波紋広がる“科学的根拠への疑義” での優良誤認

事後チェック指針が示されて以降、機能性表示食品の届出は迅速化し、件数も飛躍的に伸びて市場は大いに活性化した。その一方、事後チェックでエビデンスの不適切事例を消費者庁が指摘する事態も訪れるとかねて懸念されていたところ、先日ついに“届出表示の内容が科学的根拠不十分で景品表示法上の「優良誤認」にあたる” とする初の認定事例が生じ、健食業界に大きな波紋を広げている。

発端は6月30日に同庁が公表した、さくらフォレスト(福岡市中央区)に対する景品表示法に基づく措置命令。同社が販売する機能性表示食品「きなり匠」「きなり極」について、自社ウェブサイト、小冊子、容器包装の表示内容が「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す」として景品表示法に違反する行為(優良誤認)と認め、違反となる表示の取りやめと消費者への周知、再発防止などを命じた。同社は6月30日中に2品を届出撤回し、「厳粛に表示方法の見直しを図り、管理体制の一層の強化に努める」旨を表明。措置命令自体はそれで一巡した形だ。

今回、優良誤認と認めた内容は、効果を過大に謳った広告表示のみならず、表示の根拠となる研究レビュー(SR)にも及んでおり、制度開始以降初の事例だ。2品の機能性関与成分であるDHA・EPA、モノグルコシルヘスペリジン、オリーブ由来ヒドロキシチロソールの3成分それぞれの表示内容について、同庁の説明によるとDHA・EPAについては摂取量の少なさ、モノグルコシルヘスペリジンとオリーブ由来ヒドロキシチロソールについては評価方法などで科学的根拠に疑義を示した。

消費者庁はさらに制度全体の信頼が損なわれることを防ぐために3成分いずれかを配合し、同じ科学的根拠を用いた88商品について、事業者に科学的根拠の合理性を確認し、2週間以内に回答するよう事務連絡を発した。また健康食品産業協議会、日本健康・栄養食品協会、日本通信販売協会、日本抗加齢協会、日本チェーンドラッグストア協会に対し、すべての機能性表示食品について、すでに届出・公表されている科学的根拠の再検証を随時行うよう文書で要請。各団体はそれぞれ会員企業に向け届出資料の再検証を呼びかけた。本記事をまとめている7月下旬現在、前述の88商品について、事業者による届出の取り下げが少しずつ出てきている状況だ。科学的根拠の再検証とはいっても、今回3成分のうち2成分のエビデンスはトクホのものでもある。届出した事業者にとっても機能性関与成分のSRを整えた原料メーカーにとっても現時点では “具体的な手の打ちようがない”ところであるだろう。

さて、そのようななか、7月25日には届出ガイドラインの一部改正案が公表され、同日パブリックコメントも開始した。公表された改正案の概要では、その第一項に「システマティックレビューの「PRISMA声明(2020年)」への準拠」が打ち出され、次いで「届出内容の責任の所在の明確化」、その他の技術的事項として「参照するガイドライン等の変更」、「研究計画の事前登録」が挙げられている。PRISMA声明(2020年)への準拠に関して、新規届出については令和7年4月1日届出以降、既存の届出については、随時、同声明に準拠した研究レビューの変更届出を行うこととしており、急激な変更による内外の混乱を避けようとするねらいが見て取れる。

この1カ月の動きをみると、何やら先々の改正ガイドラインへの準拠を徹底させるための “構図” のようにも見えるがそれにしては少々手荒でもある。意図して行った訳でもない事業者が無用なダメージを被らないことを望みたい。

※編者注:本記事執筆以降、消費者庁ではWEBサイト上で「令和5年8月17日 機能性表示食品に対する景品表示法に基づく措置命令を踏まえた食品表示法における対応について(情報提供) ※随時更新」として88商品の事業者への確認結果を公表している。最新状況は以下より確認いただきたい。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/index.html

「FOOD STYLE 21」2023年8月号 F’s eyeより

関連記事一覧