【後編】栄養の力で心身の健康を目指す「オーソモレキュラー栄養療法」

栄養を健康の基盤とし、細胞が必要とする栄養を補うことで細胞を修復・活性化し、心身の健康を目指す「オーソモレキュラー栄養療法」。その第一人者であり、日本初の専門クリニック「みぞぐちクリニック」を開設した溝口徹先生に、オーソモレキュラー栄養療法の視点から、三大栄養素(タンパク質、脂質、糖質)の捉え方や、最新の栄養トピックスなどを紹介していただきます。

タンパク質は量と吸収率で見極める

オーソモレキュラー栄養療法がきっかけでタンパク質の重要性を知ったという話をよく聞きます。あらためて、オーソモレキュラー栄養療法ではなぜタンパク質を重視しているのか教えてください。

ご存知の通り、私たちのすべての細胞はタンパク質で構成されています。体を機能させる酵素はタンパク質そのものですし、成長ホルモンやインスリンなどホルモンの多くもペプチドホルモンです。私たちの体を作り、動かしているのはすべてタンパク質です。タンパク質の代謝を円滑にすることで、病態が改善したり、健康レベルが上がったりすることはよくあります。

タンパク質の摂取量が不足している人は多いですか?

多いですね。患者さんに「肉や魚を食べていますか?」と尋ねると「食べています」とおっしゃるのですが、摂取量を聞いてみると1日100g未満。それではまったくタンパク質不足です。また、1日のエネルギー摂取量そのものが不足している場合も、タンパク質がエネルギーとして消費されてしまうので、結果的にタンパク質不足に陥っている可能性があります。

タンパク質の代謝を改善するにはどうしたらよいのですか?

最も大切なのは、タンパク質の消化吸収能力を確認することです。この能力は、血液検査のペプシノーゲン値、胃の内視鏡検査、問診などからわかります。タンパク質を消化吸収する能力が低い場合は、肉や魚などの摂取量を増やしてもらうことに加えて、プロテインやアミノ酸のサプリメントを処方します。また、タンパク質代謝に必要なビタミンB群のサプリメントを処方することもあります。さらに、摂取するタイミングを工夫することで、タンパク質の摂取効率を上げることもできます。

摂り方によって、タンパク質代謝が変わるのですか?

筋トレをする人は、トレーニングの直後にプロテインを補給しますね。それはトレーニングによって筋肉中のタンパク質の異化(=分解)が進み、タンパク質を吸収しやすい状態になっているからです。そのタイミングでタンパク質を補給すると効率よくタンパク質を同化し、筋肉を作ることができます。私たちの生活の中でタンパク質の異化が最も進むのは夜、寝ている間です。そこで、起床後すぐに肉や卵などを食べるとタンパク質をうまく吸収できるのです。あわせてビタミンB群や脂質を摂るとさらに効果的ですね。

オーソモレキュラー的に見る脂質と糖質

三大栄養素のうち、脂質は悪者にされがちですが、オーソモレキュラー栄養療法では脂質についてどうとらえていますか?

脂質のうち、肉や乳製品など動物性脂肪に多く含まれる「飽和脂肪酸」やココナツオイルに代表される「中鎖脂肪酸」は優秀なエネルギー源です。常温で液状の「不飽和脂肪酸」には、n-3系のDHAやEPAなど健康のために欠かせない油もあれば、n-6系の一部のように摂りすぎはよくない油もあります。油だからといって一概に避けるのではなく、良質な油を選び、十分に摂るべきです。

糖質に関してはいかがでしょうか?

予備的なエネルギー源と考えています。タンパク質や脂質を中心にエネルギーを摂取し、足りない部分を糖質で補うという考え方です。糖質をとれば必然的に血糖値が上がり、健康リスクを招く場合がありますから摂り方には注意が必要です。ただし、子どもの場合は必要なエネルギーを確保するために糖質が必要です。

糖質はどのように摂ればよいでしょうか。

食事中に糖質を摂るのは最後にすること。間食で糖質だけを摂るのは避けていただきたいですね。疲れているときや落ち込んでいるときに糖質を摂ると、血糖値が上がって脳が一時的に落ち着きますが、この作用には依存性があるので「疲れたときは甘いもの」を習慣化するのはやめましょう。

正しい栄養知識を身につけ、活用する

栄養について、溝口先生が懸念されていることはありますか?

市販のサプリメントが濫用されているケースが多いことが気になっています。とくに外国製のサプリメントを個人輸入して利用し、体調を崩して私たちのような栄養療法専門のクリニックに駆け込んでくる人が少なくありません。その一例がキレート鉄のサプリメントです。食事や一般のサプリメントから経口摂取する限り、鉄の過剰症を起こすことはほとんどありませんが、キレート鉄は通常の経路を飛び越えて吸収されるため、鉄の過剰症や肝機能トラブルを起こすケースが増えています。

そうした健康被害を防ぎ、栄養を適切にとるにはどうしたらよいでしょう。

1人1人が栄養について正しい知識をもつことが不可欠です。基礎知識を身につけるだけでも日々の食材選びや食事が変わってくるはずです。女性なら、月経トラブルを防いで妊娠・出産・授乳が順調になりますし、健康なダイエットや肌作りにも役立てることができます。

オーソモレキュラー栄養療法に基づいた栄養知識を学ぶことはできますか?

オーソモレキュラー栄養療法をより多くの方に役立てていただくために「一般社団法人 オーソモレキュラー栄養医学研究所」を設立しました。当初は医師や看護師、保健師など医療系の国家資格をもつ人のためにセミナーなどを開催していましたが、近年、一般のみなさんから栄養について学びたいという要望が増えてきたため、「ONE養成講座」を立ち上げました。ONEとはオーソモレキュラー・ニュートリション エキスパートのことです。この講座では、オーソモレキュラー栄養療法の概要や最先端の栄養学、理想的な食材やサプリメント選びについてオンラインで学ぶことができます。

ヘルスケア産業、ウェルネス産業に携わる人にも役立ちそうですね。

その通りです。ONE養成講座で学べる基礎知識を活用すれば、それぞれのビジネスをより深め、広げていくのに有効です。最近はメディアでも玉石混交の健康情報が氾濫していますし、フェイクニュースの問題もありますから、正しい情報を見極められる知識を身につけ、健康な社会づくりに貢献していただきたいですね。

<インタビュー前編はこちら>

溝口 徹 医師 プロフィール

みぞぐちクリニック院長。横浜市立大学医学部付属病院、国立循環器病センター勤務を経て、1995年に神奈川県藤沢市に痛みを専門に扱うペインクリニックとして溝口クリニック(現 辻堂クリニック)を開設。2000年よりオーソモレキュラー的アプローチを一般診療に応用し始める。2003年、日本初のオーソモレキュラー栄養療法専門クリニックを開設。2021年に東京・八重洲に移転し、みぞぐちクリニックを開設。毎日の診療とともに、患者や医療従事者向けの講演活動を行っている。https://mizoclinic.tokyo/


ウェルネス総研レポートonline編集部

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