「NNB10キートレンド」はこうやって読み解く!
日本人が知っておきたい食品健康ビジネス最先端【前編】
【各論】あらゆるトレンドに影響を与える5つのメガトレンドとは?
順番にまず、メガトレンド1の「健康に関する信念の細分化」について教えてください。
「健康に関する信念の細分化」というのは、いつでもどこでもネットで情報を調べることが可能な現代において、消費者の心理や市場はあらゆる面で細分化されているということです。その背景には専門的な情報でも自ら入手できることや、専門家に対する信頼性が低下していることなどが挙げられます。例えば、医師や管理栄養士に受けた栄養指導が、他の医師に話を聞くと異なる見解を述べられたという経験を持つ人もいるでしょう。
また、卵は1日2個を超えて摂ると健康によくないというのは昔の話ですが、未だにそれを信じている人もいます。あと、飽和脂肪酸が良くないと言われた40年間も一転しました。こうした食生活の正当性が頻繁に変更されてきたこともあって、消費者は必然的に自分で調べて自らの食生活をパーソナライズする時代になってきたということでしょう。ただ、たとえ消費者の心理が科学的に間違っていたとしても否定してはいけません。マーケティング戦略をする上では彼らに対してどのように寄り添い、行動変容を起していくかどうかが重要です。
細分化によって欧米では新しいブランドの売上は5年前のおよそ半分になりましたが、これは逆にチャンスともとるべきです。新しいアイデアや機会にはほとんどの分野でニッチが存在します。ターゲットが小さくなった分、市場も細分化されて様々なトレンドでこの考え方が現れているといってよいでしょう。
成功しているブランドは、複数のトレンドに対応しながら複数の人たちにアピールをしています。もはや1つの商品で全て対応するのは困難です。例えば、Nestle社(米国)は1つの調理済み食品ブランド「Life Cuisine」の中で、低炭水化物で6つの商品に高プロテインで3つの商品、そして肉不使用で3つの商品とグルテンフリーで9つの商品というように消費者のパーソナライズした志向にアプローチした戦略が功を奏しました。このブランドは2021年に最も成功した新商品ベスト10に入り、初年度の小売売上高72,800万ドルとなったことに加えて当初の15種類から21種類に増えています。
続いて、メガトレンド2の「天然の機能性」について教えてください。
「天然の機能性」は、過去20年間で最大のイノベーションドライバーのひとつとも言われています。消費者が求めるのは特別な有効成分を抽出あるいは濃縮などして作られたものではなく、本来備わっている天然の利益です。例えばアーモンド、アボカド、ブルーベリー、ギリシャヨーグルト、オリーブオイルなどその多くが今も定着しています。こうした人工的な加工を施さないナチュラルな機能性は他のすべてのトレンドにも影響を与える、強力かつ包括的なものといって間違いありません。
また、天然の機能性はメディアの注目を集めることができるというのも大きなメリットです。米国では天然の機能性成分について書かれた記事に対して常にポジティブな感想が寄せられ、インスタグラム(Instagram)などのソーシャルメディアで発信すると消費者の意識が高まって新たな市場が生まれます。一方、日本では事情が異なるため、意図的にメディアが注目を集めるような土台作りが必要です。
次に、メガトレンド3の「ウエイトウェルネス」について教えてください。
「ウエイトウェルネス」は、ほぼすべてのトレンドの背景にある消費者の強いモチベーションとなり得るものです。例えば、タンパク質や野菜の摂取量を増やしたり炭水化物を減らしたりするのもファスティングを行うのも、すべて体重の管理や見た目の改善をしたいという消費者の願望によるもの。これは男女問わず永遠のテーマと言えるでしょう。
現代において「ウエイトウェルネス」は、特殊な食品カテゴリーから日常的なライフスタイルの一部へとシフトしました。その証拠にGoogleを使って“プロテイン”と検索すると体重減少を意味するウエイトロスよりも上位に位置しています。これは、プロテインそのものが一部のカテゴリーにおける手段ではなく、ウェルネス全体に関わる要素であることを消費者が認識している結果とも取れるでしょう。言い換えると、ウエイトロスだけをアピールしても期待するほどの効果はないということです。
メガトレンド4の「スナック化は戦略の基軸」について教えてください。
「スナック化」はわが国の企業が得意とする分野で、私たちにとっては見たことのあるものがほとんどです。代表的なのはヤクルト社で、お馴染みの“飲み切りサイズ”の乳酸菌飲料は誰もが一度は飲んだことがあるでしょう。ここ20年で大成功したほとんどのブランドが、このようなシングルサーブ(一食分)での販売形態を展開しています。今やスナック化は間食の域を超え、健康食品にとって避けて通れない戦略の1つと言えるでしょう。
これが支持される理由は、消費者の「新しいものを試したいが美味しくなかったらどうしよう」という心理にも上手く対応しているからです。例えばプロテインベースの製品は元々、ファミリーパックの様な大きな缶に入っていたものを一食分ずつ片手で食べられることが支持されるようになって誕生しました。これは流通側にとっても、在庫管理でのスペース削減や参入消費が低いことなどのメリットがあります。
ただし、このスナック競争はかつてないほど激化し、企業は消費者にとって差別化された商品を創り出すための努力が欠かせません。ただ、必ずしもフォーマットや現状に制限はなく、コロンブスの卵のように既成概念を外したスナックのコンセプトや、新しい市場の想像が消費者の想像を超えた革新的な提案につながります。
マーケティング戦略を行う企業のために、NNBではスナック化で成功するための8つのチェックリストを提案しているので参考にしてください。
メガトレンド5の「サステナビリティ」について教えてください。
「サステナビリティ」はこの10年間で、あらゆる企業において戦略の一部となりました。これはもはや競走上の優位点ではなく、企業として取り組むのが当たり前という位置づけです。そして、消費者自身が手に取った商品において見える形でエビデンスを示すことも必要でしょう。
注意したいのは、インターネット上でそうした取り組みについて主張しても消費者はそれを見ていません。それよりも、環境に配慮するパッケージといった最も眼に付く所で主張を行うことが信頼感を得ることにつながるでしょう。そこには、具体的な証拠や裏付けのあるメッセージを洗練すべきです。サステナビリティに関する製品を成功に導くために、次に挙げる5つの前提について確認してください。
【サステナビリティに関し成功に導く5つの前提】(タイトル含め一部改変あり) 1. 取り組みは万能というよりも具体的かつ測定可能であること。 2. アーリーアダプター向けのプレミアム価格で、ライフスタイル志向のブランドが使う場合に価値を生み出す。 3. マスマーケットで消費者はサステナビリティ関連の食品に対して高い金額を支払うことはない。 4. 消費者調査でサステナビリティの順位は価格、便利さ、味、ヘルスベネフィットよりも低く、サステナビリティがあっても差別化にはならない。 5. サステナビリティというメッセージは消費者自身や地球環境にとってのベネフィットと結びついたときに消費者にとってより興味深いものになる。 |
武田猛氏 プロフィール
株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役。
18年間の実務経験と18年間のコンサルタント経験を積み、36年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外700以上のプロジェクトを実施。「世界全体の中で日本を位置付け、自らのビジネスを正確に位置付ける」という「グローバルセンス」に基づき、先行する欧米トレンドを取り入れたコンセプトメイキングに定評があり、数々のヒット商品の開発に関わる。