体内の炎症状態に影響を与える食事性炎症指数「DII」とは
軽度であっても慢性的な炎症は、様々な疾患の発症リスクとなることが分かっています。食が体内の炎症状態に与える影響を評価する指標である食事性炎症指数DIIは、国外では検証を終えているのに対し、日本ではまだ妥当性が明らかにされていません。今回はDIIとは何か、開発の背景や捉え方について解説します。
食事性炎症指数DIIとは
食事性炎症指数DII(Dietary Inflammatory Index)は、食事が炎症状態に与える影響を多くの文献に基づき総合的に評価するための指標で、2011年から2012年にかけてサウスカロライナ大学(米国)のShivappaらにより研究開発されました。そこでは、2010年12月までに発行された約6,500件の論文をスクリーニングしたうち、適格な1,943件から特定した45種類の栄養素や食品の摂取量について、炎症促進性あるいは抗炎症性をスコア化しています。
対象としている生体内の炎症性バイオマーカーは、IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、CRPの6種類です。これらが増加するものを(+1)、減少するものを(-1)、影響がないものは(0、ゼロ)として採点。このスコアと個人の摂取量を掛け合わせて算出した値が、正なら炎症を促進する食事、逆に負なら炎症を抑制する食事と評価をします。
DII開発の背景にある目的と検証
DII開発の目的は、個人の食事を炎症に特化して分類できるツールの提供を目指すこと。その背景にあるのが、がんや糖尿病、うつ病、メタボリックシンドロームなど多くの疾患で慢性炎症が関与しているという報告です。さらに、食事によって緩やかに持続する慢性炎症も、これら疾患におけるリスク因子のひとつと考えられています。DIIのように世界的な規模の複合食物摂取データベースは、世界で初めてです。
その検証にはCRP(C反応性タンパク)を使用した横断データが用いられ、DIIの値でCRPの変化を有意に予測できることが示されています。また、時代とともに文献が進化し続けていることも踏まえて、査読付き雑誌論文のレビューや抽象化に関する作業も行われました。こうして数々の洗練を経てきた現在のDIIは、多様な疫学研究や臨床研究に用いられている類まれなツールです。
DIIと関連する疾患の評価
例えば、超高齢社会のトップを走るわが国では、要介護状態に陥るリスク回避の視点から筋力低下の予防に対する関心が高まっています。筋力低下の原因は喫煙や内臓脂肪の増加、性ホルモン濃度の変化、運動不足や必要なたんぱく質量の摂取不足に留まりません。食事によって緩やかに持続するような慢性炎症も、筋力低下の原因になると考えられています。
実際、1997年から12年間にわたる国立長寿医療研究センターによる調査では、DIIを用いて算出した慢性炎症を起こしやすい食事(菓子類、穀類、肉類など)を摂っている人ほど、握力の低下は大きいことが示されました。そのほか、国外ではDIIが高い値で大腸がんのリスクが高まることなども報告されています。
欧米と日本で異なるDIIの妥当性
まず、欧米諸国ではDIIと炎症状態の妥当性について検証済みで、現在は病気との関連性についても調べ始めている段階です。一方で、日本人を対象に妥当性を検討した報告はこれまでほとんどありません。そこで国立がん研究センターは2019年に、5年間の多目的コホート研究(FFQ)や詳しい食事記録調査(DR)をもとに調べた、日本人におけるDIIの妥当性について発表しています。(Nutrition.2020Jan;69:110569)
その結果、日本人男性においては疫学研究を行うために必要な、ある程度の正確さがあると分かりました(DIIスコアをFFQおよびDRから計算した場合に限る)。対して日本人女性では、有意な関連性が見られていません。その原因は、DIIスコアの平均値が女性では男性に比べて低いこと、さらに月経周期やホルモン補充療法などの炎症状態に影響を与えるような生殖関連要因の調整がなされていなかったことが挙げられます。
いずれにしても今後、このように幾つかの研究を組み合わせた結果がDIIと炎症、そして病気との関連を分析するときの重要な資料となることは間違いありません。
DIIが食品選びのキーワードになる可能性も
これからますます、食は多様化していくことが予想されます。消費者にとって、DIIが食の選択をする上でひとつのキーワードとなっていく可能性もゼロではないでしょう。場合によっては、炎症レベルを低下させて特定の疾患リスクを軽減するために、DIIの低い食品を摂取するという考え方が一般的になる可能性もあります。DIIスコアが食品の表示に用いられる時代が到来するかもしれません。