトゲン※」や「食養生」について触れました。
世界ではホメオスタシスをメンテナンスする薬膳のような食を中心に、ナチュラルなトレンドをつくっていこうとする動きがあるといいます。ウェルビーイングのトレンドとは疲労と老化に関する本質を指し、「細胞の劣化」「東洋と西洋」「最先端のサイエンス」の3つが重要だということです。

※アダプトゲン:漢方やアーユルヴェーダなど伝統的に使用されている植物の中で、バランス回復効果が期待できる植物の一つ。

たんぱく質の市場については国内外での違いと、今までの筋肉や容姿に関するイメージから、免疫やホルモン、睡眠、メンタルといった様々なカテゴリーへとシフトしてきていることを解説。
トレンドキーワードの先にあるウェルビーイングについて、まず取り組みたいことは精神的なストレスを取り除いて防いでいくことだと語りました。

 クロストーク「2022年以降、健康産業の動向と今後の展望」

最後に行われた3人のクロストークでは、藤田氏が2022年における健康産業の動向とこれからの展望についてトークを展開。
また、それぞれの登壇の中でエビデンスとして示された「ウェルネストレンド白書 Vol.1」(以降、白書)の話題も挙がりました。この白書はプロファイリング分析により生活者を7つの健康セグメントで分類して明らかにした特性ごとに見る、興味関心やヘルスベネフィット、素材および成分などについて書かれたものです。
武田氏は、ヘルスクレーム(機能性表示)だけでは成功できないことを先行事例として頭に入れておいたほうがよいと言います。消費者のマインドを動かすには、機能性や健康に対する利益の先にあるウェルビーイングに訴求していく必要があるそうです。
その根拠に、白書では日本人におけるヘルスリテラシーの現状やサプリメント離れ、ヘルスクレームの幻想、ストーリーの重要性について示しています。
西沢氏は、コロナ禍の閉塞感で心身のバランスが重視され、心と身体の両方にアプローチする素材が求められていると言います。加えて日本では米国などに比べて、機能性素材の背景にあるストーリーなど消費者の共感を呼ぶ情報の発信量が少ないという印象も。企業や消費者を含めた多くの人が、成分によって得られる効能だけでなく、その成分の食経験などを含めた全体性に共感できるかどうかが重要です。
今後、健康産業の注目ターゲットとしては、白書に示したセグメントの中から『トレーニング大好き層』を取りあげ、最も大きな割合を占める20~30代男性層で先端の成分や素材に対するリテラシーと関心が高いと語りました。そして、これまでメインだった50代以上の女性だけでなく、こうした新しい消費者層を開拓することが欠かせないとも。

藤田氏は、ブレインヘルスに対する目的について国内外での違いが明らかだと言います。わが国では認知症などの疾患を予防するためのネガティブな目的。対して外国では細胞再活性を意識してアクティブな活動を目指すポジティブな目的だというのです。
総評して2022年は、これまでと違った健康アプローチへの世界観における波がくるだろうと語りました。
どうやら、ニューノーマル時代でウェルネストレンドの潮流をつかみ布石を打つには、ウェルネストレンド白書を参考に各セグメントの特性を知り、アプローチを的確に練り込むことがカギとなりそうです。
これからは、幸福感に満ちたウェルビーイングをかなえるために細胞再活性を意識し、早期から老化制御へのアプローチを始めることが重要なのだと感じさせたセミナーでした。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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