◎毛細血管やリンパ管からの健康、最新知見揃う◎
Tie2(タイツー)・リンパ・血管研究会 第8回学術集会盛況に開催 医薬・食品など加速する実用化

Tie2(タイツー)・リンパ・血管研究会(会長:大阪大学微生物病研究所情報伝達分野 教授 髙倉伸幸氏)は10月20日、第8回学術集会を都内・八芳園(港区白金台)で開催した。加齢に伴う未病から老化関連疾患への移行を防ぐ上で、毛細血管の内側(血管内皮)に存在するTie2受容体の活性化の重要性を訴え十余年、近年ではTie2理論による治療薬の登場など、その活動がいよいよ実を結んできた。今会合では基礎から臨床、食品成分まで縦断的に4題の講演が行われ、眼科での実用化やリンパ管、糖化との関係、皮膚の3次元的可視化など、今後の研究領域の広がりを予感させる内容となった。

2019年秋以来のリアル開催となった今回のテーマは「Tie2活性化のリアルワールド~基礎・臨床・未病~」。会長の髙倉伸幸氏らは、血管内皮細胞に発現するTie2受容体の活性化を通じた血管構造の安定化が血管透過性や病的な血管新生などを抑制し、さまざまな疾患の予防・治療につながることを基礎医学的に明らかにしてきた。また、COVID-19も含めたウィルス性疾患の重症化予防の面でも関心が高まっている。同会の活動から医薬やサプリメントでの実用化が進んだことを踏まえ、各分野での最新の知見や研究成果を報告した。会場+WEB合わせ100名近くが参加し盛況を博した。座長・進行は赤澤純代氏(金沢医科大学)、増田美加氏(医療ジャーナリスト)。

会長講演「Tie2活性化原理に基づく血管安定化剤の社会実装」

大阪大学 微生物病研究所 教授/Tie2・リンパ・血管研究会会長 髙倉 伸幸氏

髙倉伸幸氏は、血管内皮と外皮の接着を促す血管内皮中のTie2受容体を活性化することで加齢黄斑変性症などの症状改善に繋げる新しい治療薬が医療現場に導入され始めたことを踏まえ、これらへ密接に関わる血管内皮増殖因子(VEGF)と血管の安定性を司る糖タンパク・アンジオポエチン1(Ang1)および2(Ang2)のメカニズムなどを中心に解説した。

損傷した組織を修復する際などに生じる血管の発芽的新生は、通常は血管の壁細胞(ペリサイト)が解離することで一時的に構造が未熟になる。その後、再び壁細胞が内皮細胞を囲むように動員されることで成熟・構造安定化していく。しかしがんや加齢黄斑変性症、糖尿病性浮腫などが生じている組織では血管が全く成熟せず、未熟なままの毛細血管が新生し続けるという病的血管新生が生じる。この状態は血管内皮細胞の増殖などを亢進する役割のVEGFが増殖を続ける一方、低酸素や炎症などの刺激に伴い血管新生を促すために壁細胞が血管内皮細胞から解離していくことで生じる。壁細胞と内皮細胞を接着させる役割は壁細胞から分泌するAng1、解離させる役割は血管内皮細胞から分泌するAng2が果たしており、いずれも血管内皮のTie2受容体と結合することで機能する。病的血管新生時にはVEGFとともにAng2が過剰に分泌され、Tie2受容体と結合して不活化させるため、漏れやすい不安定な血管の形成に関与する。VEGFを過剰に発現するマウスにAng1を投与したところ、漏れのない太く正常な血管が増加した。またAng1欠損マウスとの比較からAng1は血管の成熟化だけでなく、正常な血管ネットワーク形成にも関わることが示された。

高倉氏はVEGFとAng2の働きを同時に抑制することで、Tie2受容体を再活性するというコンセプトの治療薬(バビースモ、中外製薬)が開発され、今年から各国の眼科領域で導入が始まり、加齢黄斑変性症の治療などに用いられていることを紹介。さらに未病から疾病発症を抑えるにはTie2活性化を誘導する健康食品・機能性食品が必要と結んだ。

学術講演「血管とリンパ管の制御による健康長寿の実現」※収録講演

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 病態生化学分野 教授 渡部 徹郎氏

渡部徹郎氏は、老化や寿命と血管の関連性の観点からの知見として、健常な状態でのVEGFの増加は微小血管密度の上昇をもたらし、各臓器の病的老化を軽減させて健康寿命に寄与する可能性や、緑内障の要因となるリンパ管の機能低下がTie2の活性化によって抑制できることなどを紹介した。

加齢に伴い血管が機能しなくなるにつれ、身体機能も低下していく。加齢性疾患の多くは血管関連病であり、また最近では加齢に伴う微小血管密度(MVD)の低下が多臓器機能不全に繋がり、寿命を変えて死に至るという、個体の老化や寿命と血管の関連も注目されているが、詳細な分子構造などについては不明点が多い。昨年6月の海外論文からは、加齢に伴うVEGFシグナルの伝達不全に対処することで、健康的な加齢と寿命の延伸が促進できる可能性が報告されている。VEGFは強力な血管新生誘導作用を持ち、血管内皮細胞の生存維持に必要な因子となる。VEGFを欠失させたマウスは血管新生不全で胎生致死し、過剰発現させても血管過形成・不全により発生異常を起こす。また、VEGFを投与したマウスはMVDが維持・回復し、寿命の延伸が確認されており健康寿命自体の延伸も示唆されたほか、筋肉や骨の減少を防ぐことも別の試験で示された。

リンパ管についても加齢で機能低下し、エイジングドミノを引き起こす要因となる。組織の老廃物を排出するリンパ管は脳内においてもアミロイドβの排出などの役割を果たしており、その機能低下はアルツハイマーの発症につながる。緑内障では、発症要因となるシュレム管(リンパ管)の機能低下に対してはTie2の活性化を促すことで回復することを確認し、また緑内障治療薬とTie2活性化剤の併用では治療薬単体より有意に眼圧低下を確認。緑内障治療への有効性と活用に期待を示した。

会員講演①「ゴースト血管と糖化」

全薬工業株式会社 桜庭 大樹氏

桜庭大樹氏は、糖化(AGEs)の進行とゴースト血管の増加が関連する可能性について報告した。コロナ禍で問題となっている精神的・身体的フレイルは、糖化とゴースト血管がその一因とされている。食後高血糖時などに生じる“血糖値スパイク”により過剰な糖が血中に吸収され、体内でタンパク質と結合することで生じるAGEsは、血管内皮細胞のRAGEという受容体に結合し、RAGEを介して活性酸素や炎症性サイトカインが産生される。これが血管内皮細胞からの壁細胞の脱落を引き起こしゴースト血管となることが、マウスを用いた先行研究でも確認されている。

ヒトでの糖化とゴースト血管の関連について、AGEsの蓄積量から糖化度を、毛細血管の測定からゴースト血管化を評価した。23名の男女を対象に計測した結果、女性の方が糖化度は高く、毛細血管の長さが短く、幅が細く、濁りがあり、本数が少ない等ゴースト血管化している状態であった。また、糖化度の年齢に対する平均値と、毛細血管の各指標の相関を調べたところ、年齢に対して糖化度が高い人ほど血管がゴースト化している傾向にあり、弱いながら正の相関がみられた。

同社のサプリメント「糖霞仙」を60日間1日朝・夕食前に1包ずつ摂取し、試験前・摂取1カ月後(糖化度のみ測定)・摂取2カ月後に糖化度・毛細血管について測定した結果、摂取後は有意に糖化度が減少。毛細血管は本数が有意に増加、有意差はないが長さも増加傾向がみられた。糖化とゴースト血管の相関を示唆するデータが得られたほか、血糖コントロール・抗糖化の食品素材にも毛細血管のゴースト化を改善する可能性が示唆された。

会員講演②「リンパ管の老化や疾患に伴う皮膚の変化」

株式会社資生堂 みらい開発研究 板井 菜緒氏

板井菜緒氏は、3次元的に皮膚リンパ管を可視化する手法を用いてリンパ管の老化や疾患に伴う皮膚の変化の検証を報告した。同社は老化について、これまでにリンパ管切片を用いてPhoto-damageの蓄積でリンパ管が減少することや、老齢皮膚におけるリンパ管の形質転換が起きることなどを確認している。さらにヒトの皮膚リンパ管を3次元的に解析すべく、数々の透明化試薬を検討し、新たに肌内部のリンパ管や血管の可視化に成功した。

3次元的に可視化した画像から、リンパ管は皮膚全層に並行して伸び、特に表皮直下には密なネットワークが形成されることを確認。次いでリンパ管の機能低下に伴う構造変化を検証すべく、リンパ管の機能不全により皮膚の厚さなどの性状が変化する二次性リンパ浮腫患者の下肢皮膚を可視化したところ、浮腫の進行につれリンパ管は細く数が減り、縮退することが判明した。さらに皮膚や臓器、末梢に存在する「毛細リンパ管」と、身体の深部に存在する「集合リンパ管」の2種類のリンパ管の解析では、リンパ浮腫の進行に伴い、本来ある毛細リンパ管様の構造が集合リンパ管様の性質に変化していることが分かった。本来毛細リンパ管は周辺にある老廃物を排出するために働くが、集合リンパ管様の性質に変化することで老廃物排出が停滞し、皮膚環境・状態が悪化する可能性も示唆された。

板井氏は、老化軸でもリンパ管の構造、性質変化を観察中だとし、リンパ浮腫でもみられたような大きな構造の変化が起こりつつあると報告を締めくくった。

「FOOD STYLE 21」2022年11月号 良食体健トピックス<特別編>より


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