水素で初の機能性表示食品が受理

消費者庁の「機能性表示食品届出情報データベース」3月24日の更新でついに水素を関与成分とする届出が受理・公表された。届出企業は新菱(北九州市八幡西区)で商品名「高濃度水素ゼリー」。ヘルスクレームは「水素分子にはストレスを抱えている女性の方の睡眠の質(睡眠時間延長感)を高める機能が報告されています」旨を表示する。同社がかねて販売する商品であり、6月に機能性表示食品としてリニューアル販売を予定し、OEM供給も検討するという。
 
少なくとも近年、本誌は水素に関するトピックについて、あまり紹介できていなかったように思う。水素ガス吸入療法など医療分野で水素の研究が進んでいることは仄聞していたが、経口摂取による健康機能についてはエビデンス以前の疑問が拭えなかったことが理由の一つだ。つまり、軽量・極小の水素分子をどうやって体内に送るのか?水溶液への溶解度は低く、また市販の水素水にある通り、アルミボトルなどで保存は可能だが開封すればすぐに抜けてしまいどの程度生体内で利用できるのか?といったことが腹落ちしていなかったのだ。水素の安全性を訴求するとき“だけ”食品添加物であるがゆえの安全性をPRするという食品企業のスタンスにも違和感があった。しかし今回届出された製品の仕組みは、「吹き込んだ泡ごと水素をゲル化剤とアルミパウチで封じ込める」という、ユニークかつ、これらの疑問に応え得るものであった。

メーカーの説明によると「高濃度水素ゼリー」は、ゼラチン、増粘多糖類、水溶性高分子などで構成される基剤に独自機器で水素を充填・アルミパウチする特許技術で製造している。気泡の状態でゼリー状の基剤に閉じ込めることで、1包(10g)あたり水素分子0.3mg(水素濃度40ppm)と既存の水素水の約100倍に相当する高濃度水素ゼリーを製品化した。保存試験ではアルミパウチされたゼリー内の水素分子は、25°C・9ヵ月間の保存後も約40ppmの水素含量を保持。なお、新菱はGC-TCG法による定量分析法を公開している。さらに口中での咀嚼時の水素分子の濃度変化も測定しており、多少の咀嚼ではゼリー中の水素はほとんど抜けないことも確認済みだ。

機能性表示食品としての届出については、 同品を用いた臨床研究に基づきレビューを作成。臨床研究では、ストレスを抱える健康な女性29名を対象に同品1日3本(水素分子0.9mg/日)を4週間摂取し、OSA睡眠調査票で評価した結果、摂取群はプラセボ群(空気を含有したゼリー)に較べ、睡眠の質改善で有意差を確認した。(Jpn Pharmacol Ther 2020;48:1641-6)メーカーでは東京大学、防衛医科大学、岡山大学、神奈川県立保健福祉大学、東京農工大学などと共同研究を進めており、今後さらに新しいエビデンス取得を目指す方向だ。

水素は、かねてより医療分野で研究が進められ、活性酸素種(ROS)のうち酸化力が強く老化や炎症などの原因のひとつとされるヒドロキシラジカルを選択的に反応・消去することが確認されている。反応時の副生成物は水のみで、副作用の報告もない。慶応大学病院では医療現場で水素ガス吸入を先端医療に取り入れ、最近では院外心停止患者の救命および予後の改善で報告している。食品分野では前述の水素水について複数の食品メーカーが発売していたほか、協同乳業が「腸内細菌の働きによりおなかのなかで水素を産生する」乳飲料を開発・商品化した実績がある。いずれにしても定量の水素によるエビデンス評価までは至っていなかったことを鑑みれば、今回の届出完了は非常にインパクトがある。技術が食や健康の常識を変え、新しい習慣を創る。その事例の一つとして今後注目したい。

「FOOD STYLE 21」2023年4月号 F‘s eyeより


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