【後編】腸内細菌に注目した食品開発のヒント~ファーマシューティカル化が進む発酵食品

人体に「1000種、数十兆個」も存在すると言われている「腸内細菌」。近年、人の体にさまざまな影響を与えていることがわかってきました。それにともない、腸内細菌に着目した食品も続々と登場。「脳」や「皮膚」にまで影響を与えるとされる腸内細菌の最新研究と、関連商品の開発のヒントについて、西沢邦浩氏(株式会社サルタ・プレス代表取締役、日経BP総研客員研究員)に伺いました。

細菌の「代謝物」に着目した商品開発にチャンスがある

「腸内細菌×食品」でとくに注目されているジャンルは何でしょうか?

やはり発酵食品ですね。日本には、納豆や味噌、醤油、ぬか漬け、日本酒などの伝統的な発酵食品が数多くあります。そしてそれらに日常的に親しんできた私たちの頭には、「発酵食品=体にいいもの」という公式がインプットされている。こうした日本人の発酵食品に対する信頼は、食品メーカーの開発者としても大いに利用できると思います。素材や食べ方だけでなく、マーケティングの手法も含めて、「腸」をキーワードに消費者の心をつかむ発酵食品を生み出すチャンスは無限に広がっていると感じますね。

 

前編でもお話ししましたが、これからは細菌が生み出す「代謝物」つまりポストバイオティクスにスポットを当てた商品訴求も効果的ではないかと思います。腸内環境を整える方法として、ビフィズス菌や乳酸菌などの有用菌を直接取り込む「プロバイオティクス」と、食物繊維やオリゴ糖など、腸内にいる有用菌のエサとなる成分を摂取する「プレバイオティクス」の大きくふたつがありますが、近年はこれらを組み合わせた「シンバイオティクス」も注目されています。さらに最近では、有用菌が生み出す「代謝物」に注目した製品も登場しています。

たとえば、女性の健康維持や生活習慣病予防に効果があるとされる大豆イソフラボンは、特定の腸内細菌によって「エクオール」という成分に代謝されることでその機能性が高まります。しかし、すべての人がその腸内細菌を有しているわけではなく、大豆イソフラボンを摂取しても、エクオールを生み出せない人が一定数いることが知られています。そうしたエクオール非生産者をターゲットとして発売されている、エクオールを主成分とした製品は、この領域の嚆矢と言っていいのではないでしょうか。

なるほど。シンバイオティクスのさらに先を行っているわけですね。

そうともいえます。現在、大豆イソフラボン以外のポリフェノール類から脂質成分まで、さまざまな食品成分について、その腸内細菌による代謝物の体内動態や機能性が盛んに研究されています。有用菌やそのエサのみならず、「有用菌が生み出す●●という注目成分も大量に含んでいる」というのは、今後、もっと商品の売りになりうるのではないでしょうか。

そして、そのような成分をわざわざ入れているのに、そこには訴求せず製品を販売しているメーカーもあります。たとえばある日本酒メーカーは、日本酒の醸造過程で生まれる微小成分を増量して販売している。その成分がある重要な機能性を持つことを解明しつつあるのですが、機能性を訴求せずに消費者からどれだけ支持されるか見ているわけですね。つまり、それだけおいしさにも自信を持っているということです。

話が少し本旨からずれますが、この点は重要だと思います。本来、食はまず、おいしいことが前提であるべきで、それが体にいい機能性を持つとなるとお得感がぐんと上がる。しかし、機能性先行で味の探求を妥協した商品では、消費者がとり続ける必然性を見失うことも多い。やはり、食品はおいしくてなんぼです。何も機能性をにおわせない商品が人気を博して定着したタイミングで、「実はあの商品には隠れた機能性があるらしい。実はこんな論文も出ていた!」なんていう情報が確かな筋から広がったら、人気が爆発する可能性もあると思いませんか?

一方、新しい成分や腸内環境に与える影響などについて、きちんとした科学的なエビデンスを得るためには相応のコストが掛かってしまいます。中小のメーカーには、それを捻出するのはなかなか難しいし、その結果が出るまで製品化を躊躇していたら、事業のタイミングを逸することもあるかもしれない。前述のメーカーにも、こうした背景があったのかもしれません。

国や自治体は、体にいい影響を与える成分の研究や商品開発に関して、もっと積極的に評価しサポートしてほしいものだと感じています。研究デザインから商品化、市場性まできちんと評価したうえで適切な投資をしていけば、国や地域に利益をもたらす財産になる可能性は十分にあります。

世界をリードする「腸」関連の食品に期待

最後に、食品メーカーの開発担当者に向けてメッセージをお願いします。

サプリメントを上手に利用する人も増えましたが、日本人はやはり日常的に食卓でおいしく食べられる「食品」で健康になれるのが理想的だと考えている人が多いのではないかと思います。ですから、食品メーカーには、どんどん体にいい「腸」関連の商品を生みだしていただきたいですね。

たとえば、最近注目されている腸内細菌のひとつに、「アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia Muciniphila)」があります。痩せ菌として話題になっただけでなく、リンパ球を誘導したり、結腸がんの発症を抑制するなど免疫系の機能も注目されているヒトの腸の常在菌。日本では“長寿村”で知られる沖縄県大宜味村生まれの年配女性が多く有しているという研究報告があります。ヨーロッパはいち早くこの細菌に着目し、EFSA(欧州食品安全機関)が昨年、低温殺菌した同菌が食品として安全であるという評価を公表しました。間もなく、アッカーマンシア・ムシニフィラ入りの商品が市場をにぎわすことになるのではないでしょうか。

そういう意味で、やはり日本のメーカーや政府には、世界で進行している腸関連の研究とその安全性評価などに後れをとらない動きを期待したいです。もともと、日本は乳酸菌研究で世界を牽引していた国でした。再び、新しい次元の腸の研究や腸を介して健康の実現を図る研究で、世界をリードしてほしいと思います。

<インタビュー前編はこちら>

西沢 邦浩 氏 プロフィール

株式会社サルタ・プレス代表取締役。日経BP総合研究所 客員研究員。
1998年『日経ヘルス』創刊と同時に副編集長に着任。2005年より同誌編集長。2008年に『日経ヘルス プルミエ』を創刊し、2010年まで編集長。同志社大学生命医科学部委嘱講師。日本腎臓財団評議員などを務める。著書に『日本人のための科学的に正しい食事術』など。ラジオ日経「大人のラヂオ」に出演中。


ウェルネス総研レポートonline編集部

関連記事一覧