「ウェルネストレンド予測2022」第4回 シニアマーケティングから見た健康トレンド~コロナ禍でシニアのウェルネスはどう変化したか

一般社団法人ウェルネス総合研究所では、健康関連分野の情報をウォッチし続けている有識者に、2022年のウェルネストレンド予測についてインタビューとアンケートを行いました。コロナ禍によってウェルネスの潮流はどのように変化したのか、また、今後どこに向かって生活者の意識は変化していくのか。日頃から幅広い健康関連企業やユーザーと接しているジャーナリストならではの見解を、その背景とともにご紹介していきます。
ご協力いただいたのは西沢 邦浩氏(株式会社サルタ・プレス代表取締役、日経BP総研客員研究員)、大田原 透氏(株式会社クラブビジネスジャパン メディア事業部 編集長、元Tarzan編集長)、大豆生田 悦雄氏・石川 透氏(株式会社食品化学新聞社 取締役、Food Style21編集長)、菊池 功氏(朝日新聞Reライフ.net編集長)、奥谷 裕子氏(ウェルネス総研レポートonline編集長、株式会社からだにいいこと代表取締役)です。第4回は菊池 功氏に、シニアマーケティングから見た健康トレンドを解説してもらいました。

シニア層の「コロナフレイル」が深刻化。認知機能にも影響が

朝日新聞のシニア向け紙面「Reライフ」から飛び出して、ウェブやリアルイベントなどでも情報や体験を提供しようと2016年にスタートしたのが「Reライフプロジェクト」。菊池様はその編集長をつとめていらっしゃいます。

【菊池氏(以下菊池)】「Reライフ」は人生100年時代、50代以降の数十年をいかに過ごすか、長寿化・高齢化にともなう新しい生き方を提案する紙面です。そのファンの方々に向けて立ち上げた「Reライフプロジェクト」では月間100万PVを超えるネットメディア「Reライフ.net」や、春秋年2回のイベント「Reライフフェスティバル」などを運営しています。集っているのは50~60代のアクティブシニアといわれる人たちです。

コロナ禍でシニア層の生活にはどのような変化がありましたか?

【菊池】デジタルリテラシーが急激に高まっているのを感じます。ネットメディア「Reライフ.net」はコロナ禍でPVが一時は1.5倍になりました。オンラインツーリズムやオンラインの美術展にも積極的に楽しむ方もいます。「Reライフフェスティバル」はオンラインで 開催したところ、のべ11万人以上の方にご参加いただきました。
一方で、外出自粛を求められ、社会参加の機会が減った結果、身体能力の衰えが問題化しています。いわゆる「コロナフレイル」です。ウイルスが変異を繰り返しているため、外出自粛が長期化することが考えられ、今後、深刻さが増すものと思われます。

 

コロナフレイルに関連して注目されているウェルネスのキーワードにはどんなものがありますか。

【菊池】コロナフレイルで一番恐ろしいのは、筋力低下によるロコモティブシンドロームです。その改善策の一つとして、これまではボディービルダーやスポーツ選手らに注目されてきた「プロテイン」、筋肉の源となる「たんぱく質」の重要性が注目されるのではないでしょうか。
また、ただ体が動かなくなるだけでなく、運動不足によって「MCI(軽度認知障害)」や糖尿病、便秘などが重症化している人がいます。シニアの方は感染を避けるために病院に行かなくなっていることもあり、こうした症状が見違えるほど悪くなっていると嘆く医師もいます。
特に認知症の前段階で可逆性もあるとされるMCIについては、コロナ禍で発症の危険性が高まっています。MCIの早期発見、予防、改善が大きな課題です。介護に当たる人材が確保できない現実がある以上、まずは運動や食事による予防が注目されるはずです。
運動不足、コロナ太りの解消のため、「パーソナルジム」「パーソナルトレーニング」がこれまで以上に利用されると思われます。予防医療や食品会社とのコラボレーションも活発になるのではないでしょうか。

注目される「免疫」。食品だけでなく「免疫ツーリズム」などへの広がりも

今後、注目されるウェルネスの潮流にはどのようなものがあるでしょうか。

【菊池】第一にコロナ禍に伴う様々な機能障害を予防・解決するための健康施策、食品など健康関連商材に注目が集まっています。次いで、人生100年時代から120年時代に突入すると言われるなか、今まで以上に「フレイル」「ロコモ」「サルコペニア」の予防が注目されるはずです。医療費の削減などと相まって、治療から、生活習慣、食習慣の改善による予防への期待が高まっていくはずです。
例えば、新型コロナの終息が見通せない中で、「免疫力」を良い状態に保つことが求められており、関連商品の売り上げが好調です。食品はもとより、ストレス軽減を目的とした「免疫ツーリズム」「免疫力アップ運動」など免疫に着目した事象が増えてくると思われます。特にシニアの間では旅行モチベーションが高まっているので、旅行とウェルネスを絡めた動きは活発化するのではないでしょうか。

一方で、ストレスの高まりにより、「自律神経」の不調を訴える人が増えています。シニアでは特に睡眠障害に表れることが多く、睡眠不足、動悸など様々な症状を緩和するためのストレスフリー施策が求められています。自律神経の不調への対処はウェルビーイングの観点からも、ますます注目されると考えてよいでしょう。

シニアを孤立させない。横のつながりを促す場づくりも重要

ヘルスリテラシーの向上は引き続き課題ですが、ヘルスリテラシー向上のためにはどのようなことが必要だと考えますか?

【菊池】65歳以上が世帯主の単独世帯が急増しています。2020年に700万世帯を超え、2025年には750万世帯を突破する見通しです。一人暮らしは会話や体を動かす機会が減るばかりか、病気の治療など様々なことが滞る可能性があります。
こうした人たちを社会活動に参加させ、健康な生活を送り続けてもらうための施策、遠隔地に残した親の介護施策など、今まで以上に対応が求められると思います。
「Reライフプロジェクト」では「読者会議」という活動をしています。会員数は1万人を超え、「もの言う読者」として意見交換会や商品テスト、各種調査などReライフの様々な活動をサポートしていただいています。来年度は、その活動を一歩進め、読者会議メンバー同士が横につながり、お互いが得意とする分野で貢献していただけるような活動を始める予定です。人と人を結びつけるメディアとして、どのようにシニアの孤立化を防ぎ、ウェルネス、ウェルビーイングに貢献していけるのか、今後もトライアルを続けていきたいと考えています。

菊池 功氏の2022年ウェルネスキーワード

  • コロナフレイル
  • たんぱく質・プロテイン
  • MCI(軽度認知障害)
  • パーソナルジム・パーソナルトレーニング
  • 免疫力
  • 自律神経

お話をうかがった方

朝日新聞Reライフ.net編集長
菊池 功氏

1989年朝日新聞社入社。社会部記者を長く務め、宮内庁、高校野球、朝日歌壇・朝日俳壇、音楽、将棋、囲碁なども担当。ゼネラルマネジャー補佐兼東京本社地域報道部長などを経て、原発取材センター長兼福島総局長として東日本大震災10年の紙面づくりを手がける。2021年4月からは「Reライフプロジェクト」編集長としてシニアマーケティングに取り組んでいる。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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