【セミナーレポート】Natural Products Expo West 2025視察で見えた、ウェルネスマーケティングのこれから

健康食品に関する世界最大級の展示会「Natural Products Expo West(ナチュラルプロダクト・エキスポ・ウエスト)」が今年もアメリカ・アナハイムで開催されました。そこでは、注目を集めるロンジェビティ(Longevity、健康長寿)やGLP-1(Glucagon-like peptide-1)といったビッグトレンドはもちろん、一時は縮小傾向にあったプラントベース肉代替品市場の復活、ポストバイオティクスの進化とその動向など、商品設計やマーケティング戦略を立案する上で欠かせない情報が数多く紹介されています。

ここでは、その背景や日本と海外との相違、現地視察を踏まえた上で見えてきた「世界のトレンドから考えるウェルネスマーケティングのこれから~Natural Products Expo West 2025レポート~」(主催:株式会社インテグレート、登壇者:株式会社インテグレート 代表取締役CEO/本総研理事 藤田康人氏)についてレポートします。

展示会&米国マーケットの視察で把握する市場動向

Natural Products Expo West(ナチュラルプロダクト・エキスポ・ウエスト)とは、今年で通算44回目を迎える、世界最大規模の健康食品および自然食品の展示会です。本総研理事の藤田氏は毎年この展示会に参加することで、日本にも多大な影響を与えるアメリカの健康・自然食品マーケットの動向や一般消費者の変化も把握できると語ります。

以前は、この展示会に出展された製品が市場に並ぶまで、2~3年ほどかかるのが一般的でした。しかし近年では、展示年の後半や翌年には売り場に並ぶケースが増えています。ロサンゼルス地区のホールフーズ(Whole Foods Market)やエレウォン(Erewhon)など、オーガニック食品を扱うスーパーの動向も併せて捉えることで、商品流通のタイムラグや浸透状況を把握し、健康志向のスーパーから一般スーパーへの広がりを定点観測できると話しました。

押さえておきたい 市場トレンド5つのポイント

今回のセミナーでは、展示会の出店傾向や実際のマーケット状況を踏まえ、日本国内で応用する際の注意点も交えながら、注目すべきトレンドを5つのテーマに分けて解説しています。

プロテインブームの継続と訴求対象の変化

まずはここ数年のトピックであるたんぱく質食品の動向です。
日本におけるプロテインの流行は、かつてのアスリートなど筋肉増強を目指す層から、現在では女性やサルコペニア対策を意識する中高年層へと広がり、定着しつつあります。米国にも同様の流れは見られるものの、日本と異なるのは、植物性プロテインの普及に伴い市場が拡大し、既存のパウダー状製品に留まらず、コーヒーやパスタソースなど一般食品への幅広い展開が目立つ点です。

なかには、28グラムの植物性プロテインが摂れるプレッツェルのスナック菓子や、高濃度にプロテインを配合しながらも透明で飲みやすいスポーツ飲料など、技術開発における進化も目覚ましいと語りました。

「ロンジェビティ(健康長寿)」の台頭

2つ目のテーマ「ロンジェビティ(LONGEVITY、健康長寿)」については、この市場の急速な拡大について報告しました。

展示会では、これまで主流だったレスベラトロールやアスタキサンチンといった抗酸化成分に代わり、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)やセノリティクスアクティベーター(senolytics activator)といった老化細胞除去に関連する製品が増加していました。
さらに、米国のサプリメントショップでは、一昨年まで「ヘルシーエイジング」「ウェルエイジング」として抗酸化と抗慢性炎症の製品を展開していた棚が、昨年から「ロンジェビティ(長寿)」という棚名に変わっていたのです。

日本で健康長寿に関する製品は中高年や高齢者向けという印象が強いのに対し、米国では20~30歳代の若年層も含めた幅広い世代に向けた市場として成長していると言います。この違いは、“若い時期からのケアによって老化スピードは遅らせられる”という考え方の、浸透率の差によるものです。

製品の例では、細胞老化抑制や脳機能の維持をテーマにした米国企業Longevity by NATUREの、アミノ酸を豊富に含むコラーゲンを配合した「BRAIN HEALTH」を紹介しました。

GLP-1が「ウェイトウェルネス」を強力に牽引

3つ目のテーマは、今回の展示会において最大のトレンドとなったGLP-1です。GLP-1の関連商品は数多く見られ、「ウェイトウェルネス」という言葉が短期的な減量ではなく、「中長期的に体重を維持し、太りにくい体づくりを目指す」という意味合いを持つことと結びついて市場が拡大していると話します。

また、GLP-1のインスリン分泌抑制作用によって得られる体脂肪蓄積の予防効果に注目が集まり、その生成や分泌促進には腸内環境が重要であることから、GLP-1のトレンドに伴ってプロバイオティクスやプレバイオティクスの需要も高まっていることを説明しました。
製品としては、自然素材の緑バナナやジャガイモなどに含まれるβ(ベータ)グルカンを配合した、米国企業Supergutのプレバイオティクス栄養食品などが該当します。

一方、甘味料については、日本では人工甘味料が批判の的となっている中で、米国ではインスリン分泌を促進しない低カロリー、かつ、天然甘味料の希少糖(アルロース)が注目を集めています。そのほか、ステビアや羅漢果などを配合した製品の増加傾向も。例えば、糖質は減らしても食物繊維の量は維持することで、ケトーシス状態に入りやすくしたベーカリーなどの炭水化物食品も、ウェイトウェルネスにつながる魅力的な設計です。

起死回生を遂げた代替肉とプラントベースフードの進化

4つ目のテーマであるプラントベースフード(植物性食品)は、米国では安定的な市場を形成し、展示会でも多くの関連製品が見られました。注目すべきは、効能効果や栄養素をとくに訴求せず、植物性である点のみを強調する設計の製品が大きく伸びていることです。なかでも、キノコ(マッシュルーム)を使った製品が目立っていたと話しました。

また、一時は縮小傾向にあった代替肉市場も、添加物や人工的な成分を配合せず、原材料や産地、生産者を明記するクリーンラベルへの転換によって、再び活性化の兆しを見せています。

世界初の代替肉企業としてNASDAQ上場を果たしたBEYOND MEAT(米国)は、エンドウ豆を主原料に100%植物由来で添加物フリーの代替肉を展開。一方のIMPOSSIBLE FOODS(米国)は、大豆由来成分を使って肉の鉄分やジューシーさを再現した独自技術によるバーガーを提供しています。試食したところ、“結構おいしくなっていた”とのこと。この2つの大企業が新規開発に取り組んだことは、展示会の中でも非常に話題になっていたと話します。

そして、フレキシタリアン志向の拡大により、動物性と植物性を半分ずつ配合した「50/50」商品で、両方をバランスよく摂取しようというムーブメントも。加えて、アーモンドなどで作られた代替卵や、100%プラントベースで高タンパクな設計のラーメンなど、新たなカテゴリーの展開も進んでいると話します。

こうした製品のバリエーションや参入プレイヤーの増加は顕著で、今年は第二世代の代替肉も登場する可能性が高まっていることから、今後の代替肉市場における動向は注目に値すると述べました。

時代はポストバイオティクス 「アッカーマンシア菌」と腸の健康

5つ目のテーマは腸の健康で、これも引き続き非常に強いトレンドです。なかでも、昨年から米国や欧米で研究論文が相次いで発表され、注目を集めているのが「アッカーマンシア菌」。米国では実際に、街中でこの菌を用いたプロバイオティクス製品も見かけたと話します。

実は米国では、プロバイオティクス製品に対して特定の菌種名を大々的に記載することは、ビフィズス菌以外にほとんどありません。しかし、アッカーマンシア菌については例外的に菌名が前面に打ち出され、市場拡大が進んでいます。その背景には、腸内ケアのトレンドがプロバイオティクスからプレバイオティクスへと移行しつつあり、さらに短鎖脂肪酸の産生促進や、菌の代謝産物を活用するポストバイオティクスの重要性を考える時代に変わってきたことが挙げられると解説しました。

製品の例では、プロテインや菓子類など幅広い食品に混ぜて摂取できる、自然由来の水溶性食物繊維「アラビノキシラン」を配合したパウダー製品を紹介しました。

目が離せない注目の番外編

さらに番外編として、特徴的な商品を紹介しました。例えば、オメガ3脂肪酸が含まれる魚類の製品や、天然フッ素が含まれる海苔製品などのマリンベースドフード。ほかには、お酒を飲まないソバーキュリアス志向と、メンタルに良いとされるアダプトゲンの組み合わせによって、機能性を兼ね備えたモクテル(カクテルの味を再現したノンアルコールドリンク)も注目を集めていました。

また、スーパーフードにおいては、成分を抽出して作るサプリメントではなく、より自然な形で食材そのものを摂取しようという流れがつよく感じられ、アサイーなどが再び脚光を浴びています。一方、オーガニックベビーフードでは、特定栄養素を取り入れた完全栄養型の製品が開発され、ビーガンや動物性たんぱく質を使わない商品にも拡大。そして、CBD製品は、米国市場において一般の飲料にも配合されるようになり、普及期に入りつつある状況です。

加えて、米国でロンジェビティ普及のきっかけとなった書籍『ブルーゾーン(長寿地域)』における食習慣や、スタンフォード大学が発表した老化研究(老化は44歳と60歳で急速に進行する)の報告について触れた上で、食生活に重要なのはバランスと多様性であると強調します。そして、日本でもこの分野の市場が伸びることは明白だと語りました。

製品の例では、長寿地域の食習慣を取り入れた冷凍弁当やミールキット、株式会社味の素が展開する冷凍弁当「あえて」シリーズなどを紹介し、栄養コンセプト型の商品が売り上げを伸ばしている現状を説明しました。

成功戦略の鍵は「バランス」と「プラスオン」

以上、5つのテーマを通じて、これからのウェルネスマーケティングで必要な視点について解説しました。注意すべき点としては、日本と米国との違いを明確にすることです。

プラントベース食品を例にとると、日本では米国に比べ、消費者の環境への配慮や動物保護に対する意識が購買行動に直結しにくいことが、普及がなかなか進まない要因として挙げられます。また、豆腐や大豆製品など伝統的な食文化が古くから根付いていることで、敢えて代替肉を求める動きは弱いというのも要因のひとつです。現に、わが国ではこれまで、市場から撤退している代替肉関連企業も少なくありません。

米国におけるプラントベース食品は、前述のとおり、プロテインと伴走することで爆発的に市場が伸びました。しかし、この戦略を日本にそのまま適用するのは難しく、日本独自の食文化や市場特性に合わせた戦略が欠かせません。日本では、米国と同じ代替という切り口で動物性たんぱく質を否定するよりも、「植物性たんぱく質には良い効果がある」と伝えるアプローチが重要です。

例えば、2020年まで低迷していた豆乳市場は、2024年に約4%の成長を遂げています。牛乳に味を似せるのではなく、植物性たんぱく質ならではの良さを訴求するアプローチが成功につながったと語ります。

今後の食品におけるウェルネスマーケティングは、機能性のアピールだけでなく、“美味しいものや自分の好きなものを食べたら、食べた結果としてそれが健康な栄養素の摂取につながる”といった世界観が、馴染みやすいのかもしれません。

バランスを重視しながら、ブルーゾーンに共通する要素を取り入れながら商品開発をおこない、マーケティング戦略に役立ててほしいと締めくくりました。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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