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04認知症コラム

医師インタビュー 認知症の治療とは?
アプローチやポイントを解説

2026.4.30

【医師インタビュー】認知症の治療とは?アプローチやポイントを解説 イメージ

認知症には、どのような治療が有効なのでしょうか。本記事では、専門医の白水寛理先生へのインタビューに基づき、3つの治療アプローチを徹底解説します。最新薬の正しい知識や「早期受診のメリット」、「家族の理想的な向き合い方」など、ご本人と家族の笑顔を守るために今すぐ実践できる具体的なポイントをまとめたので、ぜひ参考にしてください。

認知症の治療とは?

認知症は脳の神経細胞が徐々に損傷されていく進行性の病気です。現在の医学では、一度損傷を受けた神経細胞を完全に修復する技術はまだ確立されておらず、認知症の根本的な治療法の開発にはまだ時間がかかるとされています。

現状では、症状の進行を遅らせる治療法や、生活の質を向上させるケア方法について日々研究が進められている状況です。

認知症治療で
できること
認知症の症状の進行を抑えること (例:進行していくにつれ周辺症状が現れたらそれに対応する薬を服用する)
認知症治療で
できないこと
認知症そのものを治していくこと
認知症の治療とは? イメージ

認知症の種類によって異なる治療の目的

認知症の治療は、原因疾患によって目的が異なります。アルツハイマー型やレビー小体型は進行を遅らせる薬物療法が中心ですが、とくにレビー小体型では幻視などの精神症状に応じた薬の併用も検討されます。

一方で、脳血管性認知症では新たな脳卒中を防ぐ「再発予防」が最優先の目的です。また、慢性硬膜下血腫や水頭症など頭部の病気により発症する認知症は<、手術などの治療で改善する可能性があります。

認知症の各種類について詳しくはこちら

家族が「急におかしくなった」と感じたとき、認知症以外に疑うべきことはありますか?

認知症はゆっくり進行する病気です。数日・数週間単位の急な変化があれば、脳梗塞や慢性硬膜下血腫、水頭症などの可能性を疑います。

とくに、一般的な認知症の症状である「物忘れ」とは別に、以下のような変化がないかを確認してください。

  • 意識の様子ぼんやりしている、話を聞いていない、返答が遅い
  • 身体の動きよくつまずくようになった、お茶碗を片手で持たなくなった

こうした「活気の低下」や「動作の違和感」は、脳の表面に血が溜まる慢性硬膜下血腫などの典型的な兆候です。
これらは適切な処置で改善する可能性があるため、「年をとったせいだ」と思い込まず、早急に専門医を受診することが大切です。

認知症の治療の3つのアプローチ

認知症の治療には、主に3つのアプローチがあります。薬物療法は、薬剤を使用して中核症状や周辺症状を緩和する治療法です。

薬物療法 イメージ

薬物療法

認知症の薬物療法の主な目的は、記憶障害や見当識障害の進行を遅らせることにあります。薬物治療は、基本的に「病状は劇的に良くならない」のが前提です。そのため、薬物治療の効果を判断する最大の指標は、以前と「変わらないこと」です。たとえば、会話の成立具合や同じ話をする頻度が維持されていれば、薬がうまく作用している証拠といえます。

また、怒りやすさや感情コントロールの乱れといった周辺症状(BPSD)が現れた場合には、それらを和らげる薬を調整・追加して対応します。認知症の薬は眠気やふらつきなどの副作用が出やすいため、現在は低用量から始め、一週間~数ヶ月単位で慎重に増量していく調整が一般的です。

認知症の周辺症状について詳しくはこちら
認知症の薬について詳しくはこちら

薬を飲み始めてから様子が変わった場合、副作用かどうかを見分けるポイントはありますか?

認知症が数日で急激に悪化することは考えにくいため、薬の開始後に「ぼんやりして喋らなくなった」「動きが鈍くなった」などの変化があれば、まずは副作用を疑います。
認知症の薬は眠気やふらつきが出やすい傾向があります。活気がなくなった、転びやすくなったなどの変化に気づいたら、病状の進行と決めつけず、早めに主治医へ相談して薬の量や種類を調整することが大切です。

非薬物療法

非薬物療法は、薬を使わずに脳を刺激し、心身の機能を維持・改善することで生活の質(QOL)を向上させるアプローチです。単なる訓練ではなく、本人が自分らしさを取り戻すための多様な手法があります。具体的には、以下のような方法があります。

身体と脳を活性化させる「リハビリ・運動療法」

日常生活の動作訓練やウォーキングなどの運動を行い、脳の血流を促進します。身体機能の維持だけでなく、転倒リスクの軽減や気分のリフレッシュにも効果的です。

心の安定と自信を取り戻す「心理療法・回想法」

カウンセリングや、昔の思い出を語り合う「回想法」などを通じて、不安やストレスを和らげます。特に古い記憶を刺激することは、脳の活性化と自尊心の回復に繋がります。

五感を刺激し、社会と繋がる「音楽・園芸・その他の療法」

音楽、植物の栽培、あるいは「バリデーション療法(共感的な関わり)」などを通じ、感情の安定を図ります。個人の好みに合わせた活動は、社会的な繋がりを持つ貴重な機会となります。

これらの療法を進める上で重要なのは、単にプログラムをこなすことではなく、本人が「楽しくなった」「またやりたい(行きたい)」と能動的になれるかどうかです。認知症の方は新しい活動に対して否定的な方も多いですが、そうした方が自ら意欲を示すようになることこそが、非薬物療法が成功している大きな目安となります。

認知症のためのリハビリテーションについて詳しくはこちら

認知症に効果的な音楽療法について詳しくはこちら

非薬物療法において、先生がとくに推奨されていることはありますか?

とくに重要なのは、家の中に引きこもらず「外に出て、人と話す機会」を作ることです。
家でじっとしていると、どうしても刺激が減り、認知症の進行が早まってしまいます。地域の集まりやデイサービスなどを活用し、他者との交流を増やすことが脳への大きな刺激になります。また、昔からの趣味がある場合は、無理のない範囲でそれを継続できるよう周囲がサポートしてあげてください。

非薬物療法 イメージ

手術による治療

水頭症や慢性硬膜下血腫に起因する認知症と診断された場合、脳外科手術が必要です。認知症の原因になっている脳腫瘍を取り除くことで、脳機能が回復する可能性があります。

ただし、「手術をすれば100%元通り」と過信せず、主治医から具体的な術式や合併症のリスクについて十分な説明を受け、納得した上で判断することが重要です。

認知症を遅らせる対策について詳しくはこちら

慢性硬膜下血腫や水頭症で手術を勧められた際、家族として確認しておくべき点やリスクについて教えてください。

疾患によって手術の内容やリスクが大きく異なるため、まずはその違いを正しく理解することが大切です。

慢性硬膜下血腫(脳の表面に血が溜まる病気)

基本的には局所麻酔で行い、脳自体には触れずに血を取り除きます。「血が取れればある程度元に戻る」という期待が持てる一方で、10%程度の再発リスクがあることも知っておく必要があります。

水頭症(脳に髄液が溜まる病気)

全身麻酔で脳に管を通す手術が必要になるため、感染症などのリスクも伴います。そのため、術前に「タップテスト(髄液を抜いて症状が改善するか試す検査)」を行い、その効果を慎重に見極めた上で手術に踏み切るのが一般的です。

認知症の治療における主なポイント

認知症の治療を円滑に進め、本人と家族の負担を減らすためには、日々のちょっとした工夫と「無理をしないこと」が大切です。ここでは、認知症の治療におけるポイントを解説します。

おかしいなと感じたら早めに受診する

早期受診は、利用できる治療の選択肢を最大限に広げるために不可欠です。近年登場した最新の認知症薬(レカネマブ、ドナネマブ等)は、軽度認知障害(MCI)や初期のアルツハイマー型認知症の方のみが対象となっています。

進行してからでは使用できない治療薬があるため、早期に専門医を受診して正確な診断を受けることが、その後の効果的な対策を立てるための鍵となるでしょう。

アルツハイマー型認知症の新薬「レカネマブ」について
詳しくはこちら

新しく登場した認知症治療薬は、これまでの薬と何が違い、どのような効果があるのでしょうか?

新薬は、認知症の症状そのものを「治す(元通りにする)」ものではありませんが、脳のゴミ(アミロイドβやタウタンパク)の蓄積を抑えることで、進行を根本から遅らせる効果が期待されています。

これまでの薬が「不足した物質を補って症状を和らげる」対症療法だったのに対し、新薬は病気の原因物質をブロックする、より根本的なアプローチです。ただし、この薬は「脳にダメージが蓄積する前」の段階でしか大きな効果を発揮できないため、やはり早期の発見・受診が極めて重要になることは変わりません。

生活のルーティンに服薬を組み込む

薬物療法を行う場合には、本人が薬を飲むことを負担に感じたり、飲み忘れたりしないための工夫が必要です。

たとえば、すでに服用している他の薬と一緒に「一包化(1回分をまとめる)」して提供することで、「新しい薬が増えた」という抵抗感を減らせます。また、飲み薬が難しい場合は貼り薬(パッチ剤)を検討したり、カレンダーを活用して視覚的に管理したりするのも効果的です。

認知症治療に使われる貼り薬について詳しくはこちら

外出や運動を詰め込みすぎない

非薬物療法を行う場合には、最初から頑張りすぎないことが大切です。週1回や月1回でも構わないので、少しずつ散歩や外出の機会を作ってみましょう。大切なのは回数よりも、本人が「気持ちよかった」と口にした瞬間に、「楽しかったね」と共感の声をかけることです。プラスの感情を思い出として定着させることが、次への意欲に繋がります。

通院や服薬の拒否を想定しておく

本人が「薬を飲まない」「病院に行かない」といった拒否反応を示す可能性を、あらかじめ考慮に入れておくことが重要です。

認知症の治療過程では、本人が服用を強く拒んだり、体調の波を薬のせいにしたりして治療が中断してしまうケースが少なくありません。これらは非常につまずきやすいポイントですが、あらかじめ「拒否は起こり得るもの」と想定しておくことで、早めに主治医へ相談し、周囲のサポートを仰ぐなどの適切な対応をスムーズに取れるようになるでしょう。

認知症の治療を支える家族の向き合い方

治療は長期にわたるからこそ、ご家族が「頑張りすぎない」ことが何より大切です。ここでは、認知症の治療をしていくうえで、ご家族が持つべき心の構えについてご紹介します。

過度な期待を持たず「変わらないこと」を喜ぶ 日常生活の中で「いつもと違う変化」を観察する テストのような質問や否定の言葉を控える 最初から「できない前提」で接する

非薬物療法 イメージ

過度な期待を持たず「変わらないこと」を喜ぶ

治療の目的は「元通りに治すこと」ではなく、「今の状態を維持すること」にあると理解しましょう。

薬物療法において「以前と何も変わらない」状態が続いているのであれば、それは薬が進行を食い止めているという最大の成果です。劇的な回復を追い求めるのではなく、穏やかな日常が維持されていることを前向きに捉えることが、長期的な治療を支える鍵となります。

日常生活の中で「いつもと違う変化」を観察する

日々の緩やかな変化に気づき、必要に応じて主治医へ相談することが家族の最も重要な役割です。

認知症の進行そのものは緩やかですが、副作用や他の合併症がある場合は、急な体調の変化や「ぼんやり感」として現れます。治療の結果を厳しく評価しようとするのではなく、「いつもと何か違う」という違和感を見逃さないよう、優しく見守るスタンスが求められます。

テストのような質問や否定の言葉を控える

本人の自尊心を傷つけるような声かけを避け、ストレスのない環境を作ることが治療の質を高めます。

「今日は何日?」といった記憶を試す質問は、本人にとって常にテストを受けているような心理的負担となります。また、「さっきも言ったでしょう」といった否定的な言葉も関係を悪化させる原因です。できないことを指摘するのではなく、ありのままを受け入れる関わり方をしていきましょう。

最初から「できない前提」で接する

「できなくて当たり前」という前提で接することが、家族自身の心のゆとりと適切なケアに繋がります。

「これくらいはできるはず」という期待は、できなかった時のイライラや不安を増幅させてしまいます。最初から「できない前提」で接していれば、失敗があっても「まあいいか」と受け流せるようになり、結果としてご本人にとって最も居心地の良い環境を作ることにつながります。

ご家族へのアドバイス 不安を安心に変えるために

認知症治療の最初の一歩は、まずは受診して「認知症なのか、加齢による物忘れなのか」という現状を正しく知ることです。原因がわかるだけでも、家族の関わり方や心の持ちようは大きく変わります。もし本人が受診を拒む場合は、地域包括支援センターなどの専門機関に相談し、第三者の助けを借りることも有効な手段です。

また、認知症には日によって調子が異なる「日内変動」がつきものです。様子がおかしい時は無理に声をかけず、柔軟に見守る姿勢を大切にしてください。少しでも違和感を覚えたら、迷わず専門医を訪ねて話を聞いてみましょう。早期に相談することが、将来の不安を解消し、本人と家族の笑顔を守るための最も確実な近道です。

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