「ウェルネストレンド予測2022」第2回 フィットネスから見た健康意識~ウェルネスは「挑戦する人」を応援できるか

一般社団法人ウェルネス総合研究所では、健康関連分野の情報をウォッチし続けている有識者に、2022年のウェルネストレンド予測についてインタビューとアンケートを行いました。コロナ禍によってウェルネスの潮流はどのように変化したのか、また、今後どこに向かって生活者の意識は変化していくのか。日頃から幅広い健康関連企業やユーザーと接しているジャーナリストならではの見解を、その背景とともにご紹介していきます。
ご協力いただいたのは西沢 邦浩氏(株式会社サルタ・プレス代表取締役、日経BP総研客員研究員)、大田原 透氏(株式会社クラブビジネスジャパン メディア事業部 編集長、元Tarzan編集長)、大豆生田 悦雄氏・石川 透氏(株式会社食品化学新聞社 取締役、Food Style21編集長)、菊池 功氏(朝日新聞Reライフ.net編集長)、奥谷 裕子氏(ウェルネス総研レポートonline編集長、株式会社からだにいいこと代表取締役)です。第2回は大田原 透氏に、アスリート視点からの健康トレンドを解説してもらいました。

ソロキャンプは「ソイミート」でウェルネスに合流か

2021年4月からアウトドアとフィットネスをつなげるウェブマガジン「two‐nagual」の編集長に就任されています。「two‐nagual」ではユニークなイベントを多数開催されていますね。

【大田原氏(以下大田原)】「トレッキング“誰もいない名山”」や『防災「帰宅ラン/ウォーク」』のことでしょうか。「トレッキング“誰もいない名山”」については、登山といえばみんなが名山に登りたがる。でも「(そもそも)そこに癒しはあるのか」という疑問から始まりました。本来、トレッキングは自然に癒されたくて始めたはず。それが、みんなが名山を目指すものだから、密にもなるし、ちっとも癒やされない、ウェルネスと呼べない状況になってしまいます。山登りがスタンプラリー化して、名山を消費しているだけではと思ってしまった。そこで例えば終電で丹沢のある山に行き、夜中、暗闇の中で歩いてみようと。僕は高校生の頃からもう40回以上その山に登っており、夜中も歩いています。僕が案内して、「誰もいない、誰もが知っている山」を歩き、まったく新しい体験価値として自然を味わう企画にしました。
「防災帰宅ラン/ウォーク」は、自治体主催のマラソン大会がコロナ禍で相次いで中止になったことがきっかけです。ランナーのモチベーション維持には走る機会が必要ですが、フルマラソンでなくてもいい、地方でなくてもいい、と考えた時に、スカイツリーのような都心のランドマークから自宅まで歩いたり走ったりして帰る「帰宅ラン」をイベントにできないかと考えました。これもランやウォークというエクササイズを「防災」と結びつけ、新しい体験価値を生み出す試みといえます。

アウトドアといえばソロキャンプが人気ですが、今後も人気は継続するのでしょうか。

【大田原】気になるのは、「ソロキャンプにウェルネスはあるのか」ということです。山に来てもじっとしていて、遊ばない人たちが多いのではないか。極論を言えば、山で宴会をしているだけで、ウェルネスが伴っていないように見えます。もしかするとキャンプ飯が健康的な価値の高いものに進化してウェルネスに合流するのかもしれませんが、今のところその兆しは見えないようです。
例えば、大豆たんぱく質で作った「ソイミート」は、長期保存ができて軽量、かつ合理的に植物性たんぱく質が手軽に摂れるという点で、実はアウトドアにぴったりです。山で必要になる栄養素は短期的には糖質ですが、中長期的にはたんぱく質。一般的なフリーズドライやレトルト食品にはたんぱく質が必ずしも多くはないのに対して、フレーク状のソイミートをカレーに入れるだけで、たんぱく質リッチな食事になります。ただ、ソロキャンパーたちは1、2泊しかしないので、ソイミートが必要な状況にまで至っていないのが現状ですが(笑)。

フィットネスフードはプロテイン黄金時代

 アウトドアから目を転じて、フィットネスの方面ではいかがでしょうか。

【大田原】栄養で言うとやはり「プロテイン」ですね。コロナ前からプロテインは売れていましたが、大きいプロテインのパッケージをレジに持って行くのが恥ずかしかった。それが、ネットショッピングが普及したおかげで心理的なハードルが下がったことも一因だと思います。さらに安くなり、おいしくなり、味のバリエーションも増えたので、毎日摂る人も飽きずに続けられるようになりました。
ただ、この上、さらにおいしくしようという動きに対しては、本当に必要なのか?と思います。味よりも本質的な機能性に立ち返ったほうがよいのではないでしょうか。
とはいえ、機能性の高いサプリメント は、イベントや遊びが戻ってこないと売れないのも確かです。食さえ気を付けていれば、と考える人も多いようですが、食と運動は切っても切れない関係にあることについては、もう少し意識されるようになるといいと思います。

 

説得から直感へ。「そこに価値はあるのか」を見極める時

ヘルスリテラシーの向上は引き続き課題ですが、ヘルスリテラシー向上のためにはどのようなことが必要だと考えますか?

【大田原】SEO的な検索上位のキーワードがウェルネスの潮流になるのが現代ですよね。でもそこに価値があるのだろうか、と僕は思ってしまうんです。送り手側のゲームチェンジが進み、メーカーではなく個人やコミュニティが発信者になってきた現在では、キーワードの検索よりも「これがいいのではないか」という直感を信じ、そこを入り口にしてきちんと自分で調べていくことが大切ではと感じています。その時に助けになるのが意外にビジュアルだったりします。ビジュアルを見てピンときたものをたどって調べていくと、本当に自分に必要なものが見つかる可能性が大きいのではと思います。
結局、ヘルスリテラシーレベル向上をけん引するのは「チャレンジする人」、つまり楽しむために情熱的に運動している人たちですよね。彼ら彼女らは結果だけでなくプロセスにこだわり、真剣に情報を調べて自分の体で試し、PDCAを回していく。やる気がない人、聞き耳を持たない人はいったん脇において、こういうやる気のある人たちを盛り上げていくことが、日本のヘルスリテラシーを高める近道ではないかと思います。

大田原 透氏の2022年ウェルネスキーワード

  • 新しい体験価値
  • ソイミートのアウトドア活用
  • プロテイン
  • 直感を信じる
  • チャレンジする人

お話をうかがった方

株式会社クラブビジネスジャパン
メディア事業部 編集長
大田原 透氏
元Tarzan編集長

1991年マガジンハウス入社。1992年『Tarzan』編集部に配属、2007年から10年にわたり編集長をつとめる。2020年12月より現職。高校から続ける登山やランニング、自転車を楽しみ、イベントやウェブサイトを通じて健康、体力向上のための情報発信を行っている。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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