食の果てしない可能性を活かすために必要な“木を見て森を見る”視点

栄養素や成分についての研究が進む中、「〇〇さえ摂れば健康でいられる」と思わせられるような研究発表やメディアの喧伝も少なくありません。そうした視点は「木を見て森を見ず」、つまり体内で栄養が代謝されて人体に関与する気が遠くなるような複雑な化学反応の全体を見ることなく部分だけを取り出して突き詰める「リダクショニズム(細分主義)」であり、その結果、栄養と健康・医療について最も大切なことが抜け落ちてしまっていると警鐘を鳴らし、その背景にある栄養学界や医学界の仕組みにまで踏み込んだ大著が『WHOLE がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学』(T・コリン・キャンベル著 鈴木晴恵監修 丸山清志訳/ユサブル社)です。

「リダクショニズム(細分主義)」から出て「ホーリズム(全体主義)」に立つには

著者のキャンベル博士は「ここ100年で最も影響力の大きな栄養学者」と言われるコーネル大学栄養生化学部名誉教授。50年以上栄養科学研究の第一線で活躍し、「栄養学分野のアインシュタイン」と称される世界的権威です。300以上の論文を執筆し、中でもコーネル大学・オックスフォード大学・中国予防医学研究所による大規模な共同研究である「チャイナ・プロジェクト」(中国農村部の食習慣研究)は、「健康と栄養」に関する疫学研究の最高峰といわれています。

こう書くと、キャンベル博士は栄養学の王道を歩んできたように見えますが、そうではありません。
酪農家の家に育ち、家畜から摂るたんぱく質を増やす方法を見つけることで人類の健康に貢献できると考えてキャリアをスタートした博士が「研究者としての異端児」の道を歩くことになったのは、たんぱく質と肝臓がんの相関に関する異常値=アウトライヤーに関心を持ったことがきっかけでした。「アウトライヤー」とは、観察された結果の大半の部分から外れたデータのこと。フィリピンの子どもたちの栄養失調を救うためにたんぱく質の研究をしていた博士は、最も裕福でたんぱく質を豊富に摂っていた子どもたちに、最も肝臓がんが多いという予想と相反する研究データを無視することができず、その発見を慎重に科学的な態度で突き詰めていきました。

その結果、①栄養は人間の健康のマスターキーであること、②適切な栄養だと私たちが考えているもののほとんどは実は適切ではないことという認識に至り、「チャイナ・プロジェクト」を紹介した前著『The China Study』では、「PBWF(プラントベース・ホールフード)食」が人間の食事として最も健康的であること、そしてそれを示す証拠を世に問いました。例えば、リンゴに含まれる栄養素としてわかっているすべての栄養素を錠剤で摂取した時よりも、リンゴを丸ごと摂取した時の方がはるかに健康効果が高いという検証結果がその証拠の一つとして挙げられています。

博士が提唱したPBWF食は社会に衝撃を与え、GoogleやFacebookなど社内のカフェテリアでPBWF食を提供する企業も現れる一方で、多くの批判も受けてきました。本書では、そうした批判の背景にあるPBWF食が広まる上での障壁が、科学や医学における「リダクショニズム(細分主義)」と「ホーリズム(全体主義)」の対立に起因すること、また、現在の私たちはリダクショニズムが支配する世界に住んでいて、そこから一歩外に出る視点を持たないとホーリズムを理解することが難しいこと、さらにホーリズムを理解し健康情報を見極める科学的な方法についても丁寧に解説しています。

索引込みで483ページにわたる大著ですが、インターネットを検索して得られる情報とはケタ違いの密度と熱量は、食と健康に関わる仕事に携わる人なら一読するべき。食の果てしない可能性と、人間に備わった「健康に生き続けるための機能」への理解と知識、敬意を持つとき、一つの素材や成分への向き合い方もきっと変わることでしょう。

【書籍情報】
『WHOLE がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学』(T・コリン・キャンベル著 鈴木晴恵監修 丸山清志訳/ユサブル社)


ウェルネス総研レポートonline編集部

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