個別化栄養・ヘルスケアのカギを握るポストバイオティクスとは

いま、プロバイオティクスやプレバイオティクスの一歩先を行く「ポストバイオティクス」が注目されています。新しい市場として、個別化栄養・ヘルスケアの実現に重要な役割を果たすかもしれません。今回はポストバイオティクスの可能性について解説します。

プロバイオティクス・プレバイオティクスのその先、ポストバイオティクスとは?

ポストバイオティクスとは、人が摂取した食品をもとに腸内細菌が作り出す代謝物のうち、人にとって有益な働きをするものの総称です。たとえば、ビフィズス菌が食物繊維を代謝することで産生される酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸は代謝促進効果があり、脂質異常症、高血圧症、糖尿病の改善・抑制効果が期待されるポストバイオティクスです。
いま食品業界やヘルスケア産業などの注目は、腸内細菌を直接摂取するプロバイオティクスや腸内細菌のエサなどを摂取するプレバイオティクスから、ポストバイオティクスへとシフトしつつあります。その背景には、腸内細菌の個人差があります。

腸内細菌の違いがポストバイオティクスによる健康効果の違いを生じる

食品による健康効果を得るために同じ種類、同じ量を摂取しても、全ての人が同じ効果を得ることはできません。なぜなら、腸内に生息する細菌の種類や組成は人によって異なることで、産生されるポストバイオティクスにも個人差が生じるためです。実際に、健康な人の糞便中の酢酸や酪酸の量を測定すると、多い人と少ない人では数十倍以上の差が認められました。
一方でこれを応用すれば、腸内細菌叢の違いを観察することで食品成分の効果を予測でき、その人にとって最適な食品を選択できる「個別化された栄養・ヘルスケア」の実現につながる可能性を秘めています。

腸内細菌の予測が個別化栄養・ヘルスケアを実現

現在、機械学習・AIが腸内細菌叢の違いから、食品の代謝やポストバイオティクスの効果の予測を行う研究が進められています。
大麦の摂取量が多い人を脂質異常症とそうでない人に分け、腸内細菌叢を比べました。その結果、脂質異常症でない人の方が多様な腸内細菌を有しており、短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌の割合が高いことがわかりました。さらに、機械学習の手法を使って脂質異常症の人を対象に大麦摂取効果を予測するモデル構築を試みたところ、脂質異常症とそうでない人を区別する判別モデルが構築され、腸内細菌のデータによって食品の健康効果の予測が実現できる可能性が示されました。

実用化に向けては予測精度の向上やシステム化などが必要ですが、これが実現されれば、個人ごとに最適な食品を選択する技術の開発などが進み、これまでにないような個別化栄養・ヘルスケアの実現が将来展望として期待されています。ポストバイオティクスに注目した腸内細菌の研究が、新たなヘルスケア市場を生み出すかもしれません。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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