腸内細菌が深く関与。
「脳腸相関」で腸活に新しい健康価値

緊張などでお腹が痛くなる経験は、誰もが一度はあるのではないでしょうか。最近、この脳と腸の関係「脳腸相関」に腸内細菌が深く関わっていることがわかり、「脳・腸・腸内細菌」の三者の関係という新しい概念へと進化しています。今回は新しくなった脳腸相関について解説します。

脳腸相関とは? 腸は第二の脳

脳と腸は自律神経やホルモン、サイトカインなどを介して、相互に密接に影響を及ぼし合っています。この双方向的な関連を脳腸相関といいます。例えば、ストレスを感じるとお腹が痛くなって下痢や便秘などの症状が現れたり、腸管で炎症が起こると脳での不安感が増して行動や食欲に変化が見られたりします。このようなことから、腸は「第二の脳」とも呼ばれています。

脳腸相関の裏には腸内細菌の存在が

近年、次世代シーケンサーによるメタゲノム解析やメタボローム解析などの発展によって、腸内細菌が脳腸相関に大きな影響を与えていることが明らかになり、「脳腸相関」または「脳腸軸」と呼ばれる新たな相互関係の存在に注目が集まっています。
これまではストレスによって腸管運動が亢進して、腹痛や下痢などの症状が現れると考えられていました。しかし実際にはそれだけでなく、ストレスによって腸内細菌叢に変化が起こることで、消化器症状が出現していることがわかりました。

一方で、腸内環境が改善して有用菌が増えることで、ストレス耐性が強化されたり、認知機能が維持されたりする可能性が示唆されました。このように、これまで考えられていた脳腸相関の裏では、腸内細菌が大きな役割を果たしているのです。

注目は腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸

腸内細菌が脳腸相関に影響を及ぼすメカニズムもわかってきました。たとえば水溶性食物繊維を摂取することで食欲が抑えられます。これは、腸内細菌が食物繊維を腸内で発酵させて短鎖脂肪酸を産生し、短鎖脂肪酸が脳に働きかけることで起きています。短鎖脂肪酸によって、脳は腸管粘液細胞にブドウ糖を作るよう促します。食事から時間が経っても腸内でブドウ糖が作られるために血糖値とインスリン値が安定し、食欲が抑えられると考えられています。

また短鎖脂肪酸には抗うつ作用があったり、腸内細菌が精神の安定につながるセロトニンの前駆体を作っているなどの報告があったり、精神の安定にも腸内細菌は大きな役割を果たしています。
またその逆の関係も見られます。怒り、不安、恐怖などを想起する心理ストレスが加わると、腸内細菌叢に変化が起こることがわかっています。

「腸活」の新たな価値を提案

ヨーグルトや発酵食品などで有用菌を直接摂取するプロバイオティクス、有用菌のエサとなる食物繊維などを摂取するプレバイオティクス、その両方を同時に摂取するシンバイオティクスなどは「腸活」と呼ばれ、これまでにも健康意識の高い人たちの間で積極的に取り入れられてきました。その多くは排便リズムを整えることや、全身の健康状態を維持することを目的として行われてきました。それに加えて最近では、「脳腸相関」に着目したサプリメントやドリンクなども登場し、脳腸軸をテーマにした新しい商品やサービスが広がっています。

腸内環境とメンタルヘルスという、健康における大きな関心分野をつなぐ「脳腸相関」。これからは腸内細菌叢を整えることで脳に働きかけ、身体的だけでなく精神的な健康維持を目指すことが、腸活の新しい価値として浸透するかもしれません。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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