「NNB10キートレンド」はこうやって読み解く!
日本人が知っておきたい食品健康ビジネス最先端【後編】

キートレンド7「脂肪の再定義」、キートレンド8「ムード&マインド」

キートレンド7の「脂肪の再定義」についてご解説ください。

米国で1980年代から1990年代にかけて広まった脂肪に対する恐怖感は完全に消え去り、その証拠に全脂肪乳の売上は2011年から2020年にかけてほぼ倍増しました。これは、科学の変化によって消費者の脂肪に対する認知が書き換わったためです。
ただし、脂肪の中で飽和脂肪酸と心疾患との関連性は否定された一方で、腸内細菌との関連性では一様に良いものとは言い切れません。さらに、わが国でも長く食卓を支えてきた菜種油などサラダ油の地位はこれから危うくなるでしょう。なぜなら既に、日本脂質栄養学会からサラダオイルが健康によくないということが提唱されているからです。

「脂肪の再定義」の戦略と具体的な事例には、どのようなものがありますか?

3つの戦略があり、5つのキートレンドが関連しています。成功を収めている企業は、脂肪はプラントベースに混ぜると食感が滑らかになって美味しくなることや、サステナビリティと来歴を加えることで罪悪感なく食べられるといった複数のトレンドを組み合わせて支持を集めています。

3つの戦略の中で新しく出現したのが、「種子油フリー」です。菜種、ヒマワリなどに多く含まれるオメガ6脂肪酸は健康維持に必要な栄養素ではあるものの、炎症を促進することで過剰摂取すると健康を害する可能性があると指摘されています。
ただ、まだそこまで知られている訳ではありません。健康に関心の高いアーリーアダプターの間でソーシャルメディアを中心に「種子油フリー」を提供する小売店を紹介するなど、小さいながらもその潮流は拡大しつつあるようです。

キートレンド8の「ムード&マインド」についてご解説ください。

覚醒や睡眠、集中力、エネルギーやムード、ストレスや不安などは以前から、世界各国の消費者が抱えている悩みです。しかし、ソーシャルメディア上における「ムード&マインド」に関する成分への注目度は決して高くありません。その中で2020年9月からおよそ1年半の間にインスタグラムでの投稿がいちばん増えたのは、ヤマブシタケとアシュワガンダでした。これらはいわゆるアダプトゲンと呼ばれる成分で、増えたとしてもカフェインやオメガ3脂肪酸などの検索数と比べるとその差は明らかです。

近年の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響もあって、若いミレニアル世代や将来が不安なZ世代でその関心がより鮮明になってきました。とはいえ、世界各地で進む高齢化を考えるとその市場は大きく、シニア層に向けたアプローチも考えなければいけません。

「ムード&マインド」の戦略と具体的な事例には、どのようなものがありますか?

3つの戦略があり、7つのキートレンドと関連しています。ストレスフルな現代において確実にニーズはあるはずなのに、成功していない理由は2つ。それは、脳に関して消費者が効果を実感することが難しいのと、原料コストが高くなりがちという2点です。
大切なのは日常的な食品を摂ることで人が良い気分になるという、ウェルビーイングの精神とも合致する部分でしょう。いわゆるヌートロピックやアダプトゲンのサプリメントで摂っても、「美味しい上に良い気分」という実感は得られません。例えば、気軽に摂ることのできるチョコレートやコーヒー、ココアなどがムードフードの代表格です。

まだ成功していない企業が多い中、比較的うまくいっているのがArepa社(ニュージーランド)のカシスや松樹皮エキスなどを使った製品です。ドリンクにサプリメント、パウダーとして展開しています。これが成功を収めた背景には、「全て天然成分」「おいしさ」「優れたパッケージ」に加えてメディアを使った巧みなマーケティング戦略がありました。

また、ここ数年の腸脳相関への関心はますます高まっています。科学の発展によりプロバイオティクスや発酵食品とヌートロピックが組み合わさり、腸と脳を同時にアプローチすることのできるイノベーションが次々に推進されていくことでしょう。
例えば、日本を代表するプロバイオティクス乳飲料の「ヤクルト1000®」は、ストレスの緩和や睡眠の質に的を当てた訴求で消費者から指示を集めています。ここにもメディアを使ったマーケティング戦略が存在したことは言うまでもありません。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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