人類の老化を遅らせるかもしれない「セノリティクス」に注目!

老化を加速させ、加齢に伴う病気にも影響を与えるとされる「老化細胞」を除去する成分「セノリティクス」が世界的に注目されています。人類の老化を遅らせることができるかもしれないセノリティクスについて解説します。

セノリティクスとは?

私たち人間の体を構成する約37兆個の細胞のうち、約1%の細胞は死に、それを補うために同程度の数の細胞が新しく生まれています。通常、古い細胞が分裂を停止して新しい細胞に置き換わるときには、自ら死んで壊れる細胞死を起こすか、限界まで分裂しても死なずに老化した状態で生きながらえるものがあります。それを「老化細胞」と呼びます。まるで死体が蘇るように、周囲の細胞の老化を加速させて仲間を増やすその性質から、別名「ゾンビ細胞」とも呼ばれます。
セノリティクスは、その「老化細胞」を標的とし、細胞死を誘発、または破壊・除去する成分です。

「セノリティクス=senolytics」は、「老化=senescence」と、「対抗=lytics」を合わせた言葉で、まさに「老化防止」を意味します。老化細胞を適切に除去することに成功すれば、健康維持や老化制御などのアンチエイジング効果をもたらすとして、研究、開発が進められています。

老化細胞には良い面と悪い面がある

細胞の老化は、個体としての老化を加速させ、さまざまな病気の発症に影響を与えるといった悪い面ばかりをイメージしがちですが、その一方で、がんの発生を防ぐなど、良い面ももっています。例えば、DNAが修復不可能なほど大きなダメージを受けたときに、自分の体の細胞をがん化させないために、細胞分裂を停止する仕組みは我々人間がもつ安全装置のひとつですが、その結果として死なずに溜まっていく細胞も老化細胞なのです。この老化細胞は若い人にも存在し、特に若いときにはがんの抑制や傷の修復など体を守る働きのほうが強いと考えられます。

しかし、年齢とともに老化細胞が蓄積してしまうと、組織や臓器の機能を低下させて体の老化を加速させます。また、慢性炎症を引き起こし、がんや動脈硬化、糖尿病、アルツハイマー型認知症、骨粗鬆症など、加齢に伴って増える病気を発症させることが分かっています。
近年では、新型コロナウイルスで高齢者や糖尿病などの基礎疾患がある人に後遺症が残りやすいのは、これらの人の体内に老化細胞が増加していることが原因のひとつであるという可能性も注目されています。

マウスに続き、今後はヒトを対象とした試験も?

科学の世界においても、近年、老化を病気の一種だと結論付ける研究発表が続いています。この動きからも、現在、多くの企業や製薬会社が、セノリティクス薬の研究開発に取り組んでいます。老化細胞を選択的に除去することで、身体にとって有益な効果があることが様々な研究成果により期待されています。

セノリティクス薬の候補となる化合物は、10種類以上あり、薬の投与によって老化細胞を選択的に排除し、加齢によるさまざまな病気の症状が緩和され、健康寿命を延ばすことができる可能性を実証する研究が報告されています。

2011年の研究で、マウスの老化細胞を排除したところ、加齢による病気の発症が遅れるという結果が出ました。老化細胞を除去することで、組織の機能障害を予防または遅延させ、健康寿命を延ばす可能性があるということです。

2023年現在、すでにヒトにセノリティクス成分を投与する試験が海外では行われています。
いずれは健康な人が「アンチエイジング薬」として使える可能性があるかもしれません。

セノリティクスによる治療で老化細胞を適切に除去、またはコントロールすることに成功すれば、人類の老化を遅らせて、ヒトの最大寿命であると言われている120歳近くまで元気に過ごせる未来が訪れるかもしれません。


ウェルネス総研レポートonline編集部

関連記事一覧