NNB10キートレンド著者に聞く!
食品健康ビジネスにおける成功の鍵
各トレンドにおける動向と成功例に学ぶ、これからの事業戦略
近年めざましく注目を集める「たんぱく質」のトレンドについて、どのように見ていますか?
「たんぱく質」は「キートレンド」にも含まれ、いま世界のトップを走る多くの企業がほかにプラスの要素と関連付けて発信しているトレンドです。プラスの要素というのは、たとえば骨の健康や体重管理などですが、インターネット上ではこれらよりも「たんぱく質」の方が多く検索されています。
そして、“消化器系”や“免疫系”といったサイエンスに関する単語よりも「たんぱく質」の方が検索数が多い理由は、その多彩なメリットについて消費者が理解していることの現れとも言えるでしょう。
したがって、近年ますます理解度が高まる消費者の期待に応えるには、さまざまな観点からこれに対して向き合う必要があります。そのひとつが、「動物性たんぱく質」と「植物性たんぱく質」をめぐる課題です。
たとえばサステナビリティに関する課題のほか、体内への吸収率、味など嗜好性についても考える必要があるでしょう。
「たんぱく質」の課題に対する取り組みとして、具体的にどのような成功例がありますか?
たとえば、アメリカのヨーグルトを販売する企業では消費者に対して「たんぱく質」の質の良さを伝えるメッセージを発信することで、3,440万ドルもの売り上げを達成しました。一方では、チーズを“スナック化”して“糖質を下げる”というメッセージを組み合わせる企業もあります。
また、グラスフェッド※は「たんぱく質」の新しいベネフィットとして近年、とくに注目を集めています。その理由はサステナビリティへの関心だけでなく、動物愛護や健康に対してプラスになるという、分かりやすいメッセージが消費者の心をつかんでいるからでしょう。
※グラスフェッド:放飼で牧草や干し草を食べて自然の環境だけで育った牛のこと。
続いて、「栄養素密度」に関する最近の動向について教えてください。
「栄養素密度」は最近、子どもの健康に関連したテーマとして脚光を浴びています。たとえば、高品質な「たんぱく質」にアボカドやオリーブなどの「良質な脂肪」を組み合わせた製品です。アメリカで子ども向けブランドとして製品を売り出した企業では、2022年に20%も売り上げを伸ばしました。
こうした天然の原料が成功をおさめる一方で、技術やイノベーションを駆使した製品を提供しようとする試みも始まっています。それは、プラントベースのミルクをつくる企業です。
本来、プラントベースというのは栄養価が低く、原材料が複雑になってしまうことがデメリットでした。これを払拭するべく、テクノロジーを使い優れた栄養素密度をそなえる、加工プロセスの少ないシンプルな製品が登場しています。
日本でも、「栄養素密度」に注目することは、ビジネスのチャンスとなり得るのでしょうか?
チャンスの可能性は大いにあります。なぜなら、長寿国として日本は世界をリードし、似た境遇のノルウェーで成功している例があるからです。人口の少ないノルウェーでも、60歳以上のひとが約2割を占めています。そのような中、乳製品を製造する企業が高い栄養素密度をもち、味と食感のよい製品をつくってシニア世代に向けに販売しました。現在、その売上高は300万ドルとも言われています。
成功の要因は、ターゲットとする層に向けてポジティブなメッセージを添えたことでしょう。そこには、「歳をとっても元気に楽しく、人生において色々なことができる」と発信しています。
同様の展開はアジアでも見られました。それは総売上高7億ドルを誇る乳製品ブランドのAnleneで、乳由来成分MFGM(乳脂肪球皮膜)を添加した世界初のブランドです。
続いて、「糖質」や「脂肪」の動向について教えてください。
一昔前は、“脂肪は最大の悪魔”と言われていましたが、近年ではこれが「糖質」に置き換わりつつあります。面白いのは、単に糖質を減らすだけではなく、たんぱく質をプラスするといったほかのベネフィットの組み合わせが功を奏するという点です。
たとえば、ポルトガルやスペインで老舗のチョコレートブランドが、ダークチョコレート(低糖質)にホエイプロテインを配合しているものがあります。シンガポールやドバイなどでは、たんぱく質を配合したドーナツも販売されています。これらは、糖質を気にする若い世代の女性や、健康を気にするオフィスワーカーに好評です。また、脂肪が含まれる食品については若い世代を中心に売り上げが伸びています。
なぜ、若い世代で脂肪が含まれる製品の売り上げが伸びているのでしょうか?
ひとつには、消費者の年齢層によって嗜好性が細分化されているためです。2021年にメディカルジャーナルで脂肪に関する研究結果が示されたこともあり、「低炭水化物で高脂肪の食事が健康によい」という認識が広まってきました。
たとえば、イギリスのスーパーで見るヨーグルトの売場は、脂肪分が10%のものと0%のものが一緒に並んでいます。これは5年前にはなかった光景です。ここで、人生の中でずっと脂肪は悪者だと刷り込まれてきたシニアは0%のヨーグルトを買います。一方で、脂肪を恐れる必要はないという新しいメッセージを受け入れている若い世代では、腹持ちがよく味もおいしい10%のほうを買うのです。
「腸のウェルネス」については、どのように見ていますか?
「腸のウェルネス」はどの業界においても関心が高く、ソリューションの数も膨大で非常に競争の激しい分野です。その結果、大きなヒットにつながるようなブランドは生まれていません。多くのカテゴリーがあるうち、消費者から支持されているのが「プラントベース乳代替品」と「乳糖フリー乳」。前者でもっとも人気が高いのはアーモンドミルクで、オーツミルクとともにプラントミルクの代表格とも言えます。
ここで、2015年に登場した「乳糖フリー乳」は高たんぱく質であることや低糖質という特徴もあって人気を博し、今や年商10億ドルに成長しています。極め付きは、通常10~18個もの原材料を含む複雑なプラントミルクと比べて原材料のリストが短いこと。結果として、「乳糖フリー乳」は「プラントベース乳代替品」のベネフィットであった「消化器系によい」というベネフィットさえも勝ち取ったと言えるでしょう。