ウェルビーイング時代のヘルスケアフーズで要となるのは「細胞」と「タンパク質」

ウェルビーイングを叶える具体的な手段として何を思い浮かべますか?オートファジーやサーチュイン遺伝子といった細胞再活性のメカニズムが解明されてきた現代では、毎日摂る“食”についても人々の関心や市場の動向が大きく変革しています。 一般社団法人ウェルネス総合研究所は、「ウェルビーイング時代のヘルスケアフーズを考える」について、2022年3月4日(金)にメディア向けオンラインセミナーを開催しました。本総研理事の藤田康人氏による登壇に加えて、ゲスト講演には株式会社ダイセルの卯川裕一氏と、森永乳業株式会社の内門将彦氏をお招きし、ご解説いただきました。その内容をレポートします。

「細胞再活性」と「タンパク質」を軸として、2022年に進化する“食”の概念とは

本セミナーではウェルビーイング時代のヘルスケアフーズをテーマに、講演①では株式会社インテグレート代表取締役 CEO、当法人理事の藤田 康人氏から、ウェルビーイングとSDGsとの違いやマインドフルネスが食と市場にもたらした変革を、講演②では株式会社ダイセル ヘルスケアSBU事業推進室 事業戦略グループ マネージャーの卯川裕一氏から、化学メーカーにおける食品素材開発のコンセプトおよびウロリチンAにおける産学共同での社会実装の今と課題を、そして講演③では食品メーカー 森永乳業株式会社 営業本部 マーケティング統括部 ヘルスケア事業マーケティング部 ヘルスケアフーズマーケティンググループ長の内門将彦氏から、タンパク質の未病ケアにおける可能性と課題についてお話しいただきました。
また、最後には3人でクロストークを行いました。

講演①:藤田康人氏による「ウェルビーイング市場の動向と変化する人々の食への関心」

まずは株式会社インテグレート代表取締役、当法人理事の藤田 康人氏より、「ウェルビーイング時代のヘルスケアフーズを考える」と題して、ヘルスと異なるウェルビーイングの定義からSDGsとの関わりや国を挙げてのKPI設定、ナチュラル・オーガニックを支える食生活に幸福感を交えた新しい食のコンセプトについて解説しました。
ウェルビーイングはJoyやHappyを示す瞬間的な状態ではなく長期的に満たされている状態のことで、ベースとなる心と身体の健康(これまでヘルスと呼んでいたもの)に加えて、人との繋がりや愛によって生まれる“オキシトシン的幸福”※が重要です。
また、人との繋がりを示すソーシャル(社会的)の規模で見ると、ウェルビーイングは自身と身近な家族など“ミクロ的”な視点にある人との関係性を重んじるのに対し、SDGsは地球全体でみる“マクロ的”な視点で異なるものだと説明します。

※オキシトシン的幸福:人が感じる幸せの脳内物質をドーパミン、オキシトシン、セロトニンの3つに段階分けしたうち、スキンシップや信頼関係を生むときの感情によって分泌が促されるホルモンのオキシトシンに注目した幸福に関する造語。

行政の動きでは、2021年6月18日に内閣府より交付された「経済財政運営と改革の基本方針2021」の中で、ウェルビーイングに関するKPIが設定された背景について示しました。これには世界幸福度ランキングにおける、我が国の第56位(2021年)という低さが影響しているとも。 来る「EXPO2025大阪万博」に向けて、金銭的な成長を前提とする物質的な豊かさの指標GDPではなく、国民ひとり一人が主観として幸福を実感できる豊かさの指標GDWについて多くの人や企業においても理解を深めることが必要でしょう。

市場動向では2021年に話題となった「トランステック※」から「ウェルビーイング・テクノロジー」へと名を変えて拡大する、幸福を実現するためのテクノロジー産業とベンチャー企業について解説。
このうち瞑想や睡眠をサポートするサプリメントの市場は世界規模100兆円、日本規模10兆円の成長セクターにもなっているといいます。

※トランステック:(Transformative Technology)睡眠、マインドフルネス、瞑想に関するテクノロジー領域のこと。

国内の市場規模も今後さらに拡大すると見ている経済産業省の取りまとめを示した上で、 近年のパンデミックが追い風となり若者たちの間で流行っている“デジタルデトックス”やサウナブームについて触れました。自らの言葉で「整える」という、これらの行動はまさにマインドフルネスにおけるアクティビティの一環だと言えるでしょう。
そして話題は“食”に移り、ウェルビーイングがナチュラルフードやサステナビリティフードとどのような関連性をもつのか解説しました。 題材として挙げたビールとグラノーラでは、これまでトレードオフとされていたカロリーや糖質について、ヒトの脳内で分泌される幸せホルモンの視点からメーカーの製品展開を紐解く部分に納得です。
さらに食から細胞へとブレイクダウンし、オートファジーとサーチュイン遺伝子にホメオスタシスの概念を交えながら細胞そのものを元気にする食品素材ウロリチンや、CB1とCB2に代表される内因性カンナビノイド(ECS)について解説。このECSの機能する受容体はタンパク質で構成されていることや、ウイルスと闘う抗体も、肌や爪のほか各臓器もすべてタンパク質から成っているということを強調しました。 つまり、ウェルビーイングを叶えるには細胞一つひとつ、さらにその土台とも言えるタンパク質を考えることが重要です。

講演②:卯川裕一氏による「ウロリチンの最新知見とウェルビーイング時代の健康課題」

続いて株式会社ダイセル ヘルスケアSBU事業推進室 事業戦略グループ マネージャーの卯川裕一氏から「細胞から考える健康へのアプローチ」と題し、ウロリチンを挙げ産学共同で社会実装に取り組む想いと実態、課題についてお話しいただきました。
まず企業コンセプトについて、これまで技術と製品ベースであったそれぞれの事業体制を注力市場に共通する価値として提供するため、価値と素材に大別して提供する戦略ビジネスユニット(SBU)に切り替えた理由を解説。
そしてなぜ食品素材メーカーが通販事業に参入したのか、現代のサプリメント市場におけるコンセプトの曖昧なところに歯痒さを感じたと言います。
ここで嫌気性菌を使い世界で初めて工業的な生産に成功した、ザクロ由来の高機能性腸内代謝物素材ウロリチンAにおける開発コンセプトについて説明し、それが消費者にとって明確な価値と素材の提供につながることを示しました。
その機能性報告では、研究者や医師が参考とする生物医学分野での最先端研究に特化した生物医学ジャーナル誌であるNature Medicine にも掲載されているそうです。中でも、「マイトファジー誘導効果」や「SIRT1(サーチュイン1)発現増強効果」、「細胞老化の抑制効果」は細胞再活性化に関わる部分、即ちウェルビーイングに大きく関わる部分だと言います。
さらに、大阪大学との共同研究により得られたウロリチンAのマイトファジー効果に関する最新の知見を解説いただきました。
2019年には、ウロリチンAがサーチュイン遺伝子のうちSIRT1というサブタイプに作用することを論文発表。皮膚光老化抑制やヒト試験における血管内皮機能が改善したという結果に加え、2021年の論文では酸化ストレスを緩和することについて報告されたと言います。
今後の課題は、このウロリチンAを使い体内で起こっている目には見えない細胞再活性化の効果を、目視と体感のできるシミやシワなどを含めオートファジー活性の測定が出来るようにすること。
そしてウェルビーイング時代には、細胞再活性化の効果が深く心の健康に寄与するという考え方やそのエビデンスについて、メディア等を通じ広く周知できるよう情報発信にも注力していく構えだと語りました。

講演③:内門将彦氏による「可能性を秘めた第2時代のタンパク質と栄養ギアチェンジ」

3人目の登壇では森永乳業株式会社 営業本部 マーケティング統括部 ヘルスケア事業マーケティング部 ヘルスケアフーズマーケティンググループ長の内門 将彦氏から、今後のたんぱく質関連商品の可能性とウェルビーイング時代に押さえるべきタンパク質に関する4つの視点についてお話しいただきました。
これまでのタンパク質に対する消費者イメージや市場での訴求は、“ムキムキ”という言葉で表されるように運動や筋力増強を目的とする視点が強く見られます。
しかし、これからのタンパク質はホルモンや酵素、抗体等の身体すべてにおける必須材料であるという考えのもと細胞を維持することを目的とする視点へと変わっていくでしょう。
まず1つ目は、「新型コロナウイルスと健康・栄養の話題」について。長引く自粛生活により、生活習慣病の発症や悪化もしくは未病から発症へと移行する健康の二次被害が増大する可能性が示唆されます。感染拡大防止下の行動変化について一般人を対象とした調査では、「運動する機会や運動量が減った」との回答が最多数の約5割を占めました。
ここで過栄養と低栄養の状態から、フレイルへの連続性を解説。とくに65~75歳の世代は、年齢別カロリー摂取における考え方の“栄養のギアチェンジ”が必要とのことです。
2つ目は、「コロナ禍による生活者の食に対する変化」について、コロナ後の健康意識が向上したという調査結果に言及した後、森永乳業グループは一丸となり、開発の核とする「おいしさ・楽しさ」に強化項目として「健康・栄養」を上乗せした独自性を発揮する商品開発・育成を進めていくことを改めて強調した。
ここで同社グループの株式会社クリニコが提供する、メディカル分野でニーズの高い栄養補助食品や流動食等の病態栄養部門についてご紹介も。
3つ目は、「タンパク質関連商品の市場状況」について解説しました。この市場は長く国が呼びかけてきた背景もあって、2010年から10年間で3倍にも伸長し非常に活況を呈しているのだとか。しかし、その機能性で見る内訳には筋力増強を目的とする製品が圧倒的多数でシニア世代の購入は限定的であり、これが食品メーカーにとって課題だと語ります。 そして4つ目には、「タンパク質の可能性」について多方面で摂ることのかなう無味無臭な製品展開や、消費者におけるベネフィットなどを解説しました。

クロストーク:「細胞をベースにウェルビーイングを考える、その土台はタンパク質」

最後に行われた3人のクロストークでは、藤田氏がウェルビーイング時代における細胞とタンパク質の考え方や動向、その展望についてトークを展開。
卯川氏は、オートファジーの解明が進んできたことにより細胞はこれまでと違った形で捉えられるようになった。そして、これが食品でも改善できることが分かってきたことは大きいと語ります。内門氏は近年の新型栄養失調も取り上げ、人生100年時代において心身両方の基礎となるタンパク質は命の源ともいえる最重要な栄養素だと強調しました。
また、藤田氏から細胞再活性とアンチエイジングの違いについて意見を求めると、卯川氏から細胞再活性は長期的に生活習慣や食を取り入れていくことが重要。一方のアンチエイジングは抗炎症や抗酸化作用が有用なのは分かるが短期的なもので、10年そして20年後に差が出てくるという部分で双方は区別されると説明します。
内門氏はこれに、食品メーカーを含めた多くの企業でその情報発信や啓蒙活動が必要だろうと添えました。
ウェルビーイング時代におけるヘルスケアフーズとして、目に見える部位に限らず身体の内部でも細胞再活性に寄与するウロリチンのような食品素材や、個々に必要とする目的をかなえるための多方面な剤形を備えたタンパク質食品が活躍しそうです。
幸せホルモンに対し必要以上に逆らうことなくウェルビーイングを追求し、食を楽しみながらいつまでも若々しく過ごそうと感じさせたセミナーでした。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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