老化スピードはコントロールできる!
エイジングの概念を変える「PoA」最前線老化スピードはコントロールできる!

「PoA」とは「Pace of Aging(ペース・オブ・エイジング)」の略称で、人間の体における老化のスピードのこと。2000年以降、この「PoA」に関する研究が右肩上がりで増加しており、注目が集まっているキーワードです。「PoA」に関する最新の研究報告や動向を解説します。

「PoA」研究が注目されている理由

老化は、私たちが生きるうえで避けられない生理現象であり、老化との付き合い方は、医療、健康、美容の領域において、常に重要な課題のひとつです。じつは今、この老化の概念が大きく変わろうとしています。近年、「老化は病気である」「老化は治療できる」という考え方が活発になってきているのです。

2018年には、WHO(世界保健機関)が公表した国際疾病分類「ICD-11」第11回改正版に「老化」の概念が盛り込まれ、「老化」は治療対象の疾病であると記されました。これらの背景もあり、ヒトの細胞に注目したライフサイエンス分野では、老化スピードを表す「PoA」に関係する研究が盛んになっているのです。

「PoA」研究最前線①「人によって老化のスピードは違う」

「PoA」に関する研究の中でも、2021年にアメリカのデューク大学が発表した論文が大きな注目を集めました。この論文は、ニュージーランド南島のダニーデン市にある病院で、1972〜1973年にかけて生まれた1037人を対象に行われた研究で、ダニーデン研究とよばれています。

内容は、26〜45歳までの「腎臓・肝臓・肺・代謝・免疫系の機能」「歯の健康」「コレステロール」「心肺の状態」「肺機能」などについて、20年間で4回測定(全ての測定に参加できたのは955人)。それらの結果から、1年間の間にどれくらいの速度で生物学的年齢が進んだかを数値化したところ、1年に0.4年しか老化していない人がいる一方、最も老化速度が速い人では年に2.44年も老化が進んでいることがわかりました。

「PoA」研究最前線②「人生には老化タンパク質が発現するピークが3つある」

世界的権威のある生物医学ジャーナル誌「Nature Medicine」が2019年12月に掲載した「ヒトには、34歳、60歳、78歳で、老化に関係するタンパク質が多くなる」という論文も大きな話題を呼びました。

この研究は、スタンフォード大学のトニー・ウィス=コレイ教授らの研究チームが行ったもので、18〜95歳までの4,263名から血液サンプルを集め、各被験者の2,925の血漿タンパク質のレベルをそれぞれ測定。その結果1379のタンパク質レベルが、被験者の年齢によって異なるほか、多くのタンパク質は、一定のペースで増減したり同じレベルを維持したりするのではなく、一定期間同じレベルを保ち、特定のポイントで突然上下に変動していることが分かりました。このポイントが、34歳、60歳、78歳だったのです。

「PoA」研究最前線③「“老け顔”の人ほど死亡リスクが高い」

南デンマーク大学で老化医学を専門としているユーア・クリステンセン教授のグループが発表した研究報告も、「PoA」に関する代表的な論文の一つと考えられています。

この研究は、70歳以上のデンマーク人1,826人(※1)の双子を対象に行われたもので、2001年に身体的検査と認知力検査を全員が受け、写真も撮影。その写真を41人の男女(看護師20人、教育実習生10人、老年女性11人)に見せて写真の人物が何歳に見えるか推定してもらい、7年後の2008年に、2001年に写真を撮影した双子の生存状況を調べるものでした。

その結果、7年間に全体の37%に当たる675人が亡くなっており、その多くが、2001年の調査で「老けて見えた人たち」で、死亡率は「若く見えた人」の1.9倍と発表しています。また、見た目の年齢の違いが大きいほど、老けて見えた双子の片方が早く亡くなっていることも分かりました。

※1)1,826人の双子の内訳/2001年の時点で生存していた387組の双子と片方が死亡したか研究に参加しなかった1,052人の双子の片方。

「PoA」研究最前線④ 「同じ38歳でも、『生物年齢』は28〜61歳まで分布」

米国のデューク大学加齢研究センターのダン・ベルスキー氏、テリー・モフィット氏らの研究チームは、前出①で紹介したダニーデン研究に参加した2011年時点で38歳だった954人の男女を対象に追跡調査を実施。18種類のバイオマーカーを調べ、参加者の腎臓、肝臓、肺機能、代謝および免疫系の機能、HDLコレステロール、心肺フィットネスなどの老化プロセスを調査しました。

これらのバイオメーカーに基づき、38歳の研究参加者を30〜60歳までに分類する「生物年齢」を設定したところ、参加者の生物年齢に幅広い差があることが分かったのです(米国科学アカデミー紀要「PNAS」/2019年12月発行号に掲載)。ほとんどの人が暦年齢の±2〜3歳以内でしたが、年齢以上に若さを維持している人、もしくは老化している人がいたほか、暦年齢は38歳でも生物年齢が50歳を超えている人もいました。

「PoA」の関連書籍も次々にベストセラー! エイジングに欠かせないキーワードに

①〜④の代表的な論文の他にも、例えば、世界的に有名な科学者で、老化の原因と若返りの方法を研究しているデビッド・A・シンクレア氏(ハーバード大学医学大学院遺伝学教授)は、著書『LIFE SPAN/老いなき世界』で「老化は治療できる」「生命が老いるメカニズムの解明」「老いない身体を手に入れる」などを提唱、世界20カ国で刊行、全米ベストセラーになっています。

「PoA」は、日本ではまだ一般化していないエイジングの概念ですが、以上のような背景からも、今後、注目が高まることが予想されます。これからの商品開発やマーケティング戦略の必須キーワード「PoA」。今後の「PoA」の動向に注目です。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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