【後編】マーケティングをより効率的かつ効果的に!
性年代別を超えた「ウェルネストレンド白書」の活用法
一般社団法人ウェルネス総合研究所は、20代~70代、約4,600名の生活者の健康・ウェルネスに関する意識と行動分析に基づき、今後予測されるヘルス・トレンドシナリオを洞察した調査レポート『ウェルネストレンド白書 Vol.2』を2022年5月31日に刊行しました。Vol.2では、Vol.1からさらに細分化された生活者の「7つの健康セグメント」について、商品開発やマーケティングをする上で性年代別に留まらない考え方の重要性や、トレンドワードおよびヘルスベネフィットの捉え方をひも解いています。
後編では、「7つの健康セグメント」にトレンドワードおよびヘルスベネフィット、成分や素材といった軸をクロスさせた分析・活用法について、本調査の設計、調査、分析をおこない監修をつとめたウェルネス総合研究所のエグゼクティブフェローである赤坂幸正氏にうかがいました。
トレンドワードにヘルスベネフィット、“顕在”と“潜在”のギャップにこそ市場で先回りのチャンス!
白書の中で約20種類あるトレンドワードについて、どのように見たらよいでしょうか?
トレンドワードは認知度や理解度、さらに実践の意向などについて各健康セグメント(以降、セグメント)で調べています。ここで注目してほしいのは、海外におけるトレンドの国内での反応と、誰もが知る一般的なものとそうでないものが敢えて組まれた調査の中で、各セグメントにおける反応の差です。これらについて、「性年代別」と「健康セグメントでの反応」を掛け合わせて見てください。
とりわけ、日本でまだ馴染みの薄いワードは現時点における周知度、いわゆる“現在地”を知るためのヒントになるでしょう。中にはまだ業界用語の域を超えていなかったり、それが生まれてから日が浅かったりすることが理由で認識されていないワードもあります。例えば、最近広まりつつある“フェムテック”には多くの商品や商材があるものの、それを使っている人すべてがこのワードを知っている訳ではありません。また、ビタミンCとビタミンEにおける情報量の違いは、我が国の教育や理解をするための機会に比例しているとも考えられます。プロモーション活動では、そうした背景に対しての説明や配慮も必要でしょう。
トレンドワードと健康セグメントとの関連性は、どのように読み取れますか? また、セグメント間で何か関連性があれば教えてください。
トレンドワードの中で上位にある “発酵食品”と“腸活”は、全体的に市民権を得ていると言ってよいでしょう。これらは、「健康ストイック層」で最も多い85.4%、71.5%、「健康コンシャス層」だけでなく「コツコツ健康層」でも約6~8割と高い認知度です。一方で、近年よく見かけるようになった“アーモンドミルク”や“ライスミルク”、“植物乳代替品”は「健康ストイック層」で約5割。「健康コンシャス層」「コツコツ健康層」においては、まだ歴史が浅いのに4割近くに達してきていることがわかります。
ウェルネストレンド白書vol.2より
また、「健康ストイック層」と「健康コンシャス層」で数値の高いトレンドワードは、「コツコツ健康層」でも連なって高くなる傾向があります。
その他、「健康ストイック層」で認知率20%未満のトレンドワードにおいて、「健康コンシャス層」の方が「健康ストイック層」よりも数値が高いものがあります。これは新しい価値観やトレンド感の強いものが多い傾向にあると読み取れます。
これらの相関はピラミッド構造のように、「健康コンシャス層」が健康情報の起点となって「健康ストイック層」と「コツコツ健康層」に広がっていくと読み取ることも出来るでしょう。
ウェルネストレンド白書vol.2より
トレンドワードの認知率と理解率はどのように解釈し、ビジネスにつなげたらよいのでしょうか?
認知率が高いのに理解率が半数以下であるワードの、いわゆる“伸びしろ”についてはマーケッターの捉え方に委ねられます。つまり、既にファンのいる層を狙うか、逆にファンを育てていく層をねらうかという選択。これは、最終的に商品を受け入れてもらいたい層の設定によって異なってくるでしょう。
セグメントで言うと、「健康ストイック層」と「健康コンシャス層」に5割ほど認められているワードは、「コツコツ健康層」と「ラクして健康層」に3割ほど広まっています。また、「コツコツ健康層」と「ラクして健康層」は全体に占める数も多く、ターゲットとして必然的にビジネスが成立していきやすい層だと言えるでしょう。ここで課題となるのは、同じく数の多い「まだ大丈夫層」が何をきっかけとして健康行動に踏み出すのかを探ることです。さらに、「まだ大丈夫層」や「無関心層」を狙うにはコストや労力がかかるため、それを踏まえた上で商品設計をしていくことが必要になります。
また、「トレーニング大好き層」は、ほかの層で1割程度の弱いワードに対しても高い反応を示すことがあるため、新しいものや海外トレンドはこの層をどのように巻き込んでいくかが肝となるかもしれません。
ウェルネストレンド白書vol.2より
ヘルスベネフィットに対して“潜在”と“顕在”、どちらの関心にも触れていますが、その見方や扱い方について教えてください。
白書では47種類のヘルスベネフィットについて、生活者の関心や実践の有無を調査しました。これを、「関心と対策」「予防と対策」の2軸で見ることにより、“潜在”と“顕在”の市場規模における割合も知ることが出来ます。関心はあるけれど実際の対策には至っていないという、“潜在”にアプローチすることで新しいチャンスの探索に役立つでしょう。
具体的なヘルスベネフィットでは、「眼に関する健康」について見ると分かり易いと思います。これは、「健康コンシャス層」で7割も関心があるのに対し、約16%の人しか対策できていません。このギャップは、自分に合う商品に出会えていないことを示す結果とも言えるでしょう。事実、この層では薬やサプリメント等を摂取する人が24%であるのに対し、眼鏡やレンズを変えたり眼を温めたりするといった生活習慣の改善で対処する人が46%を上回っているのです。これを映し出すかのごとく、近年の市場では“飲む”よりも物理的な商品の方が拡大を見せています。
ウェルネストレンド白書vol.2より
ウェルネストレンド白書vol.2より
成分や素材を軸に白書を活用するなら、その“現住所”を知るのが近道!
自社で取り扱う成分や新しく開発する素材が決まっている場合、この白書はどのように活用できますか?
ヘルスベネフィットとは別に白書では、54種類におよぶ成分や素材について記しています。もし、この中に自社で扱うものがない場合は、近い作用の成分や素材を見ることでも参考になるでしょう。
例えば認知度が83%で第1位のビタミンCについて、特徴の理解率はおよそ半分の42%で、その関心度は34.1%とさらに下がり、実際の摂取意向率は32%、そして実際の摂取率は22.9%までばらつきがあります。ただし、これらの数値に一喜一憂する必要はありません。重要なのは自社の商品や素材が今、どの辺に位置しているかという“現住所”を把握してロールモデルの設計や見直しに取り組んでいくということではないでしょうか。
具体的な素材や成分で注目しているものと、その捉え方について教えていただけますか?
例えばローヤルゼリーは、認知率72%なのに対して特徴の理解率は18.1%、関心度12.9%、摂取意向率9.5%、実際の摂取率2.0%と、認知率のほかはあまり高くありません。つまり、認知率と摂取意向率および摂取率は比例しないということが分かります。また、摂取意向率が低いのはローヤルゼリーに代わる競合素材が沢山あるからかもしれません。これをセグメントで見ると、「健康ストイック層」や「健康コンシャス層」で約3割の理解率があることが分かるため、新しい魅力などを打ち出せばこの理解率と関心度を引きあげることが出来るかもしれないという仮説につながっていきます。
ウェルネストレンド白書vol.2より
一方、乳酸菌の認知率は79.7%で特徴の理解率は42.9%、関心度38.8%、摂取意向率41.8%、摂取率30.7%とどれも高く、今もっとも注目されている素材と言えるでしょう。この乳酸菌と同じような市場をどのように作っていくかというのが課題です。ただし、乳酸菌は生活者自身のイメージで特徴を理解している可能性もあり、ときには商品に打ち出した価値と合致していないことも。このような不一致を考えるときにも白書は便利です。
ヘルスベネフィットを打ち出すときに、この白書はどのように役立つでしょうか?
乳酸菌で言うと免疫や腸など、そのヘルスベネフィットは様々です。セグメントの中で乳酸菌に対する反応が低い「まだ大丈夫層」と「ラクして健康層」は、免疫や整腸作用といった一般的な“乳酸菌文脈”では動かない層だということも一目瞭然。つまり、新しい視点での動機付けが必要です。ここでこの2つの層が、“睡眠”と“ストレス”に関心の高いことと、50歳以下の男性で乳酸菌に対する数値が低いことを考慮すると、不眠対策やストレス対策として乳酸菌を打ち出せば響くかもしれないという仮説が立ちます。この見方は、近年における乳酸菌市場の背景をひも解くヒントとしても使えるでしょう。
ヘルスベネフィットと成分や素材、セグメントの掛け合わせで市場を考えることにより、今ある素材や商材をベースとしてリニューアルを図るときにも有用です。
ウェルネストレンド白書vol.2より
最後に、商品開発やマーケティングを担当される方々に向けてメッセージをお願いします。
おそらく、企業側がこの白書だけで商品設計やマーケティング活動を進めていくことはないでしょう。独自の調査を重ねるうちに数々の検証事案が浮かび上がり、追加の調査が必要となるケースが多いと思います。そのとき、自社商品にとって最大のターゲットを効率的にねらうために、7つの健康セグメントという一種の“軸”を上乗せするようなイメージで活用するのがおすすめです。つまり、膨大な費用と労力がかかる部分を、ギュッと凝縮したものがこの白書だと思ってください。
この白書をきっかけとしてウェルネス総合研究所は各企業に貢献し、そして結果的に国民の皆様における健康やウェルネスに対し、貢献していくこととなれば嬉しいかぎりです。
赤坂 幸正 氏 プロフィール
ウェルネス総合研究所エクゼクティブフェロー。2000年代から食品や食品素材のマーケティングPRのプロジェクトに参画し、様々な市場創造に貢献する。2010年代からはPRの領域を超え、機能性成分や生活者のヘルスベネフィットの知見を活かし、商品開発やマーケティング戦略などに従事。2021年より現職。