
【注目書籍】腸で吸収された毒素が、全身へ回る「ゾンビ腸」とは?

腸の不調は、身体全体に悪影響を及ぼすといわれます。著者は、自律神経研究の第一人者として、腸の不調と自律神経との関係を明かしていきます。本書では、心身の不調を「メンタルゾンビ」「肌荒れゾンビ」「血液ドロドロゾンビ」など10種類に分けて、その原因と身体への影響を紹介しています。
腸内環境の悪さから生まれる様々な「ゾンビ」たち

胃で消化された食べ物の栄養分や水分は、小腸で吸収され、血液となって全身に行き渡ります。小腸から送られてきた食べカスから水分やミネラルが吸収され、同じように血液にのって、身体の隅々に行き渡ります。つまり、腸から吸収された栄養や水分で私たちの身体はできているわけです。
しかし、大腸の機能が低下すると、老廃物がたまりやすくなり、やがてそこから毒素が発生します。これらの毒素は腸管壁から染み出して血管の中に入り込み、全身を巡ってカラダのあちこちでトラブルを引き起こし、さまざまな不調を引き起こすことがあります。このような状態に陥った腸を「ゾンビ腸」と命名しています。本書では、腸内環境の悪さから生まれた身体の不調ごとに「ムキムキゾンビ」「肥満ゾンビ」「血液ドロドロ」などとわかりやすい名前をつけ、その原因を紹介しています。
例えば、「ムキムキゾンビ」は、プロテインを摂取しすぎて腸内に悪玉菌が増殖してしまった腸のこと。プロテイン=たんぱく質の摂りすぎは、栄養の偏りを生む恐れがあるのです。
また、20歳以上の日本人男性の約33%、女性の約22%が肥満であるといわれます(令和元年度 『国民健康・栄養調査報告』厚生労働省)。肥満は、生活習慣病の原因になるだけでなく、うつ病のリスクを高め、幸福感を低下させることがわかってきたそうです。そんな肥満細胞が「短鎖脂肪酸」という物質を感知すると、脂肪の取り込みをストップするのだとか。
「短鎖脂肪酸」は、ビフィズス菌などの腸内細菌が出す代謝物質で、人間の身体に良い効果を与えます。つまり「肥満ゾンビ」を予防するためにも、良い腸内環境が大事だということです。
さらに「血液ドロドロゾンビ」になると、動脈硬化で、心疾患などの大病を引き起こすことになりかねません。
「血液ドロドロゾンビ」には、腸内環境の悪化だけでなく、自律神経のバランスの乱れも影響します。腸は食事から栄養や水分を吸収することで「血液の質」をコントロールしますが、自律神経は血管の拡張・収縮をおこなって「血流や血圧の質」をコントロール。腸と自律神経と血液は、お互いに支え合う関係にあるそうです。
「血液ドロドロゾンビ」を予防・改善するためには、腸内環境に気を配り、自律神経のバランスを乱すようなストレスを抱え込まないことが大切なのです。
ここで紹介する様々な不調を訴える10体のゾンビたちは、“腸内環境が悪い”ことから、腸内で生まれた毒素が身体の中に入り込んで生まれた者たち。チェックリストが載っていますので、自分がゾンビ化していないかどうか確認できます。

運動や生活習慣を見直すポイントの一つは「自律神経の切り替え」

第1章から第2章では、腸のトラブルによって起こる症状や原因を解説されますが、第3章からは、「食事」「運動」「生活習慣」のそれぞれについて、良い腸内環境にする方法が紹介されていきます。
腸内環境を良くするといっても、善玉菌だけにすればいいのではありません。善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割が理想的なバランス。もしも悪玉菌が完全にいなくなると善玉菌が働かなくなり、食べ物の消化・吸収がうまくいかなくなってしまうのだとか。
腸内環境を理想のバランスにするための「食事」とは、幅広い食材を摂ること。善玉菌と悪玉菌では好きな食べ物が異なり、同じ善玉菌同士でも好みが違うそうです。
その上で、発酵食品やネバネバ食材、抗酸化食材などを意識して摂り、朝食をしっかり食べることがすすめられています。
また、本書では、ゾンビ腸の対策として、ビフィズス菌を含むヨーグルトがすすめられています。すべてのヨーグルトにビフィズス菌が含まれているわけではないため、購入時にパッケージで確認することが重要とのこと。
ビフィズス菌は、短鎖脂肪酸の一種である酢酸を多く生成します。これは乳酸菌には見られない働きだそう。酢酸には強力な殺菌作用があり、腸内の有害菌を排除し、腸管バリア機能の強化や腸のぜん動運動の活発化など、腸に多くのメリットをもたらします。
日本人の腸内フローラにはビフィズス菌が多く含まれていますが、加齢とともにその数は減少します。ビフィズス菌が減少すると悪玉菌が増え、腸内環境が悪化し、ゾンビ腸の原因にもなります。ヨーグルトを選ぶ際に、パッケージで菌の種類を確認することがゾンビ腸解消の第一歩とのことです。
「運動」は、腸内環境を良くするためにどうして必要なのでしょうか? まずは自律神経のバランス調整のため。適度な運動をすることで血流が促進され、酸素が全身に巡って自律神経のバランスも調整されるのだとか。
さらに、腸に刺激を与えるため。筋肉を強化することは、排便にも役に立つそうです。なにしろ日本人は、世界一座っている時間が長いというデータもあり、世界保健機関(W H O)が警鐘を鳴らすほど。身体を動かして血流を促すことは、腸だけでなく全身の健康維持のためにも大切です。
血流を促すという目的のためには、「正しい運動」「激しい運動」にこだわらず、ストレッチやマッサージから始めてもよいでしょう。
「生活習慣」で大事なことは「睡眠」と「自律神経の切り替え」です。

朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、副交感神経から交感神経に切り替わります。朝日を浴びると「メラトニン」という睡眠ホルモンの分泌が止まり、14〜15時間後に再分泌が始まります。その2〜3時間後に眠気が起こります。
メラトニンの生成には、神経伝達物質「セロトニン」が関係します。しかし、便秘などによって腸のゾンビ化が進むと、セロトニンが減少。メラトニンの分泌量も減ってしまい、睡眠トラブルが起こります。
一方、ストレスを感じて便秘になることもあります。ストレスを感じた時、笑ってみてください。つくり笑いでもいいそうです。笑うことで「セロトニン」が増え、副交感神経が働いて、気持ちを落ち着かせることができます。
笑ったり、ヒーリング音楽を聞いたり、ぬるめのお湯につかったり。そういったリラックスタイムが副交感神経を優位にして、ゾンビ腸の改善が期待できます。

【書籍情報】
『腸から生まれ変わるカラダ』(小林 弘幸著/宝島社)