腸内細菌がつくる注目の物質「短鎖脂肪酸」

近年、腸内細菌の働きが明らかになり、大腸内の環境が全身の健康に大きく関与することが分かってきました。同時に、腸内細菌が産み出す代謝物「短鎖脂肪酸」にも注目が集まっています。「短鎖脂肪酸」とは何か、なぜ注目されているのかを解説します。

次世代シーケンサーなどの検査機器の登場によって腸内細菌の働きが明らかになり、大腸内の環境が全身の健康に関与することが分かってきました。同時に、腸内細菌が産み出す代謝物にも関心が集まっています。その一つが「短鎖脂肪酸」。「短鎖脂肪酸」とは何か、なぜ注目されているのでしょうか。

短鎖脂肪酸は大腸の有用菌の代謝物

短鎖脂肪酸は、ビフィズス菌などの有用菌が水溶性食物繊維などをエサにして作り出す代謝物です。代表的なものとして酢酸、酪酸、プロピオン酸などが挙げられます。名前に「酸」がつくことからもわかるように酸性の物質であるため、短鎖脂肪酸が多いと大腸内は弱酸性となります。ビフィズス菌を含む有用菌は弱酸性を好むことから、短鎖脂肪酸は大腸を有用菌が育つのに適した環境へと整え、有害菌を抑えてくれます。

全身の健康にも関与

短鎖脂肪酸が注目されている理由は、大腸環境を整えるからだけではありません。
腸壁を守るムチン層に働きかけて大腸壁のバリア機能を強化。病原菌から身体を守り、アレルギー予防にも力を発揮します。さらに炎症性サイトカインの発生を抑制する抗炎症作用も有するなど、短鎖脂肪酸は私たちの身体をさまざまな健康リスクから守ります。 この他にも、全身のあらゆる臓器でエネルギー源として活用され、大腸では蠕動運動を促進して便秘の改善に貢献。また脂肪細胞に働きかけて脂肪を燃焼させることで、私たちの身体をやせ体質へと導く作用も期待できます。さらに、インスリンの分泌を調整する働きがあることなども解明されており、大腸だけでなく、全身の健康に深く関わる物質として注目を集める存在となっています。

短鎖脂肪酸不足の原因は腸内フローラの乱れ

このように短鎖脂肪酸の有用性が明らかになる一方で、私たち日本人の大腸では短鎖脂肪酸の産生量が減少しているといいます。その原因といえるのが腸内フローラの乱れです。
食の欧米化や、近年の糖質制限や高タンパク質食品ブームは、腸内を有害菌が育ちやすい環境へと導きます。加えて有用菌のエサとなる水溶性食物繊維の摂取量の減少が、これに拍車をかけています。もともと日本人は主に穀物から水溶性食物繊維を摂取していましたが、米の消費量が少なくなるのに伴い、水溶性食物繊維の摂取量も減少傾向にあるのです。 こうした大腸内の有用菌とそのエサの減少が短鎖脂肪酸の生産量を減らし、日本での大腸がんや炎症性腸疾患患者の増加にも影響を及ぼしているのではないかと考えられています。

短鎖脂肪酸を意識した腸活の提唱を

ビフィズス菌などの有用菌をヨーグルトなどの食事から補う「プロバイオティクス」と、そのエサを補う「プレバイオティクス」、さらにはその両方を行う「シンバイオティクス」の考え方や実践方法は、メディアなどでも頻繁に取り上げられ、「腸活」ブームをもたらしました。
これに伴い消費者の意識も高まってきており、いまや腸活における消費行動は整腸を目的としたものだけに留まらず、大腸内の環境が全身の健康に貢献することを理解したうえでのものだと考えられます。

腸内フローラへの関心は今後も強まり、より深い知識が求められるようになるでしょう。有用菌の代謝物である短鎖脂肪酸をいまよりもさらに踏み込んだ商品開発や情報発信に活かすことが、「腸活」市場を一層活性化させるきっかけとなるのではないでしょうか。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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