「NNB10キートレンド」はこうやって読み解く!
日本人が知っておきたい食品健康ビジネス最先端【後編】

健康食品に寄せる消費者の心理やニーズは様々な社会情勢の影響を受ける一方で、そのトレンド変化は緩やかではあるものの確固たる理由が存在します。世界中で堆積されてきた失敗事例や科学的根拠を基に進化してきたトレンド、その背景にある社会情勢を把握するのはとても骨の折れる作業です。
これらを制する羅針盤となるようなトレンドレポート「NNB10キートレンド2023」(発刊 NNB、New Nutrition Business)を日本向けに紹介している株式会社グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛氏に、これをどのように読み解き、自社のマーケティング戦略に活かしていけばよいか伺いました。後編では、「10キートレンド」について詳しく解説していただきました。

「10のキートレンド」それぞれの市場動向と展望をつかみ戦略につなげる!

キートレンド1の「炭水化物(ベネフィットのある穀物、より少なく、より環境に優しく)」についてご解説ください。

炭水化物のカテゴリーを持つ企業の未来は明るく、非常に工夫の施し甲斐があると言えるでしょう。なぜなら、ベネフィットがプラスされることで、消費者は大好きな炭水化物を罪悪感なく食べることができるからです。経済的な理由からも、消費者は手軽な価格で満足できる炭水化物に注目しています。これは2020年から2021年に起こったロックダウンの中で起こった、炭水化物の需要急増を見ても明らかでしょう。

多様化する消費者の心理に対応して、炭水化物をなくすのではなく、より少なくこだわるということが有効です。特に体重管理や腸の健康、血糖値管理、単に良い気分になりたいなどの強力なニーズがトレンドを後押ししています。
“主食抜きダイエット”が一部で根強く残っているものの、炭水化物は大切な食文化の一部です。そして何より、人間は炭水化物が好きでこれを楽しみ続けたいということ。これを罪悪感なく食べられるように工夫すれば、消費者に歓迎されることは間違いありません。

「炭水化物」の戦略と具体的な事例には、どのようなものがありますか?

戦略は3つあり、他の9つのキートレンドと関連付けることも難しくありません。明るい未来への道のりに必要なのは、食と健康に寄せる消費者の多様な心理を踏まえた創造的な製品の再発明です。

成功の一例として、Kodiak Plant-Based Flapjack & Waffle Mix(中略)というブランドの全粒粉と植物性プロテインを使用して作ったワッフル用の粉があります。全粒粉に動物性プロテインやリアルフードの伝統など、複数のトレンドを交えて消費者の心をつかんでいます。ここで、全粒粉と食物繊維の持つ健康効果は1990年代初頭から公衆衛生当局が強力なメッセージとして発信し続けていることもあって消費者に広く浸透し、欧米ではもはや差別化にはなりません。

対する日本では全粒粉の重要性はまだほとんど知られていないこともあり、2022年にはオートミールが一時的に流行りました。一方で全粒粉入りのサンドウィッチなど一部の商品で、全粒粉がわずかしか含まれていなかったというのも記憶に新しい問題です。多くの消費者に全粒粉は消化に良いと認識されつつあります。ただし、購買行動には経済状況の影響を受けやすいことも注意してください。

戦略1つ目の「ベネフィットを加えたより良い穀物」は、天然の機能性を活かした健康への強い影響力を持つ穀物です。代表的なのはオーツ麦で、キヌアやライ麦なども当てはまります。成功例では、全粒小麦とオーツ麦を加えることでNutri ScoreA評価という栄養評価を目立たせているNestle社(欧州)のシリアル「Fitness®」が有名です。
あと、米国で最も売れているオーガニック全粒粉パンで、“たんぱく質6g”や“高果糖コーンシロップ不使用”、“職人技”という風なメッセージを併記した「Killer Bread Burger Buns®」。そのほか多くの成功例で、全粒粉に説得力のある他のベネフィットを足しているということが共通しています。

※Nutri-Score:2017年、初めてフランスが正式に採用した栄養評価ラベルで、健康的で栄養価の高い方から、最高ランクの緑、黄緑、黄色、オレンジ、そして最低ランクの赤のどれかが表示される。

 

2つ目の「より緑の炭水化物」は、消費者自身が目標に向かって前進しているのを感じることのできる戦略です。主食や間食などのカテゴリーによっては罪悪感なく食べられることを叶え、そのコンセプトは2010年頃に開発されました。
成功事例では2014年に大手ベーカリーグループのFazer社(フィンランド)が発売した、野菜が33%を占める全粒粉パンがあります。ほかにも、ズッキーニを主原料とするマフィンや35%以上が野菜でできているチョコレートスナック、レンズ豆を使ったパスタなど見た目にも鮮やかです。

3つ目の戦略は「より少なく+ケトライト」です。いわゆる厳格なケトダイエット(低炭水化物かつカロリーの6~8割を脂肪にする)は、2023年をピークに頭打ちとなるでしょう。なぜなら、ケトライトアプローチと呼ばれる、時と場合によって炭水化物の量を変えながら食事を摂っている消費者が大多数だからです。
現に成功しているのは単純に炭水化物を減らしたものではなく、たんぱく質や野菜、ナッツ、スナック化、血糖値管理、サステナビリティなど他の利益となる要素を追加した製品です。

キートレンド2の「多様化する腸のウェルネス」についてご解説ください。

腸の健康ではいくつもの戦略がある中で正解を求めるのではなく、人によって支持するものが異なるという部分を理解して製品を設計することが重要です。例えば、すこし前から一般的な単語になりつつあるプロバイオティクスや、サステナビリティの観点でも知られるプラントベース乳代替品、日頃の食事で疾患の発症を抑えようとする低FODMAPS※など、腸の健康をめぐる目的は多様化しています。

世界保健機構(WHO)によれば、3人に1人は人生のある時点でなんらかの腸に関する悩みを抱いているのだとか。このトレンドの背景にあるのが、科学の進化と世界的な人口高齢化です。中でも消化器官と不安、ストレス、体重管理、糖尿病、アレルギー、自己免疫疾患に関する研究や論文発表を見かける機会が増えてきました。最近では「腸脳相関」という概念も徐々に広まってきて、関連する書籍を読んだ人もいるかもしれません。

※オーストラリアで開発された食事方法で発酵性の炭水化物や単糖、二糖類を極力減らした食事にすることで腹部膨満感を起こり難くすることが期待できる。過敏性腸症候群(IBS)を持つ人に対して推奨されている。

「多様化する腸のウェルネス」の戦略と具体的な事例には、どのようなものがありますか?

戦略は9つあり、他の4つのキートレンドと関連しています。最近では子ども向けの市場に対してイノベーションの可能性に注目が集まる一方で、腸に関して何かしらの悩みを抱える40歳以上のミドルシニアに対してもニーズの高い分野です。この分野では、消費者が顕著に利益を実感できなければ成功はありません。

インスタグラム(Instagram、以降インスタグラム)で消費者の関心度合いを見てみると、最上位が「プロバイオティクス」で「発酵」が2番目。その一方で、業界がずっと発信し続けてきた「プレバイオティクス」は、「低FODMAP」や「マイクロバイオーム」といった専門的な単語よりも低いという結果でした。見方を変えれば、消費者の意識がまだ低い専門的かつ科学的根拠に基づく戦略が立てられる分野は、新しいチャンスとも言えるでしょう。

「プロバイオティクス」が特にアジアや太平洋地域で2020年に急増したのは、COVID-19の影響もあるだろうと考えられています。一方でシリアルやパン、お茶など「プロバイオティクス」の新しいカテゴリーを作ろうとする試みの95%は失敗すると言われているのも事実で、おそらくこの状況が変わることはありません。

「プロバイオティクス&発酵」という戦略では、単に「腸の健康」と結びつけるだけでは成功しません。なぜなら、消費者にとって目新しさはない上に、死菌や生菌、乳酸菌とビフィズス菌といった区別もついていない人が多いからです。もはや、「プロバイオティクス」という単語は補助的に安心感を与えるだけのメッセージに過ぎず、区別がないということを前提にメッセージを出していく必要があります。

一方で他の複数のトレンドと関連付ければ、明るい未来を切り開く可能性も十分あるでしょう。現に、Graham’s Family Dairy社(スコットランド)のアイスランド・ヨーグルト「SKYR®(スキール)」は高たんぱく質で他社製よりも30%少ない砂糖と、全て天然成分であることを関連付けた結果、英国全土の小売店で販路を確保しました。
また、元フィギアスケート選手が作った「Biotiful®」は来歴や免疫などと関連付けることで、米国市場に換算すると2億ドルに相当する黒字を計上しています。(2022年の小売売上)

それから「食物繊維」という戦略でも、「プロバイオティクス」と同様に消費者の多くが水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を区別していません。これを成功させるには食物繊維の含有量を明確に記載することと、やはり他の複数のトレンドと関連付けて消費者が実感を得られるような製品にすることが重要です。
成功事例では、プレバイオティクスとして機能するレジスタントスターチのアミロースを94%含むArcadia Biosciences社(米国)のパスタ「DoodWheat®」が、その高い含有量を目立たせています。あと、まだ日本ではあまり認知度の高くないイヌリンは、糖質量を抑えながら満腹感も得られるということで欧州では非常に重宝されているようです。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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