04認知症コラム
久山町研究から学ぶ認知症予防の知見
―60年以上の研究データからわかること
2025.08.29

久山町研究とは福岡県糟屋郡久山町の住民を対象とした認知症や脳卒中などの疫学調査です。九州大学大学院医学研究院が中心となり、1961年から継続的に実施されてきました。久山町研究からわかったことや認知症予防への知見、今後の展望についてわかりやすく解説します。
久山町研究とは?
久山町研究とは、九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野久山町研究室が中心となって実施してきた疫学研究です。福岡県糟屋郡久山町の住民を対象に、1961年に調査が開始されました。
- 久山町研究とは…
- 福岡県糟屋郡久山町(人口約9,000人)の住民を対象とした疫学調査です。日本人の脳卒中の実態解明を目的として始まった研究ですが、近年では生活習慣病全般へと広がり、幅広い側面からの追跡を実施してきました。なお、追跡率は99%以上と極めて高く、生活習慣病の危険因子の解明や予防活動にも研究結果が活用されています。
久山町の目的
1960年ごろの日本の死因1位は脳卒中で、その中でも脳出血による死亡率は脳梗塞と比べて12倍強と著しく高く報告されていました。欧米の研究者からは誤診を疑う声もあり、脳卒中の実態解明の必要に迫られたことから、久山町研究は始まります。
久山町研究の開始当初の目的は、正確な死因を知ることです。実際に科学的な手法で正確に死因を分析したことで、従来の死亡診断書に記載されていた病型は誤りが多かったことが証明されました。現在では、脳卒中だけでなく生活習慣病に関するさまざまな課題や疑問の解明を目的として、久山町研究は続いています。
久山町研究の地域的特徴
研究が始まった当初、久山町の人口は約6,500人でした。2025年6月末時点では9,364人と、約1.5倍に増加しています。なお、久山町は市街化調整区域に指定されていたため、周囲の都市部と比べると人口増加は緩やかです。
また、研究開始時から現在に至るまで、住民の年齢構成や職業分布(産業別割合)がほぼ全国平均と同じという特徴があります。研究を主導する九州大学との地理的距離も近く、大規模な調査を継続しやすいのも特徴といえるでしょう。
久山町研究の調査方法
久山町研究は、40代以上の全町民を対象とした研究です。数年おきに町民の一斉検診などを臨床医が実施し、全体像の把握やテーマごとの結果分析に活用しています。
99%を超える追跡率で異なる年代層の集団データを高精度で蓄積しつつも、5年ごとに新たに40代以上になった町民を対象に加え、生活習慣病や疾病リスク、生活習慣などの変遷も同時に調査しています。

久山町研究により現在判明していること
60年を超える長期的な追跡研究から、生活習慣病や死因に関わるさまざまな事実が判明しています。その中でも認知症に関わる気付きを紹介します。
認知症の有病率の増加 高齢者が認知症を発症する確率 糖尿病と認知症の関係 高血圧と脳血管性認知症の関係 喫煙と認知症の関係

認知症の有病率の増加
久山町では1985年より65歳以上の全住民を対象に、認知症と日常生活動作(ADL)の疫学調査を開始しました。その後、1992年と1998年、2005年、2012年にも同様の調査を実施し、2000年代から認知症の有病率が急増していることを確認しています。ただし、2017年からは減少しているとの報告がなされています。
また、認知症の中でもアルツハイマー型認知症の有病率が45%と高く、次いで血管性認知症(30%)、混合型認知症(12%)の有病率が高いという結果を得られました。なお、アルツハイマー型認知症の有病率は、人口の高齢化を超えて大幅に増加しています。
2000年代から認知症の有病率は急増
※ただし、2017年以降からは減少
認知症の種類や症状、対処法について詳しくはこちら
認知症になる人の割合は?詳しくはこちら
アルツハイマー型認知症について詳しくはこちら
高齢者が認知症を発症する確率
1990年代から2000年代にかけて、60~70代の認知症発症者が増加しました。2014年に発表された「わが国における高齢者認知症の実態と対策:久山町研究」によれば、60歳以上の住民が死亡するまでのいずれかの時点で認知症を発症する確率は55%と高く、高齢化が進む中、認知症対策はさらに重要度を増すことが示されています。
60歳以上の認知症発病率は55%
参考:首相官邸「 わが国における高齢者認知症の実態と対策:久山町研究」 参考:Daigo Yoshida et al.「Lifetime cumulative incidence of dementia in a community-dwelling elderly population in Japan」 (Neurology, 95(5):e508-e518, 2020)
認知症と糖尿病の関係
糖代謝異常をはじめとする糖尿病が、認知症の危険因子と考えられています。60歳以上の認知症患者を対象とした分析によれば、糖尿病患者がアルツハイマー型認知症を発症するリスクは耐糖能レベルが正常の方と比べて2.1倍、脳血管性認知症については1.8倍と、相対危険度が大幅に高まりました。
糖尿病の人が認知症を発症するリスクを通常の人と比べると…
アルツハイマー型認知症→2.1倍
脳血管性認知症→1.8倍
高血圧と脳血管性認知症の関係
50~64歳の中年期を対象とした調査によれば、高血圧の人は脳血管性認知症を発症するリスクが高いことがわかっています。正常血圧の人が脳血管性認知症を発症するリスクを1とすると、高血圧レベル1の人は6.0倍、高血圧レベル2(レベル1よりも血圧が高い)の人は10.1倍でした。ただし、アルツハイマー型認知症と高血圧の関係については有意な結果は得られていません。
50~64歳で高血圧の人は認知症発症のリスクが高い
喫煙と認知症の関係
中年期(50~64歳)と老年期(65~79歳)の喫煙者を対象とした調査によれば、非喫煙者と比べて脳血管性認知症を発症するリスクは2.9倍、アルツハイマー型認知症の発症リスクは2.7倍でした。しかし、中年期は喫煙していたものの老年期で禁煙した場合は、リスクはそれぞれ1.6倍、1.9倍と低下します。
喫煙者が認知症を発症するリスクを通常の人と比べた場合…
アルツハイマー型認知症→約2倍
脳血管性認知症→約2.8倍
久山町研究から得られる認知症予防への知見
久山町研究ではさらに認知症予防につながるいくつかの知見が得られています。日常生活に活かせる主な発見を紹介します。
定期的な運動習慣を身につけることは、認知症のリスク低下に有意であることが示されています。また、海外の追跡調査でも同様の結果が得られており、対象や調査方法にもよりますが、認知症の発症リスクが38~45%減少することがわかってきました。
特にアルツハイマー型認知症の発症リスクは、運動習慣の習得により大幅に低下します。運動習慣は筋力の増加・維持にもつながるため、年代を問わず、以下のような運動習慣を取り入れていきましょう。
- 取り入れるとよい運動習慣(週1回以上を推奨)
-
筋力トレーニング(特に握力) ウォーキング・早歩き ジョギング 自転車
悪影響な生活習慣の改善の必要性
運動のように認知症の発症リスクを低下するポジティブな習慣もあれば、発症リスクを引き上げるネガティブな生活習慣もあります。たとえば、喫煙や飲酒、短すぎるあるいは長すぎる睡眠は、発症リスクを高めることがわかってきました。
なお、年齢を問わず、禁煙をすれば、非喫煙者と同程度まで認知症の発症リスクを引き下げることが可能です。また、認知症予防に有効とされている食事(和食+野菜+牛乳)を取っていた人は飲酒量が少ない傾向にあります。実際に長期かつ過度の飲酒によって引き起こされるアルコール性認知症もあるため、飲酒頻度や飲酒量には注意が必要です。
- 気をつけるべき生活習慣
-
喫煙 飲酒 短時間(5時間未満)・長時間(8時間以上)の睡眠
食生活と認知症の関係
大豆製品や乳製品、野菜、海藻類などを多く摂取する食事パターンは、認知症予防の効果が期待できるといわれています。また、果物や魚類、イモ類なども意識的に摂取し、多様な食材を食べるほうがよいことがわかってきました。同じカロリーを摂るのであれば主食中心ではなく副食を摂る食生活にすることが推奨されています。とくにたんぱく質の摂取量が多いとなおよいとされています。
- 認知症予防のために多く摂るとよい食品の例
-
野菜 大豆製品 乳製品 果物 イモ類 海藻類 魚類
久山町研究の今後の方向性と期待される成果

高齢化が進む中で問われることは、いかに長生きするかではなく、いかに健康に生きるかです。認知症やフレイル(虚弱)を予防することは、健康寿命を延ばすためにも不可欠な要素といえるでしょう。
全町民を対象とした久山町研究では、「健康に関心がある」「医療機関で定期的に健康診断や治療を受けている」といったバイアスがかかりにくく、日常習慣や疾病の実態をより高い精度で調べることが可能です。今後も生活習慣と疾患の関連を分析し、認知症の予防策の確立と予防医療の実践につなげていくことが期待されます。
認知症予防を意識した生活習慣を身につけよう
久山町研究をはじめとするさまざまな研究により、認知症や生活習慣病の予防につながる生活習慣が明らかになりつつあります。研究結果を単に知るだけでなく、実生活に活かし、健康増進活動に役立てていくことが大切です。
また、認知症や生活習慣病への関心は高く、今後も世界中で多くの研究が実施されます。研究の動向や成果に注目し、常に新しい情報を入手するようにしましょう。