【注目書籍】死ぬ瞬間まで「老いない」で、長く健康に生きる時代がやってくる!?

「老いる」という言葉を聞くと、心が波打つような感覚を覚えるのは、若い時にはなかった感情かもしれません。誰でも平等に老いるもので、老いは仕方のない現象と諦めているけれど、もし「老いない」未来というものがあるとしたらどうでしょうか。

イギリスやアメリカでベストセラーになり、世界14か国で刊行されることで話題になった『AGELESS:「老いない」科学の最前線』(アンドリュー・スティール著/(株)ニューズピックス)は、「老いない」ことに関する最新の科学的知見をまとめたものです。

「老い」をしかたなく受け入れている人だけでなく、まだ老いることの意味に気づいていない若い人にも読んでもらいたい一冊です。

老化が起きる原因を10項目に分けて紹介

著者のアンドリュー・スティールは、イギリス・オックスフォード大学で物理学の博士号を取得した後に、「老化」こそ現代科学の最重要課題と考えて計算生物学者に転身。現在は、DNAを解析し、患者の診療記録から心臓発作を予測する研究をしていると、プロフィールにあります。

そんな1985年生まれの彼が、一般読者向けに初めて著したのが本書。これを読んだ世界中の人々は、「もしかしたら、老化はなくせるかも」と、将来へ希望を抱いたのではないでしょうか。それだけ本書には説得力があり、希望を抱かせる根拠が述べられているのです。

本書は3部構成となっており、第1部では、老化とは何か、なぜ老化するのかを解説しています。

われわれの体内で起こっている老化プロセス(加齢にともない病気のリスクが高まる)には、DNA、テロメア、タンパク質、エピジェネティクス、老化細胞、ミトコンドリア、腸のマイクロバイオーム、免疫システムなどが関わっていること、それらがどのように老化を進めていくのかを具体的に紹介しています。

例えば、私たちの体の設計図であるDNAの損傷や突然変異が、老化の原因になる証拠として、若いときにがん治療を受けた人たちは、おおむね老化が早いと記しています。もちろん放射線治療のX線は腫瘍だけに照射されるように計算され、化学療法薬は注意深く作られているとしても、がん以外の細胞を傷つけてしまうことは避けられないのだとか。

健康な日常生活を送っていても、DNAは食べ物や喫煙、有害物質によってもたらされる毒素や発がん性物質によって、あるいは紫外線、自然放射能やX線などによって、毎日最高で10万回の攻撃を受けていると推定されるそうです。

DNAの損傷は常に修復されていますが、細胞はすさまじい速さで新陳代謝を繰り返しているため、修復プロセスがうまくいかずに、突然変異を起こしてしまうこともあるそうです。

こういったさまざまな要因によって起こるDNAの損傷と突然変異は、心臓が老化する直接の原因になること、そして、幅広い老化現象の原因の1つになることが紹介されています。

老化をなくすための治療法の模索

第2部では、「寿命は遺伝するか」「100歳まで生きる人たちの遺伝子は何が違うか」「遺伝子治療の進展」「遺伝子治療の未来」といった例を挙げながら、老化治療のために行う除去、再生、修繕、リプログラミングという側面を解説しています。

ここでいう「遺伝子治療」とは、直接新たな遺伝子を加えたり、不要な遺伝子を取り除いたり、欠陥のある遺伝子を良い遺伝子と取り替えたりすることです。もしもこれが実際に行えるようになったとすれば、効果が薬よりも永続的になり、副作用を減らす可能性があるともいわれます。

老化は防げるということを証明したのは、センチュウ(線虫)でした。センチュウを使った研究では、たった1つの遺伝子を書き換えるだけで、驚くほど寿命が延びる突然変異が起こることがわかりました。これは大発見です。

しかし、人間の何兆個とある細胞に新しい遺伝子と編集装置を投入することは、まだ難しいこと。当然、人間での人体実験はできるはずがなく、研究室での研究でも、細胞全てを編集する確実なツールはいまだ存在せず、新しい遺伝子は免疫システムに拒否されてしまうのだそうです。

もしも人間にも、たった1つの遺伝子操作をするだけで老化しない遺伝子が見つかったら、次に、どの遺伝子と連動しているのか、その遺伝子を変異させたら影響は大きくなるのか、小さくなるのか、すっかりなくなってしまうのかなど、研究の幅はさらに広がるでしょう。

著者は、「老化を防ぐ遺伝子治療の力を理解するためには、遺伝子が個々に、あるいは組み合わさってどのように機能するのか、さらに研究を進めて知見を深める必要がある」とも記しています。

こういった研究が、いつか老化治療の発展に結びついてき、病気が減り、老化がなくなっていけば、人類にはどんな未来が待っているのでしょうか。

いますぐできる、より長く健康に生きる方法

さまざまな問題を解決していかなければならないとしても、老化治療は、いつか可能になるとわかります。でも、期待すればするほど知りたいのが、いつ実現するのかということ。

現在、世界各国で人口の高齢化が進んでいます。ですから、あと数十年でその問題が世界的な問題になるはずですが、老化治療の研究と開発、普及には、政治や規制などの転換が必要になると、著者はいいます。影響の大きさを考えると、その準備は、世界的に急を要することなのです。

まず必要なのが、理解と支援です。高血圧、心臓病、糖尿病など、老化によって起こる病気の治療法が研究されていることは知っていても、老化そのものの治療法が研究されているということはほとんど知られていません。

老化の治療についてより多くの人に知ってもらい、理解と支援を受けること。さらに国の承認も必要です。抗老化治療研究は、今後、全世界の生物学者、医師、政治家、経済人、宗教家なども巻き込んでいくと思われます。

本書の第3部では、もしも自身が生きている間に、老化治療の恩恵を受けることができなくても、より長く健康に生きる方法を11項目を挙げています。

そこには、「タバコを吸わない」「食べ過ぎない」「7〜8時間の睡眠をとる」「歯を大切にする」など、私たちが日々耳にしている健康情報とほぼ同じ内容が記されています。なかには「女性になる」という無理な項目もありますが。これらの方法を実践するだけでも、確かに健康寿命が延びるはずです。

著者は、科学者として研究するだけでなく、サイエンスライターあるいはプレゼンターやレポーターとして、新聞、雑誌、科学番組でも活躍しているそうです。そんな経歴が、本書の内容が幅広く、最新の情報をわかりやすい言葉で伝えられている理由なのでしょう。 「老いない」という甘い言葉に踊らされるのではなく、コツコツと毎日、より健康的な生活を送ることで、いつか「老いない」世代が生まれるようになってほしいと思います。老化の治療を向上させることは、「毎日10万人の命を救うことができる」のだそうですから。

【書籍情報】
『AGELESS:「老いない」科学の最前線』(アンドリュー・スティール著/(株)ニューズピックス)


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