NNB10キートレンド著者に聞く!
食品健康ビジネスにおける成功の鍵

食品健康ビジネスでチャンスをつかみ、自社製品を成功へと導くには国内トレンドに加えてグローバルなメガトレンドを把握し、戦略を立てることが必要です。しかし、トレンドの背景にある社会情勢や多角的な視点での分析をおこなうことは容易ではありません。

そこで、世界的な大手企業やスタートアップ企業など幅広い専門家が参考にしている「NNB10キートレンド2023」の著者でNew Nutrition BusinessのJulian Mallentin氏に、ニュートリション業界の最新海外トレンドについてうかがいました。とくに、日本と欧米の相違点をふまえたビジネスチャンスや参考となる成功事例、さらに失敗事例に関する解説は必見です。

安定した市場を生むのは、トレンドの成り立ちと時代の移り変わりを踏まえた事業戦略

NNB(ニュー・ニュートリション・ビジネス)では2006年から毎年、事業戦略を練るうえで必要な食品健康ビジネスにおけるグローバルトレンドを見極めるための業界専門レポート「10キートレンド」を発刊しています。はじめに、配信されている最新トレンドの見方について教えてください。

私たちが配信しているトレンドは、大きく2つに分類できます。1つ目は、世界各国のどのカテゴリーにおいても共通し、食品業界だけでなくSDGsなど社会的な分野でも考える必要のある5つの「メガトレンド」です。
この5つは、否が応でも取り入れていかなければ売り上げや成長につながりません。
そしてもう1つは、個々の企業や団体が選んで自由に組み合わせることのできる、10の「キートレンド」です。これらは毎年さまざまなものが登場するため、私たちは1年中、パラメーターを定性的かつ定量的に追い続けて分析をおこなっています。

 

「キートレンド」はどのようにして決まるのでしょうか?

「キートレンド」を決めるときに重視しているのは、そのトレンドが最低5年間は業界に大きな影響を与え、持続する収益をあげながら成長の機会を生み出せるものかという点です。企業が安定した研究開発の向上をかなえるには、消費者の行動やニーズに加えて栄養科学の進化にも目を配る必要があります。また、消費者が期待するヘルスベネフィットを実現するためには、原料と技術が重要であるということも忘れてはいけません。

そして、これをどのように決めているかというと、主にインターネット上での情報収集に関する世界中から集めたデータの分析によっておこないます。

10年前や20年前と比べて、トレンドの捉え方に変化はありますか?

それは、大いに変化したと言えるでしょう。インターネットの登場により、世界中の人々が自由に情報を得ることが可能になりました。かつて、大学の研究者や医師など、閉ざされた中で議論されていた栄養科学の分野も例外ではありません。さらに現代では専門家の英知に対して、ひとり一人が疑問視を投げかけることもできます。こうして人々の食と健康に関する信念が多様化した結果、市場は細分化し、企業はより戦略的な事業の展開を求められる時代になったのです。

以前は1つの商品に対して1つのヘルスベネフィットでよかったものが、今では1つの商品で複数のヘルスベネフィットを提供しなければ、消費者の信念やライフスタイルに応えることができません。

消費者の信念に応えつつ、細分化された市場で成功するために必要なことは何でしょうか?

細分化された市場はよい意味で、“ニッチマーケット”と捉えることができます。消費者が自ら考えて信念に合ったものを選ぶ現代では、単なる情報提供ではなく、メッセージを盛り込むことが必要です。そして、このメッセージの立役者となるのがメディアの存在です。

たとえば、「メガトレンド」の1つでもある「天然」は、健康とナチュラルであることを紐づけたストーリーをメディアが好んで発信していることも背景にあると言えるでしょう。欧米の企業や業界に関する団体は、科学的なエビデンスなどを含むあらゆる情報をメディアに対して伝えています。なぜなら、メディアは健康に関してポジティブなストーリーを常に求めているからです。こうして広く発信されたストーリーが、細分化された市場でニッチな嗜好性をもつ消費者に対し、メッセージとして届きます。

市場の動向を分析し、日本と海外の違いやヘルスクレームの捉え方を知る!

市場の動向では、消費者とブランドの位置づけや販売数と売り上げの関係性についてどのように見ていますか?

市場には2つのセグメントがあり、消費者の6~7割を占めているのはいわゆる“マスマーケット”と呼ばれるセグメントです。これは価格やブランドによって消費者が動機づけられる市場で、販売量が多く競争率も激しいために価格は下がる傾向があります。

対して、“ライフスタイラー&アーリーアダプター”と呼ばれるセグメントは、より健康的で新しいものに対して積極的にお金をつかうセグメントです。これはヨーロッパやアメリカでは25~30%ほどと言われていますが、日本ではもっと多いでしょう。

2つのセグメントのうち、成長の可能性があるのはどちらの市場でしょうか?

収益を大きく生み出すのはマスマーケットですが、多くの企業にとって課題となるのは、“マスマーケット”に入ってしまうと成長の可能性が乏しく、製品の寿命が短くなることです。したがって、新しいアイデアやコンテンツは、“ライフスタイラー&アーリーアダプター”のセグメントから入って徐々に種をまいていき、安定かつ持続的な成長を目指していこうとする企業がほとんどでしょう。どちらのセグメントにせよ、消費者に対して自社ブランドの位置づけをすることが必要です。

たとえば多国的企業であるダノン社は、コレステロールを下げるといった機能性や50歳以上の女性に響くようなメッセージなど、非常に小さいセグメントを対象に展開しています。また、近年では“日本らしい食”が注目を集めており、これもまた少数の消費者に向けた“ニッチ”な市場です。

日本は欧米諸国よりも、“ライフスタイラー&アーリーアダプター”の割合が多いと考える背景には、どのような理由がありますか?

それは、日本が教育水準の高い社会だと考えるからです。私が書いた「ヘルスクレーム(機能性表示)の幻想」や「失敗ケーススタディ」では、過度にヘルスクレームに対して依存することで失敗した例を紹介しました。欧米では、ヘルスクレームをつけたとしても消費者はヘルスクレームに影響されずに、自ら導いた結論に至ることが多いようです。つまり、そこでヘルスクレームの担う役割は大きくありません。

対して日本なら、ヘルスクレームの背景にある価値が消費者に伝われば、日本人はそれを受け入れてくれるでしょう。つまり、日本ではマーケティングにおいて、ヘルスクレームが一定の役割を担うということです。

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