サーチュイン遺伝子と細胞再活性化の関係

細胞再活性化のカギとなる「オートファジー」との関係で重要なキーワードとなるサーチュイン遺伝子(別名「長寿遺伝子」)とは、老化を制御する遺伝子のこと。活性化することにより、身体能力や糖代謝、脂肪代謝の改善や、生殖期間の延長といった健康寿命をより若々しく過ごすことができると期待されています。ここでは、カロリー制限をすること以外で活性化する方法や、そのメカニズム、細胞再活性化におけるオートファジーとの関連性について、九州大学大学院・片倉 喜範 教授に伺いました。

サーチュイン遺伝子とアンチエイジング

片倉先生は、アンチエイジング食品創製にむけた食品機能学や老化・寿命制御における研究をなさっています。サーチュイン遺伝子について、教えていただけますか。

サーチュイン遺伝子は、別名「長寿遺伝子」とも呼ばれています。これは、私たち哺乳類をふくめた多くの生き物に備わり、老化を制御している遺伝子です。2000年に酵母の中から、米国・マサチューセッツ工科大のレオナルド・ガランテ教授によって発見されました。
この遺伝子について、ある特定の機能を強める、または弱めると、寿命が延びたり縮んだりすることが分かったのです。それまで、たった一つの遺伝子の機能を強めるだけで、寿命が延びるというものは存在しなかったため、世界中が驚きました。
また、これまでの研究によると、サーチュイン遺伝子の活性化は、脂肪細胞や肝臓、骨格筋といったすべての臓器において、その機能を良い方向へと導く結果がでています。

サーチュイン遺伝子がなぜ今、注目されているのでしょうか?

研究の進展から、サーチュイン遺伝子がどのように抗老化・延命を実現するのか、その分子基盤が少しずつ分かってきました。今まで、抗老化・延命に唯一確実であるといわれてきた「カロリー制限」における生体応答のからくりが解明されたのです。さらに、この遺伝子が特定の酵素活性をもつことで、エネルギー代謝と老化を結ぶ重要な橋渡し役であることも分かり、その研究は益々の進展をみせています。

例えば、「抗老化」というと、どのようなものがありますか?

高齢化のすすむ現代では、その寿命が長くなる一方で、健康寿命とよばれる期間に、いかに若々しくいられるかも課題の一つです。人の一生のなかで、遺伝的にプログラム化されたような病気の発症はなかなか抑えられません。しかし、老化にあたる「機能低下」は遅らせることができます。
たとえば、皮膚で考えてみてください。あなたが80歳をこえたときに、シワやシミが少なく、ハリがあり、怪我をしたときも治りやすい肌だったらいいと思いませんか。さらに、認知症や難聴といった多くの加齢性疾患について、サーチュイン遺伝子は抑制効果のあることが明らかになっているのです。

サーチュイン遺伝子を活性化すれば、すべての機能低下を遅らせることができますか?

サーチュイン遺伝子には、その局在する場所や機能により、現在、7種類(SIRT1~SIRT7)あることが分かっており、「サーチュイン遺伝子ファミリー」と呼ばれています。このうち、現段階では、目的にあったファミリーを決めて、活性化することが必要です。
たとえば、延命を考える場合は、SIRT1とSIRT6を活性化させるようにします。また、抗酸化作用を期待する場合は、SIRT3をターゲットにすると、皮膚での活性酸素が除去されやすくなり、メラニン抑制からシミをできにくくするといった期待ももてるでしょう。

細胞再活性化とサーチュイン遺伝子

サーチュイン遺伝子とオートファジーは、どのように関連しますか?

まず、オートファジーについて簡単に触れておきます。オートファジーとは、細胞内分解システムのひとつで、不要なものや有害なものを取り除いたり、分解して再利用したりする機能のこと。その有害なものの中には、壊れた、もしくは未成熟なミトコンドリアも含まれます。この、ミトコンドリアに特異的に働くのが「マイトファジー」と呼ばれるものです。
次に、サーチュイン遺伝子についてです。サーチュインファミリーのうち、SIRT1を活性化すると、ミトコンドリアの産生と機能が高まり、酸素消費能や体温保持能力が上がります。逆に、不良になったミトコンドリアや未成熟なミトコンドリアは、マイトファジーにより自己処理されるという流れです。
オートファジーにおける分解およびリサイクルと、サーチュイン遺伝子の合成をセットにすることにより、細胞の代謝回転をまわし、若々しい細胞を保つことに期待ができるでしょう。

サーチュイン遺伝子を活性化させるには、どんな方法があるのでしょうか?

サーチュイン遺伝子を活性化させるには、いくつかの方法があります。

有名なのはカロリー制限です。飢餓状態とまでいかなくても、満腹の時間が少ないほど、NAD(ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド)という補酵素が増えやすく、これがサーチュイン遺伝子を活性化します。
ただし、しっかりと食事内容を見極めたうえで行わないと、タンパク質不足による筋肉量低下を招いたり、ミネラル不足による不調をきたしたりすることもあるため、注意が必要です。

「カロリー制限」以外で、サーチュイン遺伝子を活性化するのは、どのようなものですか?

健康的なのは、運動でこのNADを増やすことですが、毎日しっかりこなすとなると、ハードルが高く感じる人もいるかもしれませんね。また、寒さの刺激でサーチュイン遺伝子のスイッチを入れるというものもありますが、継続は難しいもの。
そこで、サプリメントなどの食品成分としてなら、気軽に摂ることのできるかたも多いのではないでしょうか。たとえば、ビタミンB3に含まれる「NMN」(β-ニコチンアミドモノヌクレオチド)や、ポリフェノールの一種「レスベラトロール」などがあります。
また、最近、注目されている「ウロリチン」も、期待している成分です。
このウロリチンは、いくつかある作用のうち、サーチュインの活性化を通じて、紫外線によってダメージをうけた皮膚細胞を修復するという研究結果があります。これにより、今までの紫外線「予防」から「ダメージケア」へ一歩ふみ出し、環境変化による不調に悩む人も対策をしやすくなるのではと期待しています。

サーチュイン遺伝子と細胞再活性化における今後の展望を教えていただけますか?

後天的な遺伝子変化であるエピジェネティクスを引き起こすサーチュイン遺伝子は、うまれ持った遺伝子の枠を超え、様々な取り組みで細胞再活性化をかなえることができます。たとえば、双子でも、置かれた環境や歳の重ねかた次第で、その見た目や寿命は変わってくるのです。しかし、「ストレスのかからないように毎日を過ごす」、「長寿のために生涯カロリー制限をする」というのは、合理的ではないと思う人もいらっしゃるでしょう。

サーチュイン遺伝子を取り巻く抗老化・細胞活性化の研究は、今まさにめまぐるしく展開し、私自身も、その一つひとつの発見について仲間とともに、感動と驚きを抱く日々です。これを、より健康で過ごしたいと思われる皆様とともに、確かなものへと研究を積み重ね、食品からつながる健康寿命延伸に貢献できましたら幸いです。

片倉 喜範 教授 プロフィール

東京大学農学部卒、農学博士。九州大学大学院 農学研究院 教授。
2004年農芸化学奨励賞 受賞。専門は食品機能学。趣味は、読書、ゴルフ、ドライブなど


ウェルネス総研レポートonline編集部

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