「ウェルネストレンド予測2022」第3回 食品素材・成分業界から見た健康トレンド~新しい生活様式で必要とされる食品の機能性とは

一般社団法人ウェルネス総合研究所では、健康関連分野の情報をウォッチし続けている有識者に、2022年のウェルネストレンド予測についてインタビューとアンケートを行いました。コロナ禍によってウェルネスの潮流はどのように変化したのか、また、今後どこに向かって生活者の意識は変化していくのか。日頃から幅広い健康関連企業やユーザーと接しているジャーナリストならではの見解を、その背景とともにご紹介していきます。
ご協力いただいたのは西沢 邦浩氏(株式会社サルタ・プレス代表取締役、日経BP総研客員研究員)、大田原 透氏(株式会社クラブビジネスジャパン メディア事業部 編集長、元Tarzan編集長)、大豆生田 悦雄氏・石川 透氏(株式会社食品化学新聞社 取締役、Food Style21編集長)、菊池 功氏(朝日新聞Reライフ.net編集長)、奥谷 裕子氏(ウェルネス総研レポートonline編集長、株式会社からだにいいこと代表取締役)です。第3回は大豆生田 悦雄氏・石川 透氏に、食品素材・成分業界から見た健康トレンドを解説してもらいました。

最新素材注目の背景に「富裕層の認知機能維持」と「体感性」

食品化学新聞社は1964年、食品添加物および食品素材の専門紙「食品化学新聞」(週刊)を発行。以来、関連業界唯一の専門紙として独自の情報網と市場データをもとに、ニュースを提供し続けてこられました。1997年6月には食の健康機能に着目した月刊誌「FOOD Style 21」を創刊、石川様はその編集長でいらっしゃいます。一方、取締役の大豆生田様は食品添加物、健康機能性食品素材の業界で35年近く取材活動をしてこられた健康食品分野のエキスパートです。

【石川氏(以下石川)】「FOOD Style 21」は、食品成分(素材)の生理機能や生活習慣病予防に関する最新の研究を分かりやすく解説するとともに、その応用技術、開発商品を積極的に紹介しています。また、弊社ではこれからの食のキーワードは「美味しさと健康」であるという視点に立ち、2015年には「FOOD Style 21」の姉妹紙である「HJ ・健康食品新聞」と「食品化学新聞」を統合、美味しさと健康を兼ね備えた食品分野≒機能性表示食品を対象とし、その周辺も含めて積極的に報道しています。

現在、注目されている食品成分・素材にはどんなものがありますか。

【大豆生田氏(以下大豆生田)】日本の原料市場で今、最も注目されているのは「NMN」です。抗老化、オートファジー、サーチュイン遺伝子の活性化といった観点からはもちろん、認知機能関連、コロナフレイル関連でも活用が期待される成分といえるでしょう。

【石川】「認知機能」というと高齢者がターゲットと思われがちですが、その維持・改善にはもっと若い、現役世代からのケアが重要視されつつあります。また、NMNのように現状では高額な素材をサプリメントとして定期的に摂取できるのは富裕層でしょう。今後、資産を持っている人が、投資や相続などの判断を誤りたくないということで摂取する可能性もあり、実際にあるクレジットカード会社では、会員向けサービスとしてWEBを通じた認知機能チェックを定期実施し、その枠組みで食品による認知機能改善をみるオープン試験も行っています。近い将来、「富裕層の認知機能維持」はひとつの市場になると考えられます。

【大豆生田】また、中国やヨーロッパでは普及が加速している「CBD」も、今年は日本でももっと浸透が進むのではないかと考えられます。大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)の完全除去がいまだ課題ではありますが、今後はある程度淘汰が進み供給メーカーが絞られ、業界団体が絡む企業などある程度しっかりした供給元が残ることで、より普及が進むのではないでしょうか。THCがどうしても心配なら非大麻由来のCBDもあります。チルアウトやリラクゼーションなど、メンタルにおける効果の体感性が高いことも注目の理由です。

【石川】「体感性」もキーワードの一つですね。近年では機能性表示食品の普及・競合化を背景にエビデンスがあっても体感性がないと消費者に響かないため、商品開発や素材開発において体感性のある素材を組み合わせることが増えているようです。ダイエット系における温感素材の組み合わせや、脳血流測定、肌画像分析、毛細血管測定などを通じた“効果の見える化”が盛んになってきたのも、体感性を実感してもらうための施策の一環と考えられます。

「三次元培養」でサプリメントはどこまで効果を高められるか

  研究開発のトレンドではどんなことに注目されていますか。

【大豆生田】神奈川歯科大学の槻木恵一副学長が2021年4月に日本唾液ケア研究会を発足され、11月28日が「いい唾液(つば)の日」に記念日登録されました。唾液の健康成分はラクトフェリンやポリグルタミン酸など100以上あるといわれ、また唾液に含まれるIgA抗体はウイルスの侵入を防ぐなど、「口腔ケア」がコロナ禍の今、注目されています。マスク生活による口腔内の機能低下は、「口腔機能低下→食べられない→身体機能が衰える→出かけられない、交流できない(社会的フレイル)→認知機能低下、誤嚥性肺炎」といった悪循環を招くと考えられます。口腔と腸の相関関係は脳と腸同様に密接なものがあり、消臭効果や免疫効果などが研究されています。

【石川】研究方法においては、ヒトの組織細胞などをシャーレ上で増やす二次元培養から、実際に人体の中のような三次元の環境で細胞の培養を行う「三次元培養」が可能になってきたことが興味深いです。これにより、例えば血管内部の三次元環境で食後の高血糖状態を再現して血管内皮への影響を調べるなど、より体内での挙動に近いものが確認できるようになりサプリメントの基礎研究に役立てることも可能となってきました。こうしたテクノロジーを用いたエビデンスが今後、機能性表示食品などにどう活用されていくのか、注目しています。
また、香りや色を活用した認知機能テストが普及する可能性も出てきました。例えば、2021年に小林製薬が販売を開始した、香りによる認知機能スクリーニングテスト「ニンテスト」。これは6種類の香りをかぐことにより、短時間で認知機能のテストができるもので、計算や順序、記憶力などを計る既存の認知機能テストが苦手な方でもより抵抗感が少なく、結果を受け入れやすいのではと考えています。これは香りを使ったものですが、今後は色を用いたものも登場するかもしれません。

行動改善のためには共感性ホルモン「オキシトシン」が重要に

そのほか注目しているウェルネスのトレンドにはどのようなものがあるでしょうか。

【石川】「サプリメントは行動改善につながるものであるべき。行動改善しなくてもよくなるのは医療の領域」というのが私の持論。サプリメントで行動改善するには結局、続けられないと意味がないので、継続するための動機が必要になります。
体感性があることも一つの継続動機になりえますが、今後ますます重要になっていくのが、人と一緒に何かをすることによって生じる幸福感や安心感につながる共感性ホルモン「オキシトシン」の力。「eスポーツ」が盛んになっていますが、なぜ「eゲーム」ではないのか。人と人が競い合うことで成り立つスポーツは試合をしている人だけでなく、試合を応援している人も、脳内でオキシトシンが分泌されていると言われています。コロナ禍がもたらしたフレイルのうち、最も深刻なのが社会的孤立だと言う専門家も多いですが、そんな今だからこそ、オキシトシンなど定量化できる成分の研究・評価を進め、それがより多く分泌されるような状況と食品素材・成分を結びつけることが大切になってくると思います。

 

二極化する健康意識をつなぐのはコミュニケーション

ヘルスリテラシーの向上は引き続き課題ですが、ヘルスリテラシー向上のためにはどのようなことが必要だと考えますか?

【石川】投資判断や相続等を誤りたくないからと、認知機能を維持する高価なサプリを摂り続けるような層がヘルスリテラシーを高めていく一方、例えば東日本大震災の後、喪失感から立ち直れないまま、補助金の大半をパチンコにつぎ込んでしまう等、社会上・生活上の悪循環に陥った人の少なからずは、結果としてヘルスリテラシーから遠いところにいたと考えられます。まずは健康にお金をかけられる層から啓発することは順番として正しいと思いますが、ヘルスリテラシーを高めなければいけないのは後者も同じです。
この「二極化」をつなぐために今、必要なのはコミュニケーションだと考えています。カギをかけずに近所づきあいをした昔の日本社会のように、本来は、隣の人に声をかけたり、食べ物を差し入れし合ったりする中からヘルスリテラシーが高められていくのではないでしょうか。その中心になるのは、地域社会に溶け込みながら料理教室や体操教室にお年寄りを誘う管理栄養士や健康運動指導士かもしれません。みんなと一緒の「もぐもぐタイム」が嚥下機能低下を防ぎ、口腔機能を改善し、身体のフレイルのみならず、認知のフレイルや社会的フレイル予防などにもつながる。こうしたエビデンスをともなったコミュニケーションの場が広がることが、ますます重要であると思います。

大豆生田 悦雄氏・石川 透氏の2022年ウェルネスキーワード

  • NMN
  • CBD
  • 富裕層の認知機能維持
  • 体感性
  • 口腔ケア
  • 三次元培養
  • オキシトシン
  • 二極化をつなぐコミュニケーション

お話をうかがった方

株式会社食品化学新聞社 取締役
大豆生田 悦雄氏

Food Style21編集長
石川 透氏

ウェルネス総研レポートonline編集部

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