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04認知症コラム

認知症の初期症状「怒りっぽい」原因と対処法を解説

2025.10.31

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認知症の代表的な初期症状に、「怒りっぽくなる」という症状があります。高齢になって急に怒りやすくなった場合、性格の変化なのか認知症による症状なのか見分けが難しいこともあるため注意が必要です。この記事では、症状の特徴や原因、薬や施設での対応、家庭での対処法までわかりやすく解説します。

そもそも認知症の初期症状とは?

認知症の初期症状は、多くの場合、記憶力や判断力の低下として現れます。日常生活では、鍵や財布を忘れる、予定を間違えるなどの些細なミスや混乱として表面化することが多く、本人も周囲も軽微な変化として見過ごしがちです。

認知症の初期症状は人によって異なるため、少しでも違和感を覚えたら早期に医療機関で診断を受けることが重要です。初期段階での対策やサポートが、症状の進行を遅らせる助けになります。

主な初期症状の例
記憶力の低下
  • 最近の出来事をすぐに忘れてしまう
  • 同じ話を何度も繰り返す
  • 物の置き場所を頻繁に忘れる
見当識の低下
  • 今日が何日かわからなくなる
  • 現在どこにいるのかがわからなくなる
  • 季節や時間帯の感覚が曖昧になる
理解・判断力の低下
  • 金銭管理や買い物で間違いが増える
  • 簡単な説明でも理解しにくくなる
  • 予定や指示の優先順位を誤る
実行機能の低下
  • 料理や掃除など手順がわからず
    作業が途中で止まる
  • 日常生活の計画を立てられなくなる
  • 手順を覚えても正しく実行できない
性格の変化や
意欲の低下
  • 怒りっぽくなる、些細なことでイライラする
  • 興味や趣味への関心が薄れる
  • 社交的な活動を避けるようになる
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認知症による「怒りっぽい」症状の特徴

認知症の初期症状として現れる「怒りっぽい」症状は、元の性格とは異なる行動として現れるのが特徴です。この症状は、「易怒性(いどせい)」と呼ばれます。

たとえば、これまで穏やかだった人でも、突然怒りやすくなる、些細なことでイライラすることもあるでしょう。もともと怒りっぽい傾向がある人は、認知症の進行にともなって症状が顕著になることも少なくありません。怒りっぽさは記憶力や判断力の低下、孤独感や不安と関連していることも多く、周囲の理解と適切な対応が重要です。

「怒りっぽい」症状の特徴
  • もともと温厚だった人が、急に怒りっぽくなった
  • 周りに人がいても、関係なく怒るようになった
  • 予測不能なタイミングで怒るようになった
  • 怒っている原因を明確に説明できなくなった
  • ほかの初期症状も見られる

認知症の「怒りっぽい」症状と
「怒りっぽい」性格の見分け方

認知症による「怒りっぽい」症状は、感情のコントロールが難しくなることや、記憶障害による混乱が原因で生じるケースが多い傾向にあります。突然に症状が現れるため、本人が怒っている理由を明確に説明できないことも多いでしょう。

一方で、性格としての怒りっぽさは一貫したパターンがあり、特定の状況でのみ現れることが一般的です。怒りっぽいのが性格によるものか認知症の症状かを判断し、適切な対応やサポートを考えることが求められます。

「怒りっぽい」症状 「怒りっぽい」性格
予測不能で突然現れる
(感情のコントロールが難しくなる)
特定の状況のみで現れる

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認知症で「怒りっぽい」症状が出る原因

認知症で見られる「怒りっぽい」症状は、単なる性格の変化ではなく、脳の機能低下や心理的な要因が関係しています。複数の要因が絡み合ってこのような行動が現れる点を理解することが重要です。

グループホームの特徴イメージ

感情のコントロールが難しくなるため

「感情のコントロールが難しくなる」のは認知症の代表的な症状であり、これが怒りっぽくなる大きな原因の一つです。認知症では、脳の変化によって喜怒哀楽を適切に調整する機能が低下します。そうすると、些細なことで急に怒り出したり、感情の起伏が激しくなったりすることが多くなります。

このような感情の変化は本人にとって混乱や不安の原因となるだけでなく、周囲の家族や介護者にとっても大きなストレスとなることもります。

自分の置かれている状況が理解できないため

認知症では記憶障害や見当識障害により、自分の記憶が曖昧になったり日常生活の中で何が起こっているのか理解できなかったりすることがあります。すると、自分が今どこにいて何をしているのか正しく把握できなくなり、その混乱が怒りや苛立ちの感情となって表面化するのです。

また、認知症になると環境の変化にも過敏になります。家具の配置が変わったり生活リズムが変化したりするとさらに不安が増幅し、症状が悪化するケースも多いです。

記憶障害について詳しくはこちら
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気持ちや状況をうまく伝えられないため

認知症で怒りっぽくなる背景には、言語障害の影響も大きく関わっています。言葉がうまく出てこない、適切な表現ができないという症状が現れると、自分の気持ちや状況を正確に伝えられなくなります。

その結果、相手に誤解されたり、意図が伝わらなかったりすることが続き、焦りや不安から「なぜわかってくれないのか」という怒りにつながります。さらに、周囲の反応が期待と違うと「拒否された」と感じやすく、強いストレスや孤独感を招くでしょう。

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自尊心が傷ついているため

認知症を発症すると、これまでできていたことが徐々に難しくなり、それを自覚することで気持ちが不安定になることがあります。さらに、周囲から否定されたり叱責されたりすると、自尊心が傷ついて怒りにつながりやすいです。とくに、日常生活の小さな失敗や誤解に対して厳しい指摘を受けると、自己評価が低下しストレスを感じやすくなります。

孤独感を感じているため

認知症の方は、周囲とのつながりが希薄になることで孤独感を強く感じやすくなります。記憶や理解力の低下により会話がかみ合わなかったり、日常生活で支援を受けながらも自分の存在が十分に認められないと感じたりすることが増えるでしょう。

その結果、「誰も自分の気持ちをわかってくれない」という不安や寂しさが積み重なり、苛立ちや怒りとして表に出やすくなるのです。

薬の副作用が出ているため

認知症の治療に使われる薬のなかには、副作用として吐き気、めまいやふらつきなどを引き起こすものがあります。これにより、普段なら気にならない些細な出来事にも敏感になってしまうことも少なくありません。また、副作用による不快感や混乱が続くと、本人は自分でも理由がわからないまま苛立ちを感じやすくなります。

薬の副作用の現れ方には個人差があるため、適切な薬の選択が重要です。効果と負担の両面を把握し、医師と連携して調整することが、症状の軽減につながります。

認知症の薬について詳しくはこちら

認知症の「怒りっぽい」症状への対処法

認知症による「怒りっぽい」症状は、本人の意思や性格だけでなく、脳の変化や心理的要因が影響しています。適切な対応を知ることで、本人と周囲の人々双方のストレスが減り、穏やかな関係を保てるでしょう。

相手の気持ちに共感し寄り添う

まずは、相手の気持ちに共感し、寄り添うことが大切です。認知症による怒りは、理解されない不安や混乱から生じることが多いため、言葉や行動を否定せず冷静に聞くことで安心感を与えられます。

また、共感を示すことで、自分の感情が受け入れられていると感じ、落ち着きを取り戻すきっかけになるかもしれません。表情や声のトーンに注意し、適切なタイミングで声をかけることも重要です。

してはいけないこと
怒りの感情を否定したり、感情的に言い返したりすることは避けましょう。たとえば「そんなことで怒るな」と言ったり手を振り払ったりすると、相手の不安や苛立ちが増し、状況が悪化する可能性があります。

物理的に距離をとる

怒りが激しくなった場合は、物理的に距離をとることも有効です。相手が感情を爆発させているときに無理に会話を続けると、状況が悪化することがあります。そのため、一時的に別の部屋に移動するなどして、双方が冷静になる時間を持つことが大切です。距離を置くことで、介護者自身も感情的になりすぎず、落ち着いて対応できる時間を確保できます
してはいけないこと
相手を無理に拘束したり、部屋に閉じ込めたりするのは避けましょう。「ここから出てはいけない」と強く制止すると、不安や恐怖が増して攻撃的な行動につながる可能性があります。

ある程度聞き流す

認知症の方が怒っているときでも、すべての言葉に反応する必要はありません。とくに同じ内容を繰り返す場合は、深刻に受け止めすぎず、ある程度聞き流すことが大切です。

介護者自身のストレスをためないためにも、第三者に相談したり、適度に距離を置く対応を取り入れたりしましょう。こうした工夫により、落ち着いた状態で建設的なコミュニケーションを維持できます。

してはいけないこと
すべての言葉を真に受けたり、一人で抱え込んだりすることは避けましょう。「どうしてこんなことを言うんだ」と感情的に反応し、誰にも相談せず対応していると、介護者の負担が増大して状況が悪化することがあります。

認知症の予防や進行を遅らせるための5つの対策

認知症は、完全に防ぐことは難しいものの、生活習慣や脳の使い方を工夫することで予防や進行の遅延が期待できます。ここでは、日常生活で取り入れやすい5つの具体的な対策を紹介します。

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有酸素運動

軽い有酸素運動を習慣的に取り入れることは、認知症の予防や進行の遅延に効果的です。ウォーキングや軽いジョギングなどを無理のない範囲で毎日続けることで、血流が促されて脳への酸素供給が活発になり、認知機能の維持につながります。長期的に続けられる強度で取り組むことがポイントです。

散歩 ジョギング

規則正しい生活

認知症の予防や症状の進行を遅らせるためには、規則正しい生活習慣が重要です。毎日同じ時間に起床・就寝し、食事や入浴のリズムを整えることで、体内時計が安定し、自律神経やホルモンバランスの乱れを防げます。また、適度な運動やバランスのよい食事を日課に組み込むことで、脳への血流や栄養状態も改善され、認知機能の維持につながるでしょう。

認知症を発症すると、とくに睡眠リズムが乱れがちです。生活のリズムを固定することは本人だけでなく家族の負担軽減にもつながります。

毎日決まった時間に起床・睡眠・食事を行う 認知症予防に効果的な食べ物を取り入れて食事を行う

認知症予防に効果的な食べ物について詳しくはこちら

禁煙

喫煙をしている方は、認知症予防として禁煙を検討しましょう。WHOの「認知機能低下および認知症のリスク低減」では、認知症のリスクを低減させる方法として、禁煙を強く推奨しています。

また、認知症予防の研究で有名な「久山町研究」では、50~64歳の中年期で喫煙していた人でも、65~79歳の老年期で禁煙すれば認知症の発症リスクが低下する可能性が示されました。健康のためにも、できるだけ早めに禁煙することが重要です。

久山町研究について詳しくはこちら

アルコールの減量

認知症の予防や症状の進行を遅らせるためには、アルコールの摂取量を減らすことも重要です。過度な飲酒は脳細胞へのダメージや栄養不足、睡眠障害を引き起こし、認知機能の低下を早める可能性があります。

また、アルコールによる血圧上昇や肝機能への負担も、間接的に脳の健康に影響します。脳への負担を減らし、記憶力や判断力の維持につなげるためも、飲酒習慣を見直してみましょう。

アルコール性認知症について詳しくはこちら

認知トレーニング

認知症は放置すると進行してしまうため、非薬物療法を取り入れて脳を活性化させることが大切です。パズルや計算、読書、会話などで脳を刺激する認知トレーニングは、記憶力や注意力の維持に役立ち、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。

また、新しいことに挑戦する習慣を持つことで、記憶力や注意力、判断力の維持につながります。日常生活での混乱や不安の軽減にも役立つでしょう。

認知症の初期症状「怒りっぽい」に関するよくある質問

認知症の「怒りっぽい」症状についてよく寄せられる質問とその回答をまとめました。参考にしてみてください。

Q元々「怒りっぽい」人は認知症になりやすいですか?

神経質な性格や感情の起伏が激しく元々怒りっぽい人は、ストレスに弱く認知症リスクがやや高い傾向が指摘されています。ただし、単に怒りっぽいからといって必ずしも認知症になるわけではありません。生活習慣や周囲とのコミュニケーションも影響します。

Q「怒りっぽい」以外に認知症になりやすい性格はありますか?

「怒りっぽい」以外では、心配性・ネガティブ思考・神経質・批判的・協調性や誠実性が低い性格が認知症リスクと関係しています。これらの傾向があると孤立やストレスを感じやすくなり、脳へ影響が及んで認知症の要因となる可能性があります。

Q認知症による「怒りっぽい」症状はいつまで続きますか?

認知症による「怒りっぽい」症状は、初期から中期にかけて現れやすく、進行とともに数年単位で続くことがあります。ただし症状の強さや持続期間には個人差が大きく、徐々に感情表現自体が減る場合もあります。

怒りっぽい症状には理解と寄り添いが重要

認知症の初期症状として現れる「怒りっぽさ」は、単なる性格の問題ではなく、脳や心理の変化が影響しています。周囲は感情の変化に共感しつつ、物理的な距離を取ったり聞き流したりすることで、本人も介護者も安心して対応できます。日常生活では運動や規則正しい生活、禁煙・節酒・認知トレーニングなどで進行を遅らせることも可能です。

認知症予防や認知機能ケアに関心がある方は、最新の研究成果を参考にしてみてはいかがでしょうか。2024年の臨床試験では、40Hz周期の音や光刺激がアルツハイマー病患者の認知機能や日常生活動作の低下を抑制する効果が確認されています。今後の認知症ケアへの応用も期待されており、その動向に注目が集まっています。

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