「世界市場を切り拓く『細胞ケア』研究の社会実装化」セミナーレポート

オートファジーをはじめとした、世界基準での『細胞再活性化(細胞ケア)』市場は、今後のウェルネスにおいて重要かつ注目の分野でもあることから、創薬や食品素材に関する社会実装化の動きも加速しています。
一般社団法人ウェルネス総合研究所は、「世界市場を切り拓く『細胞ケア』研究の社会実装化」について、2021年10月19日(火)にメディア向けオンラインセミナーを開催しました。その内容をレポートします。

産学のリーダーが語る 世界市場へ向けた細胞再活性化研究の社会実装

本セミナーでは、オートファジー研究の世界的権威・大阪大学の吉森保先生に、アカデミアの領域からみる『細胞再活性化(細胞ケア)』研究の社会実装化への期待についてお話しいただいたほか、実用化に向けた企業の取り組みとして株式会社ダイセルの卯川裕一氏に「腸内代謝物素材開発の方向性と実用化へ向けたウロリチンの最新エビデンス」を、UHA 味覚糖株式会社の松川泰治氏には「『細胞再活性化』による健康領域への新しい取り組みと展望」、日本オートファジーコンソーシアム事務局長の石堂美和子氏には、社会実装を進める上での産学連携などについてお話いただきました。
また、最後に健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏もまじえ、ご登壇いただいた吉森先生、卯川氏、松川氏、石堂氏とともに、世界市場を狙える日本の新産業への期待についてクロストークを行いました。

アカデミアより~基礎研究で世界をリードする研究者が自分たちの手で社会実装を

まずはアカデミアから、大阪大学大学院・生命機能研究科及び医学系研究科教授の吉森保先生が「細胞再活性化研究の社会実装化への期待」と題して、細胞再活性化(細胞ケア)研究と「ビヨンドエイジング」との関係を解説。ビヨンドエイジングとは、老化は不可逆的ではないと考える現代の生命科学における世界的な潮流で、その基礎となるのがオートファジー研究に代表される細胞ケア研究です。

オートファジー分野の基礎研究は日本が世界をリードしている一方、特許となると諸外国に先を越されているなど社会実装の段階になるというのは非常にもったいないこと。そこで、基礎研究で積み重ねてきた成果を自分たちの手で社会実装していくべきではないかと、吉森先生は自ら大学発のベンチャー企業を立ち上げられました。

ここでは、得られたお金を使った基礎研究により新たなシーズを生み出しエコサイクルをまわしていく仕組みづくりを目指しています。創薬から食品、コスメまで多彩な分野の様々な業種の企業が参加可能なオープンイノベーションプラットフォームです。

さらに、こうした基礎研究を社会実装に活かすことや、そのための生活者の理解を得るために設立されたのが一般社団法人日本オートファジーコンソーシアムです。産業界との連携を図って事業基盤の構築、人材育成、正しくオートファジーを計測するための認証制度、情報発信など、オートファジーに関連する産学の活動を促進することで、我が国の経済発展と国民生活の向上に寄与することを目的に活動を進めています。

素材開発企業より~細胞再活性化を促す食品素材ウロリチンの可能性

続いて産業界からは、ヘルスケアに関わる各種素材・原料を開発する株式会社ダイセルの卯川裕一氏が「細胞再活性化を促す食品素材ウロリチンについて」と題して、同社が手掛ける細胞再活性化素材「ウロリチン」の最新エビデンスについて発表しました。

ウロリチンは2016年に国際学術誌「Nature Medicine」に損傷ミトコンドリアの分解(マイトファジー:オートファジーの一種)や線虫寿命の延伸が報告され注目を集めました。その後、SIRT1(サーチュイン遺伝子の1つ)の活性化によるシワ改善やセラミド合成促進効果、動物の筋肉機能増強効果、認知機能改善効果などが発表されており、近年研究が活発に進んでいる食品素材です。

ウロリチンはザクロやベリー類、ナッツなどに含まれるポリフェノールであるエラグ酸が腸内細菌で代謝されることにより作り出されますが、同社では独自の発酵法により、世界で初めてウロリチンの工業生産を可能にしました。

最新のエビデンスとしては、細胞ケアの全身への影響が期待できる血管に着目し、血管内皮機能のヒト試験を行ったところ、血管内皮の改善傾向が確認できました。また、ヒトへのウロリチンの安全性試験も実施し、確認できました。今後は、細胞再活性化が期待できるウロリチンを様々な食品で摂取できるよう、社会実装へ向けて連携をはかっていく予定です。

お菓子でも細胞再活性化~オートファジーに注目した商品化の実例

産業界からの2人目は、UHA 味覚糖株式会社の松川泰治氏が「細胞再活性化』による健康領域への新しい取り組みと展望」と題して発表。

お菓子メーカーである同社は、ココロ(=幸せ)とカラダ(=健康)をつなぐお菓子の開発の重要性から、基礎研究から販売に至るまでの水平型ビジネスモデルでヘルスケアをテーマとした製品の開発プロジェクトに取り組んできました。お菓子メーカーが基礎研究から剤・素材研究、品質、顧客満足、流通、プロモーションという複雑なつながりを連携させるエコシステムの一翼として機能している先進的な事例と言えます。

同社は吉森教授と共同研究開発を進め、すでにオートファジー機能を活用した初のサプリメントを発売しており、今後はオートファジーに関わる国際基準づくりの活動に参画するなど、オートファジーの社会実装化で健康長寿の実現に貢献したいと語りました。

認証・標準化づくりの重要性~世界市場に通用する新産業として

講演の締めくくりは「世界市場へむけた社会実装への実績と今後の取り組み」と題して日本オートファジーコンソーシアム 事務局長、APGO 代表取締役社長の石堂美和子氏が登壇。

「健康長寿という人類の願いに対し、しっかりとした根拠のあるサイエンスベースなアプローチであるオートファジーは、これまでにない全く新しい市場が創出できると考えている」と語る石堂氏。オートファジーコンソーシアムにはアカデミア会員に加え、企業からの期待も高く、海外企業を含む16社(2021年10月現在)がすでに加入しています。

オートファジーの社会実装化のカギになるのが、オートファジー活性の測定です。製品開発において、しっかりオートファジー活性が見られるのかどうかを測定、認証・標準化できる仕組みづくりが急がれます。オートファジー活性の測定は難しく、認証・標準化には日本のオートファジー研究の成果・技術が不可欠で、これが細胞再活性化の分野で日本が世界をリードすることが可能と考えられる一つの理由でもあります。

オートファジーコンソーシアムへは、経済産業省から「ルール形成を用いた社会課題解決型市場形成促進事業費補助金」という形で支援も決まりました。産学官が一体となって世界標準のルールづくりから始める社会実装化は日本でも初めての試みで、期待が高まります。

クロストーク:「世界市場を狙える日本の新産業への期待について」

最後に行われたクロストークでは、コーディネーターである健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏が、様々なデータを提示しながら、細胞再活性化(細胞ケア)研究の社会実装化の意義について、登壇者とのトークを展開。健康寿命の延伸が経済活性化に直結するという試算から、医療費削減に向かう対症療法的な老化抑制ではなく、ビヨンドエイジングによって前向きな市場創造が可能であること。また、体内の老化と見た目の老化が直結しているというニュージーランドのコホート調査から、細胞再活性化は早めのスタートが効果的である可能性などに言及。産業界からは、消費者のよりニーズの高いところからの社会実装化や、習慣化してもらえるような形での社会実装化など、具体的な進め方についても話題になりました。

健康長寿の夢の実現とともに、世界的に日本がリードする細胞再活性化の社会実装化は、日本から世界へ、日本の良さを広める機会となるのでは。そう感じさせたセミナーでした。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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