これからの三大栄養素と国内外のトレンドを分析!
「ウェルネストレンド白書Vol.2」

一般社団法人ウェルネス総合研究所は、20代~70代、約4,600名の生活者の健康・ウェルネスに関する意識と行動分析に基づき、今後予測されるヘルス・トレンドシナリオを洞察した調査レポート『ウェルネストレンド白書 Vol.2』を2022年5月31日に刊行しました。Vol.2の目玉として新しく加わった「三大栄養素」では、国内外の動向と共に、リアルな日本人の消費者における傾向をVol.1に続き各健康セグメントで細分化。さらにヘルスベネフィットに対する関心度や、“ムード&マインド”といったトレンドワードについても分析しています。本調査の監修をつとめたグローバルニュートリショングループの武田猛氏に、調査を重ねての気付きや国内外でのトレンドについてうかがいました。

Vol.2で「三大栄養素」が追加された背景と第2世代「栄養素密度」の捉え方

「ウェルネストレンド白書Vol.2」でもVol.1と同様に生活者を「7つの健康セグメント」に分類して調査をしていますが、ふたつの比較を含めて全体の所感をうかがえますか?

前回Vol.1の調査から期間にして半年ほどが経過しました。ここで、トレンド自体の急激な変化はありませんがVol.1で得られた反響をもとに細分化し、完全版としてアップデートした部分があります。さらに、新しく追加した項目の中では「三大栄養素」が最も注力したテーマです。
また、健康セグメントにおける定義の仕方については、十分に再現性のあるものと確信することが出来ました。例えば、前回と今回とでは完全に異なる方々を対象に調査をしたのに、健康ストイック層では前回9%で今回8.8%、健康無関心層では前回13.1%で今回13.7%というように、ほとんど同じ結果が出たのです。

新しいテーマとして「三大栄養素」を追加した背景や、その理由について教えていただけますか?

「三大栄養素」を追加したのは、今まさに諸外国でトレンドになっているからです。とくに欧米では、低炭水化物ダイエット(ローカーボ・ダイエット)、ケトン食(ケトジェニックダイエット)といった、三大栄養素の摂取量や摂取方法を総括した食事の仕方そのものが注目を集めています。
では、欧米のケトダイエットは日本でも流行るでしょうか?その答えを握る鍵は、日本人が今、三大栄養素をどのように捉えて食事方法に向きあっているかという実態を知ることです。Vol.2では、この問いに対して一定の回答が見出せる調査結果となりました。

諸外国の国民1人・1日当たり供給栄養量(2018年)

出典:農水省「諸外国の食料自給率等」のデータを基に作成

三大栄養素を考える上で必要なキーワード「栄養素密度」とは、どのようなものですか?

「栄養素密度」というのは一定のエネルギーkcal(キロカロリー)を摂取するごとに、どれくらいの栄養素を摂取できるかという食品中の栄養素の量で、栄養素プロファイルと呼ばれるもののひとつです。今、ヨーロッパでは“ニュートリスコア“※、オーストラリア・ニュージーランドでは”ヘルス・スター・レイティング・システム“※といった栄養素密度と同じ考え方が注目されています。
これは、食事をエネルギー量(カロリー)ではなく中味(栄養素)の質で評価するというもの。ひと言で、脂肪や炭水化物といっても含まれている栄養素によって点数が変わります。例えば、同じエネルギーでも精製した小麦粉を使ったパンのニュートリスコアはE、全粒粉やライ麦のパンはAといったように異なるのです。

※ニュートリスコア:砂糖やナトリウム、脂肪の含有量をもとに5色でラベル付けする仕組みのことで、ヨーロッパを中心に支持する国が増えてきている。
※ヘルス・スター・レイティング・システム:類似の製品カテゴリー内での栄養価比較に役立つ指標。0.5〜5まで、星の数が多いほど健康的とする。

白書Vol.2では、栄養素密度についてどのような視点で触れていますか?
さらに、国内外でのギャップもあれば教えてください。

栄養素密度を満たすことを目的として、ビタミンや食物繊維などの足りないものを積極的にプラスするといった「ON」の考え方と、より栄養素を豊富に含む食材を選んで摂取していくという「OFF」の考え方があります。
この「ON・OFF」の考え方についてもVol.2で明確に示しました。タンパク質はON、炭水化物はOFF。ただし、食物繊維はONであることも踏まえて素材ごとに評価しています。また、脂質に関しては国内外あるいはアジアと欧米で異なり、ケトダイエットではONなのに対し、我が国のLow Fat(低脂肪、ローファット)志向ではOFFであるというギャップも。
欧米では最近の10年ほどで、低脂肪や低カロリー、低炭水化物という考え方は減少傾向にあります。反対に、野菜やフルーツを豊富に含むものが好まれるようになり、ナチュラルな栄養素で素材そのものを最大限に活用するという形がトレンドになっています。

ヘルスベネフィット(機能性)や素材ごとの関心度は、健康セグメントを見ると傾向が分かる!

Vol.1でもヘルスベネフィットに対する関心度を調べていたと思いますが、Vol.2で得られた結果はどのようなことでしょうか?

Vol.2でもVol.1とほぼ同じような、ヘルスベネフィットに対する関心度の内訳が得られました。例えば最上位の“健康維持増進”は、前回が63.3%で今回が64.0%、最下位の“抗炎症”は前回が25.1%で今回が25.3%。ほかの上位2つと下位2つについても、ほとんど差はありません。つまりここでも、白書の再現性における高さを実感したところです。

関心度上位3、下位3のヘルスベネフィットのボリューム、ポテンシャル

ウェルネストレンド白書vol.2より

素材ごとの関心度と、具体的な健康セグメントとの関連性について教えていただけますか?

そうですね、企業側からすると素材のアプローチ対象となる健康セグメントが気になる部分だと思います。その視点でいえば、トレーニング大好き層は「対策をしている」もしくは「対策する意向がある」という所でほかのセグメントと一味ちがって分かり易いです。この層のポテンシャルは上位から順に、「健康増進」「筋肉増強」「健康維持」。そして彼らの素材認知率は順に、「ビタミンC」「鉄分」「カルシウム」「プロテイン」「コラーゲン」となっています。
ほかの層が免疫力や疲労回復を意識して“乳酸菌”を評価していることと見比べても、その目的の違いが分かるでしょう。つまり、単純に素材の認知率を上げることを考えるよりも、対象とする健康セグメント層へ効率的に届くようなアプローチを考えることが重要です。

各健康セグメントの「対策/対策意向あり」ヘルスベネフィットトップ3

ウェルネストレンド白書vol.2より

各健康セグメントの素材認知率トップ5

ウェルネストレンド白書vol.2より

「トレーニング大好き層」が今後、健康食品の市場へ与える影響はどのくらいあるのでしょうか?

実は、このトレーニング大好き層の全体数は6%程度と多くありません。よほど世界的な影響力をもつ人物が強力にアピールでもしない限り、爆発的な市場への影響は生まれにくいでしょう。しかし、次の理由から、この層の影響力は無視できません。
トレーニング大好き層の構成比は8割近くが20~40代を占め、情報収集の手段も多く積極的な人たちです。また、ほかの層と違って健康課題を抱えている訳ではなく、成功したい気持ちやパフォーマンスの向上を目的としています。こうした人たちの非常に高い情報感度と情報発信能力は、市場に対して何かしらの影響を与えていくのかもしれません。

“ムード&マインド”などのトレンドワードから見る!今後の市場予測とVol.3への展開

トレンドワードの中で注目しているものは何ですか?
また、近年の動向や国内外での違いがありましたら教えてください。

ここ2年位で“ウェルビーイング”の認知率が急速に上がり、これに伴って“ムード&マインド”の需要が高まっています。日本では「ムード」というと、「ストレス」と捉われることも。また、「認知機能」というと「認知症予防」を想像する人が多いかもしれません。
しかし欧米では、良い睡眠をとるためにCBDを使うことも「ムード」の一種で、「認知機能」もまた、ブレインヘルスとしてパフォーマンス向上のためにヌートロピックを取り入れることが若い世代でも広まっています。こうした外国における動向は、ストレス解消を目的としていないトレーニング大好き層と重なるのかもしれません。
さらに近年、「マインド」を整えるとして注目を集めている「脳腸相関(のうちょうそうかん)」。炭水化物に含まれる糖質の種類によって腸の働きが左右され、これが脳や精神的なところにも影響を及ぼすという考え方が浸透しつつあります。

最近よく見かける、“タンパク質”についてはどのように見ていますか?
国内外で異なる違いについて教えてください。

タンパク質は間違いなく重要な栄養素で強力なトレンドですが、国内外における食環境は大きく異なります。三大栄養素の中でタンパク質を摂取する比率は、日本と米国、フランス、オーストラリアの4カ国で違いはありません。一方で脂質は他の国々より低く、逆に炭水化物は高いのです。これを絶対量として見ると、我が国のタンパク質摂取量は決して多い訳ではなく、脂質については他の3カ国の半分程度。さらに、油脂の摂取量で見てみるとチーズやバターの乳製品は、日本人の4~7倍も摂取していることが分かります。
したがって、高タンパクのトレンドをプラントベースプロテイン等で日本において取り入れる際には、諸外国との位置づけが違うということを抑えておく必要があるでしょう。

油脂の年間消費量(㎏/年/人)の国際比較(2018年)

出所:日本油脂栄養学会資料

“タンパク質”の市場は、今後どのようになると予測されていますか?

ここ2~3年で、特に若い人たちを中心にSDGsという言葉を使う機会が増えてきたように感じています。食を取り巻く様々な課題に対し、真剣に取り組む姿勢を発信している企業でないと選んでもらえない時代になってきました。さらに異常気象や戦争なども加わり、これまで普通に採れてきた野菜や果物も影響が出始めています。
そうした中でもタンパク質は、培養という分野もあることでサステナビリティの観点とも連動し、さらに新しいトレンドを生みだしていくのではないでしょうか。

最後に、次のVol.3で展開を予定されていることを教えていただけますか?
また、今回のVol.2を活用する方々へメッセージをお願いします。

次回のVol.3では調査を始めてからちょうど1年が経過しているため、健康意識やヘルスベネフィットに対する意識などに動きがあるのか注目したいですね。引続き、健康セグメントごとにこれらのデータをクロスして細分化していく予定です。
今回のVol.2では、諸外国のトレンドも踏まえながら実際に我が国の生活者におけるONとOFFを調査したことで、日本の縮図を細かく示す結果が得られました。情報源の多様化した現代では、対象となる健康セグメントを理解したうえでの、ストーリーでの提供・アピールが欠かせません。今白書で細分化したものを、商品だけでなく総合力をもって社会と関わっていきたい企業にご活用いただけたら嬉しいかぎりです。

武田 猛 氏 プロフィール

株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役。18年間の実務経験と17年間のコンサルタントとしての経験を積み、35年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わる。コンサルタントとしては国内外合わせて650以上のプロジェクトを実施。「世界全体の中で日本を位置付け、自らのビジネスを正確に位置付ける」という「グローバルセンス」のもとに先行する欧米トレンドを取り入れたコンセプトメイキングに定評がある。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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