原因は食生活の乱れ。若者でも心筋梗塞が増加中
太っていなくても「ノロノロ血流」には要注意!

夏に気を付けたいことといえば熱中症ですが、実は脳梗塞や心筋梗塞など、血管が詰まることで起きる「命に関わる病気」の発生件数が増える時期でもあります。徳島大学大学院医歯薬学研究部の佐田政隆先生は、これは血液の循環が悪くなった「ノロノロ血流」が起きていることが原因であり、年代問わず誰にでもなってしまう可能性があると警鐘を鳴らしています。そこで今回は、循環器内科学の専門家である佐田先生に、「ノロノロ血流」になってしまう人の特徴や、その対策方法について伺い、ご解説いただきました。

20代~30代にも増えている「ノロノロ血流」。夏の脱水症状がさらなる追い打ちに

「ノロノロ血流」とはどのようなものでしょうか。

脳梗塞や心筋梗塞のような病気は40代ごろから増え始め、50代、60代に多い病気として知られていましたが、最近では20代、30代の若者でも心筋梗塞になる人が増えている実態があります。「ノロノロ血流」とは、血液がスムーズに流れにくく、血管が詰まりやすい状態を指しています。

動物性の脂質や炭水化物中心の偏った食生活を続けていると、血液中に悪玉(LDL)コレステロールが増えてしまいます。悪玉コレステロールは血管の壁に付着する特性を持ち、血液の流れを邪魔してしまいます。付着した悪玉コレステロールは、ストレスなどが原因で発生した活性酸素によって、酸化LDLコレステロールに変化します。この酸化LDLコレステロールを体が異物として認識してしまい、自らを攻撃することで血管に炎症が起きてしまいます。そして、炎症が起きて傷ついた血管にプラークという「おでき」のようなものができると、血管が狭くなるため血液の流れが悪くなってしまいます。

さらに、これから夏本番、脱水症状になると、その危険度が高まります。脱水症状で体内が水分不足になることで血液の濃度が高まることに加え、暑さにより血管が広がり、血圧が低下してしまうため、血流にとって極めて酷な環境であると言えるでしょう。

ノロノロ血流は何が原因で起こるのでしょうか。

ノロノロ血流になる原因の一つは、偏った食生活です。レトルト食品やファストフードに頼ったり、お肉やご飯、パン、麺や甘いお菓子といった動物性の脂質や炭水化物中心の食生活の人は要注意です。また、最近若い女性に多くみられるのが、一見痩せているよう見えても、体の内側に脂肪がたまっている人で、このような人も「ノロノロ血流」になっている可能性があります。「特に不調もないし、痩せているから大丈夫」と他人事にせずに、食生活の偏りに心当たりのある方は注意が必要です。

また、夏の暑さによってたくさんの汗をかき、それに見合った量の水分を補給していないと、体が脱水状態になってしまいます。脱水状態になるとノロノロ血流がさらに悪化し、血管が詰まると命に関わる病気につながります。水分を摂取しても、体全体に浸透するまで20分ほどの時間がかかると言われています。水を飲んでも、すぐに血流がよくなるわけではないため、こまめに水分補給をしましょう。ただ、水分補給もあくまで対症療法でしかありません。危険な病気を防ぐには根本的な解決が必要になります。

ノロノロ血流にはどのような対策が有効でしょうか。

ノロノロ血流にとって脂質が悪のように感じてしまうかもしれませんが、摂りすぎることが悪であって、脂質そのものが悪者ではありません。脂質は体を作る細胞の細胞膜や、体の調子を整えるホルモンの材料、活動エネルギーになるなど、生きていく上で必要不可欠な栄養素です。
大事なことは、普段摂っている脂質の種類を意識すること。「油は油で掃除するのが有効」だといわれており、「オメガ3」と呼ばれる油で血液のめぐりを良くすることができます。

オメガ3が血液のめぐりを良くする仕組みとは?おすすめのとり入れ方も紹介

オメガ3にはどのような健康効果があるのでしょうか?

オメガ3とは脂質の主成分である脂肪酸のカテゴリの名称で、αリノレン酸、EPA、DHAが該当します。αリノレン酸はアマニ油やえごま油に多く含まれており、EPA、DHAは主にアジやサバといった青魚に多く含まれています。近年では物価高や調理の手間から魚離れが進んでいるとされ、日本人は政府が定める摂取基準※に対して、オメガ3が足りていない人が多いと言われています。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」

オメガ3には抗炎症作用があると言われており、酸化LDLコレステロールによって起こる炎症を抑え、血管を狭くするプラークを形成しにくくする働きがあります。また、オメガ3は血管をしなやかにし、血液を流れる赤血球も柔らかくする働きもあるため、血液の流れが改善され、体の隅々まで血液が行き届くようになるのです。

オメガ3はどのように食生活にとり入れれば良いでしょうか?

成人であればオメガ3の油を1日2g※を目安に、日頃から継続的にとり入れるべきですが、この場合、毎日生のアジを3匹食べる必要があり、続けるには少し大変かと思います。そのため、かけるだけで手軽にオメガ3を摂取できるアマニ油や、えごま油などの植物油もうまく活用してみてください。ただし、とりすぎには注意が必要です。アマニ油やえごま油は、1日小さじ1杯を目安に、普段とっている油と置き換える形でオメガ3をとり入れるようにしましょう。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」より

また、アマニ油とえごま油は熱に弱い性質をもっています。加熱調理に使用すると変質してしまうので、コーヒー・紅茶などの飲み物、ヨーグルトやサラダにそのままかけてとるのがオススメです。冷ややっこや味噌汁などの和食にもよく合います。

できることからコツコツと!普段から継続的な対策を

オメガ3をとり入れること以外にどのようなことを意識すれば良いでしょうか?

もちろん、血液の流れを良くすることにおいて、オメガ3だけ意識すれば良いというわけではありません。以下の対策もぜひ実践してみてください。

1.肉やご飯、麺、パンなどに偏らず、魚、野菜、果物などもバランスよく摂ることを心がけましょう。

2.ポリフェノールは酸化LDLコレステロールを血管から取り除く作用があるのでとり入れましょう。
具体的には高カカオチョコやオリーブオイル、飲み物では、緑茶、コーヒー、赤ワイン等に含まれています。

3.適度な運動を心がけましょう。まずは1日3,000歩以上歩くことを意識することから始めてみてください。

食生活の偏りに心当たりのある方は、夏場だけ意識するのではなく、普段から継続的に対策を行うことが大事です。始めやすいことからひとつひとつ改善してみてはいかがでしょうか。

佐田政隆 教授 プロフィール

徳島大学大学院医歯薬学研究部
循環器内科学 教授

1988年3月東京大学医学部医学科卒業後、同年6月に東京大学医学部附属病院医員(研修医)に。1990年6月には東京大学医学部第二内科に入局し、関東逓信病院循環器内科専修医として診療に従事。1994年10月に渡米し、Case Western Reserve大学医学部生理学教室および、Tufts大学St. Elizabeth病院心血管研究所に留学。帰国後、1999年4月に東京大学医学部附属病院循環器内科医員を務める。2002年5月に東京大学大学院医学系研究科循環器内科助手、2004年10月には東京大学大学院医学系研究科先端臨床医学開発講座客員助教授に着任後、2007年には同研究科の客員准教授に就任。2008年4月に徳島大学大学院医歯薬学研究部循環器内科学部門教授として着任。2021年4月より徳島大学病院検査部長を兼任。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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