【サイエンス】睡眠不足は肥満をもたらし、心血管疾患リスクを上げる

健康な食の選択は健康な眠りから、そして健康な睡眠は健康的な食生活を導く。こうした良好な睡眠と食生活との密接な関係に関するエビデンスが多く提示されるにつれ、その関係は広く認知されるように なった。だが、推奨される睡眠時間を得ている割合は少ない。

ヘルスケアを提供するBenenden Health社が行った英国の調査では、成人の68%は7時間睡眠を実現できておらず、平均の睡眠時間は6時間だと報告された。同社は、不十分な睡眠は心身の健康にマイナスの影響を与えると強調している。British Nutrition Foundation(BNF)によると、この傾向は大人だけでなく子どもにも広がっているという。小学生の32%、中学生の70%が、睡眠時間は9時間未満だと答えている。

睡眠不足と不健康の関係は注目されており、Spanish National Centre for Cardiovascular Research の研究者、Martinez Gomez氏は、十代の若者に見られるような問題のある睡眠と、過体重あるいは肥満との関連を指摘する。同氏によれば、12 歳と14 歳で、最適な睡眠をとれている人に比べ、睡眠が短い場合、過体重および肥満の割合がそれぞれ、21%、72%多くなっているという。大人においては、肥満は2 型糖尿病や心疾患をもたらし、その10人に9人の睡眠 は不十分だった。心血管疾患を有する10人に7人は、良好な睡眠を得ていれば、疾患は防げるのだと推定され、睡眠の改善が心疾患予防に繋がる。睡眠不足は、過剰なカロリーやスナック摂取といった食生活の変化をもたらす。軽度の睡眠不足でも、食欲を増大し、食欲ホルモンを変化させる。Experimental Physiology誌に掲載された研究では、覚醒/睡眠サイクルが代謝の違いを引き起こし、体のエネルギー源への選択を変えることを指摘した。遅くまで起きている人は、脂肪をエネルギー源に使う能力が減少するため脂肪が蓄積し、2型糖尿病や心血管疾患リスクが高まる。遅くまで起きている人と早起きの人を比較した場合、代謝の違いは、インスリンの使い方に関連してくる。朝型の人は夜型に比べ、より脂肪をエネルギー源として活発に消費する。この脂肪代謝の違いが、体の概日リズムのインスリンの使い方に影響するのだという。

睡眠不足に陥る要因には、例えば、寝る前のカフェイン(刺激物)摂取が挙げられる。反対に、ミルクはトリプトファンを多く含むため、温めたミルクは睡眠導入に良いと考えられるが、たんぱく質なら何でも良いというわけではない。National Sleep Foundationによると、寝る直前の食事や たんぱく質が多く含まれる食事は消化が遅くなるため、良質な睡眠を妨げる。寝酒と睡眠の関係にも誤解が多い。BNFは、約10人に1人が睡眠前にアルコールを摂取していると報告するが、10分以内に眠りに落ちると回答した割合は、寝酒を飲む人の52%に比べ、飲まない人は61%だった。また、アルコールは睡眠の質にも影響し、夜間2回以上目が覚めるという回答は、アルコールを摂取した場合が半数近くあり、そうでない場合は 38%だった。さらに、砂糖の摂りすぎなども要注意である。砂糖、飽和脂肪酸、加工炭水化物は、睡眠妨害の要因に挙がる。反対に、野菜・果物、食物繊維、不飽和脂肪酸が良好な睡眠を促進するものとして勧められる。特に、ベリー類が有効で、ラズベリーはメラトニンや、メラトニンを生成するトリプトファンを多く含むという。

原材料の睡眠改善効果が政府の承認を受けた商品は現在ないが、マグネシウム、ビタミンB12、B6、Cや CBD、プロバイオティクスなど、「疲労を軽減」し、「睡眠をサポート」を訴求する商品が続々と市場を賑わせている。

「GNGグローバルニュース 2022年10月26日号」より

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