青森発の機能性成分「プロテオグリカン」にいま注目の理由

コラーゲン、ヒアルロン酸に続く、第3の美容成分として市場を広げている「プロテオグリカン」。美容成分のほかにも、抗炎症作用や細胞増殖促進作用、免疫調節機能など様々な機能性成分が発見され、その機能性の多さから「夢の成分」ともいわれています。

また、プロテオグリカンの抽出法を確立した青森県は、青森生まれのプロテオグリカンを「あおもりPG」と称し、弘前大学や地元企業などとともに産学官の連携体制を構築。プロテオグリカン研究を20年近く牽引してきました。全国各地で進められている産学官連携プロジェクトの中でもその歴史は長く、プロテオグリカンの研究のほか、商品開発のサポート、PR活動などを続けています。

今後も、プロテオグリカンにまつわる研究や事業が注目されることが予測される中、今知っておくべきプロテオグリカンの最新情報について、プロテオグリカン研究の最前線に立つ弘前大学院研究科 生体高分子健康科学講座 特任教授の中根明夫氏と、あおもりPG推進協議会事務局長の佐藤雅秀氏にお話を伺いました。

青森県の郷土料理「氷頭なます」から始まったプロテオグリカンの躍進

青森県の郷土料理「氷頭なます」

プロテオグリカンの現在・未来を紐解く上で、まず押さえておくべきポイントがあります。それは、なぜ青森県がプロテオグリカン研究を牽引する存在であるかということです。

プロテオグリカンとは、プロテイン(タンパク質)とグリカン(多糖)の複合体で、中心となるコアタンパク質に、多数の糖鎖が結合した構造をしています。成分自体は40年ほど前に発見されていましたが、当時は量産技術が確立できず、実験用試薬として微量に精製されたものが1gで3000万円ともいわれる高価なものだったため、研究や実用化が進みませんでした。

その状況に変化が訪れたのが1998年。弘前大学医学部の故・高垣啓一教授が、青森県の郷土料理として親しまれてきた「氷頭なます(サケの頭部を酢漬けにしたつまみ)」にヒントを得て、サケの鼻軟骨を原料に酢酸抽出する技術を確立したのです。

高垣教授から研究を引き継いた弘前大学の中根明夫特任教授は、「成分の抽出は、アルカリで抽出し、その後、pHを戻すのが一般的です。ただ、製品の安全性を考えると、最初から酸で抽出するのが望ましい。高垣教授の発見によって、プロテオグリカンの安全性や品質の向上が実現し、さらに、普段わたしたちが使用している食品用酢酸での抽出が可能になったことで、抽出コストを大幅に下げることができた。プロテオグリカン研究において本当に大きな出来事でした」と、その歴史を振り返ります。

弘前大学院研究科生体高分子健康科学講座特任教授の中根明夫氏

この酢酸抽出法の発見により、プロテオグリカンの機能性が次々と明らかになります。青森県はその可能性に注目し、産学官連携でプロテオグリカンの発展に注力。国際特許、国内特許も取得し、民間との共同研究によって量産化が進みました。現在、プロテオグリカンを使用した商品の年間売上は全国で90億近くという市場へと発展しています。

プロテオグリカン研究最前線〜いま注目すべき機能とは〜

①免疫調節機能による抗炎症作用

さまざまな機能を持つプロテオグリカンですが、中根氏がいま最も注目しているのが、プロテオグリカンの免疫調節機能による抗炎症作用だといいます。

「糖鎖には、一般的に免疫力を上げる効果があります。ところが、プロテオグリカンは免疫作用を抑制することがわかり、たいへん驚きました。しかも、免疫を抑え過ぎずに、異常な時だけ働くというよくできた成分なんです。免疫を抑えることは、炎症を抑える作用につながります。つまりプロテオグリカンの免疫調節機能により、抗炎症作用が生まれているということです」と中根氏。

アンチエイジングジャパン2020「プロテオグリカンの多彩な機能と可能性」講演資料より

腸炎モデルマウスを用いたプロテオグリカンの抗炎症メカニズム検証。プロテオグリカンの経口摂取が、腸内の炎症を誘発する免疫細胞を減少させる一方で、過剰な炎症を抑える制御性T細胞という免疫細胞を増加させる働きがあることが分かった。

プロテオグリカンの抗炎症作用は、潰瘍性大腸炎や脳炎、関節炎、肥満・糖尿病、アレルギー(喘息)などの治療や予防への応用が期待されているということです。

「ただ、プロテオグリカンは、飲んでも腸管で消化・吸収されにくいため、ほとんど排泄されてしまいます。それなのに、なぜ様々な効果が確認されるのか。少なくとも潰瘍性大腸炎などの腸炎に対しては、プロテオグリカンが直接、病原の腸管部位に作用し、免疫を抑制していることが分かっているのですが、脳炎や関節炎、肥満・糖尿病などへ作用する詳しいメカニズムはまだ解明できていません。例えば脳は、さまざまなバリア機能を備えているので、プロテオグリカンが直接脳に届くような場所ではありません。間接的な働きで効果が出ているのでないかと考えています」と中根氏。

アンチエイジングジャパン2020「プロテオグリカンの多彩な機能と可能性」講演資料より

プロテオグリカンの関節炎への抑制効果。「ひざ関節の痛みにもよく効くと評価されているのですが、これもプロテオグリカンがひざに直接届いているわけではないので、どのような生理作用で抑制作用につながっているのか研究を進めています」(中根氏)

中根氏によると、プロテオグリカンの経口投与によって腸管の免疫応答を制御し、全身の免疫応答に波及して、全身の抗炎症作用につながっている可能性が高いということです。

②腸内フローラの改善

腸内フローラの改善効果にも注目が集まっています。マウスにプロテオグリカンを経口投与したところ、腸内フローラが改善されることがわかりました。

「免疫について研究する上で、腸の免疫は非常に重要なポイントになります。プロテオグリカンが腸内フローラを改善するという研究成果は、免疫調節機能、つまり全身の抗炎症作用のメカニズム解明にもつながるのではと期待しています」と中根氏。

また、プロテオグリカンは腸内フローラに対し、少量で効果を発揮し吸収されにくいため副作用の心配も少なく、常在菌が存在する口腔内や鼻腔内投与も可能と考えられています。

アンチエイジングジャパン2020「プロテオグリカンの多彩な機能と可能性」講演資料より

プロテオグリカンという成分が、直接、腸に作用するのではなく、小腸内の糖分解性細菌、小腸・大腸の乳酸菌プロテオグリカンという成分が、直接、腸に作用するのではなく、小腸内の糖分解性細菌、小腸・大腸の乳酸菌、免疫調節に関わる細菌に作用し、腸内環境を整え、体全体の免疫作用を正常化していると中根教授は考えている。

「腸内細菌を動かすだけであれば、腸内フローラを整えることで知られる乳酸菌でもいいわけです。でも、プロテオグリカンの働き方は、乳酸菌とはまったく違う。プロテオグリカンには、腸内細菌に働きかける系統と、腸内細菌は関係なく、直接腸管免疫に働きかける系統があると考えています」と中根氏。

プロテオグリカンは他の糖に比べてもとても複雑で、かつ、特定の分子構造は定義されていません。メカニズムの全解明には、早くてもあと10年はかかると考えられているそうです。

「プロテオグリカンのメカニズムが全て解明され、抗炎症作用の詳細なメカニズムが解明されることは、例えばコラーゲンなどの経口摂取がなぜ肌や膝に作用するか、というような、サプリメントの根本的な問いの解明にもつながるのではないかと考えています」(中根氏)

様々な機能を持つことから、応用範囲の広さもプロテオグリカンの魅力

アンチエイジングジャパン2020「プロテオグリカンの多彩な機能と可能性」講演資料より

サケ鼻軟骨由来成分「プロテオグリカン」のマウスでの育毛効果に関する研究

(弘前大学とダイドードリンコ株式会社との共同研究)

出典:Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry Volume 88, Issue 1, January 2024

令和6年1月には、弘前大学とダイドードリンコ株式会社による共同研究において、プロテオグリカンに育毛効果があるという新機能が発表された。剃毛したマウスにプロテオグリカンを経口投与したところ、後日、プロテオグリカンを投与していなマウスと比較すると育毛面積が増加していることが確認された。

③保湿機能、アンチエイジング効果への期待

プロテオグリカンは、タンパク質にコンドロイチン硫酸などの糖鎖がいくつもつながっており、水を抱え込む構造を持つため保水性が高く、肌や軟骨の弾力性を保つ働きがあることが分かっています。近年では、加齢や紫外線などの影響で働きが低下するといわれている線維芽細胞を活性化させる働きがあることもわかってきました。

そして今、話題となっているのが、その即効性の高さです。化粧品・健康食品の原料メーカー・一丸ファルコスの研究によると、約5mg(耳かき1さじ分程度)のプロテオグリカンを経口摂取することで、2週間で肌の弾力改善が見られることがわかりました。この研究結果から、プロテオグリカン配合の美容サプリメントが開発され、ウエディング関連企業とのコラボレーションイベントを開催、“花嫁サプリ”の愛称もつけられています。

機能性サプリ市場では効果を体感できない商品は売上に伸び悩むという課題が生まれる中で、プロテオグリカンの即効性・体感の高さからも注目が集まっていると考えられます。

プロテオグリカンの効果を体験できる場所作りを強化

その多機能性ゆえ、様々な商品の原料として使用されるようになったプロテオグリカンですが、今後、その市場がさらに拡大していくには、一般消費者の認知度アップが鍵になると、あおもりPG推進協議会事務局長の佐藤雅秀氏は話します。

「抽出法の発見から20年。原料としての認知度はあるのですが、一般消費者、特に若い世代の方々は、プロテオグリカンについて知らない方の方が圧倒的に多い。地域発の健康素材としてさらなる発展を考える上で、一般消費者へのPR活動も進めていきたいと思っております」と、佐藤氏。

あおもりPG推進協議会事務局長の佐藤雅秀氏

そのような思いから、あおもりPG推進協議会では2024年1月から、弘前市在住の主婦3名(平均60歳)を、プロテオグリカンの公認アンバサダーに認定し、弘前市の温泉施設で、幅広い世代の方々に、プロテオグリカンの保湿力を体感してもらうブースを設置。公認アンバサダーが、プロテオグリカンの化粧品を使用したハンドマッサージを行いながら来館者にプロテオグリカンについて説明するというプロモーション活動をスタートさせています。

「いくら効果が高くても、サプリメントの効果を実感するのには時間がかかりますよね。でも、化粧品は、その瞬間から効果を実感してくださる方が非常に多いんです。企業側からのメッセージではなく、お客様との距離がとても近い主婦の皆様にアンバサダーになっていただき、いろいろな会話をしながらプロテオグリカンの効果を体感していただくことは、非常に効果的だと感じております」と、佐藤氏。

あおもりPG公認アンバサダー

今後は、プロモーションを行う温泉施設を増やしていくほか、青森市や八戸市などへエリア拡大も予定しているそうです。また、温泉施設だけでなく、介護施設に勤務している職員の方々や入居者の方々にも、プロテオグリカンのハンドマッサージを通して、コミュニケーションの場所を作っていくという構想もあるそうです。

「プロテオグリカンのPRだけでなく、まずは地域で働いている方、お住まいになっている方をプロテオグリカンで応援したいという思いもあります。地域発の健康素材だからこそ、地域に根差したプロモーション活動を展開していけたらと思っております」と佐藤氏は意気込みを語りました。

青森県から世界へ〜産学官連携プロジェクトの発展〜

今後のプロテオグリカンの発展には、プロテオグリカンのメカニズム解明、プロモーションの展開が不可欠ですが、産学官との連携、原料メーカーとの連携の強化も重要な点です。

プロテオグリカンは、地域発の健康素材として最も成功した産学官連携プロジェクトとして2011年には農林水産大臣賞(受賞者/弘前大学、青森県産業技術センター)、2013年には文部科学大臣賞を受賞しています(受賞者/青森県産業技術センター、弘前大学、ひろさき産学官連携フォーラム)。また、2014年からはダイドードリンコ株式会社、2015年からは青森県の株式会社角弘、岐阜県の株式会社一丸ファルコスと共同研究を実施しています。

ダイドードリンコはヘルスケア領域における事業拡大を進める中でプロテオグリカンをメイン素材としたサプリメントを発売。弘前大学と共同研究を行い、プロテオグリカン、ブラックジンジャー抽出物、生コーヒー豆エキスを独自処方しマウスに経口投与した結果、肥満抑制作用を確認し、機能性食品の発売も実現しました。

また、原料メーカー一丸ファルコスにおいても、2017年に開催された米国最大の原料・素材展示会「ナチュラルプロダクツEXPO」に置いて、最優秀新成分賞を受賞。このように、プロテオグリカンは、世界各国からの注目度も高まるとともに、様々な企業や大学とコラボレーションし、商品開発が進められていくことが予測されます。

「あおもりPG」ブランドが年々誕生

青森県では、青森りんごの輸出を通じて交流のある台湾に積極的にプロテオグリカンのプロモーションを行っている。2019年には「あおもりPG美人紀行」という動画コンテンツを制作し、YouTubeで配信。台湾の人気料理教室のスタッフが青森県を訪れ、青森観光やあおもりPGの製品体験などを収録、配信した。

「SNSでのプロモーションは現代において必須コンテンツです。今後は、公式Instagramアカウントなどを作成し、コンスタントにPRしていくことも考えています。また県内で商品を購入できる店舗の開拓、青森県内でのプロテオグリカン商品の開発・販売のサポートも強化していきたいと思っております」と佐藤氏は話しました。

プロテオグリカン市場のさらなる拡大と確立を目指して

今後も、新機能の発見が期待されるプロテオグリカン。中根氏は、その期待値が上がるほど、エビデンスの必要性を感じているといいます。

「『なぜ効くか』というエビデンスをきちんと発表できれば、様々な疾患への応用の幅も広がります。プロテオグリカンは、研究すればするほどそのメカニズムが複雑だということを痛感するのですが、メカニズムが複雑だからこそ、様々な機能が次々に見つかるわけです。じつは私自身、こんなにも長くプロテオグリカンの研究を続けるとは思ってなかったんです。でも、この多機能性やメカニズムの謎を知れば知るほど面白く、やめられなくなりました」と中根氏。

また、弘前大学は、弘前COI(弘前大学が進めているヘルスケアプロジェクト/「COI」は「Center Of Innovation」の略)の拠点研究機関としてコホート研究の分野でも大きな実績を上げていることから、青森県で展開される健康推進運動などにプロテオグリカンを位置づけ、「青森県民の健康的な暮らしに溶け込む存在にしていきたい」と中根氏は抱負を語りました。

佐藤氏も今後の展開に向け、「例えばヒアルロン酸は、中国が製造しはじめたことで急激に価格が下がり、原料を製造してもその価値・存在感をアピールすることはむずかしくなりました。プロテオグリカンもひざ関節などの分野で知名度が上がり、コラーゲンやヒアルロン酸などと競合関係が生まれている今、『あおもりPG』という地域ブランド、品質をしっかりと守りながら市場を拡大していきたいと思っています」と語りました。

多機能性・即効性・体感の高さ、そして、大学や企業とのコラボレーションへの取り組みなどから、青森県だけでなく、世界へ向けてその可能性を広げているプロテオグリカン。今後の動向に注目です。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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