「ウェルネストレンド予測2022」第1回 女性視点から見た健康意識~ウェルネスはどこまでやさしくなれるか

一般社団法人ウェルネス総合研究所では、健康関連分野の情報をウォッチし続けている有識者に、2022年のウェルネストレンド予測についてインタビューとアンケートを行いました。コロナ禍によってウェルネスの潮流はどのように変化したのか、また、今後どこに向かって生活者の意識は変化していくのか。日頃から幅広い健康関連企業やユーザーと接しているジャーナリストならではの見解を、その背景とともにご紹介していきます。
ご協力いただいたのは西沢 邦浩氏(株式会社サルタ・プレス代表取締役、日経BP総研客員研究員)、大田原 透氏(株式会社クラブビジネスジャパン メディア事業部 編集長、元Tarzan編集長)、大豆生田 悦雄氏・石川 透氏(株式会社食品化学新聞社 取締役、Food Style21編集長)、菊池 功氏(朝日新聞Reライフ.net 編集長)、奥谷 裕子氏(ウェルネス総研レポートonline編集長、株式会社からだにいいこと代表取締役)です。第1回は奥谷裕子氏に、女性視点からの健康トレンドを解説してもらいました。

コロナ禍によって高まった「なんとなく不調」の自覚

女性向け健康メディア(雑誌『からだにいこと』、からだにいいことWeb)を制作する中で、コロナ禍の影響はどのように感じていますか?

【奥谷氏(以下奥谷)】「病気にかかりたくない、予防で健康を維持したい」という気持ちがコロナ禍で高まっているのは明らかです。もちろんコロナ太りを解消したいといったダイエットニーズも高まっていますが、「見た目も気になるが、今はとにかく健康であることが大切」という声も多く聞かれます。また、「なんとなく不調」を自覚する人が増えているという読者のアンケートデータもあり、この「なんとなく不調」へのアプローチがwithコロナ、ニューノーマルな生活においての健康の基調になると感じています。
「なんとなく不調」というのは体だけでなくメンタルの不調もセットで、だからこそよりストレスなく不調を予防したり改善したりする方法が求められているのではと思います。

「なんとなく不調」の解消法としてはどんなものに注目していますか?

【奥谷】ひとつは「スリープテック」です。コロナ禍で増えた不調の一つが「うまく眠れない」というお悩みです。これはステイホームやテレワークによる活動量不足や生活時間の乱れ、パソコン・スマホに向き合う時間が増えたことなどが影響していると考えられます。テクノロジーを用いた不調改善のトレンドとしては「フェムテック」がありますが、テクノロジーを用いて睡眠トラブルの改善をはかる「スリープテック」の市場も拡大しているようです。例えば、睡眠中の脳波を手軽に測ることができたり、装着型のデバイスで睡眠の質を判断したり、認知症につながる傾向を確認したりできるなど、機器が先行していますが、睡眠リズムを整えるといわれるNMNや、睡眠改善が期待されるCBDなど、素材・成分でも注目されるものが出てきています。

また、「ソバーキュリアス」という、「あえてアルコールを飲まない」ライフスタイルが生まれてきたことも興味深いと思います。コロナ禍による自粛で外に飲みに行く機会が減少した結果、家で飲む量が増えた人と、アルコールとの付き合い方を見直した人が二極化、検査数値が悪化した人と改善した人に分かれたと肝臓専門医から伺いました。

「少子高齢化」における「少子」側にも注目

 2021年はフェムテックが注目されるなど女性の健康にスポットが当たってきたように感じられます。

【奥谷】 私もフェムテックがここまで話題になるとは思っていませんでした。昨年発表された政府のいわゆる「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針)に書き込まれたことが大きいでしょうね。テクノロジーが注目されることで、女性特有の健康課題があることを男性にも認識してもらえたことに、大きな意味があると思っています。
女性の健康課題は、妊娠・出産した場合に子どもにも引き継がれることにも、社会的な意味合いがあります。少子高齢化社会では高齢者の健康増進に目が向きがちですが、「少子」側にも注目しないと、健康寿命の延伸はできません。例えば「少子」側のトピックとして、低体重出生児の生活習慣病リスクが高くなることが問題になっていますが、低体重出生児には母親の栄養状態や生活習慣が大きく関わっています。フェムテックが女性の健康課題への理解を促進したとすると、次はこうした「プレコンセプションケア」といわれる、妊娠前の女性のヘルスケアについても、もっと注目されるのではと考えています。葉酸や鉄、たんぱく質など、女性に必要でかつ不足しがちな栄養についても、さらに啓発が進む可能性があるでしょうね。

 

「地球にやさしく、無理しない」ウェルネスの流れ

そのほか注目しているウェルネスのトレンドにはどのようなものがあるでしょうか。

【奥谷】内科医である桐村里紗先生の著書『腸と森の「土」を育てる』(光文社新書)を通して、「プラネタリーヘルス」という概念を知りました。これは人の健康と地球の環境変化との間にある重要なつながりに注目し、一人ひとりの健康が地球の健康につながっているという考え方です。桐村里紗先生によると、人にとって最も身近な環境は「腸内環境」であり、そこは人が根を下ろす「土」にあたる。土壌に暮らす微生物が、食べ物と共に腸内に移住したものが腸内細菌の起源であり、人は今でも「食べる」ことを通して、外的な環境と接続しているというイメージです。食や農業、環境問題への洞察をもとに人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルスケア」は「身土不二」の考え方を大切にしてきた日本人が世界に発信すべきウェルネスのテーマかもしれないと感じました。浸透しつつあるSDGsにも通じるものがあると思います。
また、今はなんでもインターネットやSNSで検索をしますが、健康に関する検索によって収集される膨大なデータ、つまり「健康クラウド」を使って、「いつ、どんな人たちが、どんな時に、どんな健康キーワードを検索しているか」の解析ができるようになり、そこから健康課題の解決に貢献できないかという研究が進められているそうです。これが進むと「自分にぴったり」のウェルネスのソリューションに巡り合う確率が高くなるので、どのように発展していくのかも注目しています。

「いつの間にか健康に向かっていた」が実現される社会に向けて

ヘルスリテラシーの向上は引き続き課題ですが、ヘルスリテラシー向上のためにはどのようなことが必要だと考えますか?

【奥谷】ウェルネスの正しい情報をしっかり伝える、しっかり学ぶことももちろん大切ですが、同時に、「いつの間にか健康になる方向に向かっていた」というような仕掛けも必要ではと感じています。つまり「ヘルスリテラシーを高めよう」と声高に叫ぶのではなく、「気づいたら正しい方を選んでいた」という体験を重ねるうちに、正しい方を選ぶクセをつけるというようなアプローチが、ウェルネスにおいても有効なのではないかということです。
そうしたアプローチの一つに「ナッジ理論の活用」があります。ナッジとは「そっと後押しする」という意味で、行動科学の理論に基づくアプローチにより行動変容を促すこと。環境省のイニシアチブの元、国民一人ひとりに配慮した無理のない行動変容を促すことを目標に、平成29年4月14日に日本版ナッジ・ユニットが発足しました。厚労省でも各種検診の受診率向上のためにナッジ理論を活用し始めており、成果を上げている自治体もあると聞きます。「得る喜びよりも失う痛み」「みんな気になる、みんなの行動」といった行動のクセに注目することは、健康素材や成分のプロモーションにおいても活用できるのではと思います。

奥谷裕子氏の2022年ウェルネスキーワード

  • スリープテック
  • ソバーキュリアス
  • プレコンセプションケア
  • 健康クラウド
  • ナッジ理論の活用

お話をうかがった方

株式会社からだにいいこと代表取締役
ウェルネス総研レポートonline編集長
奥谷裕子

学習研究社、ベネッセコーポレーションを経て2004年株式会社からだにいいことを共同創業。女性向けの健康生活情報誌『からだにいいこと』創刊編集長。以来17年にわたり、女性を中心としたヘルスケア分野の情報発信やコンテンツプロデュースを行っている。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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