進むオートファジー研究と社会実装

細胞の機能を維持するのに重要であるオートファジーは、細胞内部の新陳代謝と有害物の除去を通して細胞の健全性を保つシステム。人間は加齢によって細胞機能が低下して老化が起き、老化は昔、不可逆的な現象だといわれてきたが、現在の生命科学では不可逆的ではないというのが世界的な潮流になりつつある。2016年、大隅良典博士が「オートファジー(細胞の自食作用)の仕組みの解明」でノーベル生理学・医学賞を受賞し、オートファジー研究はさらに盛んに行われ、日本における論文数は飛躍的に伸びている。

このような中、日本オートファジーコンソーシアム(代表理事:吉森保大阪大学栄誉教授)が2020年にアカデミアの研究者たちを中心に立ち上がる。オートファジー研究の応用分 野は創薬から食品、コスメまで多岐な分野に関わるので、様々な業種の企業に参加してもらえるオープンイノベーションプラットフォームを創生し、「細胞ケア」を目指すことにした。そして、これまでの基礎研究を社会実装に活かすことや、そのための生活者の理解を得るために、産業界との連携を図って事業基盤の構築、人材育成、正しくオートファジーを計測するための認証制度、情報発信などオートファジーに関連する産学の活動を促進することで、国民の健康生活の向上に寄与することを目的に活動を進めている。

同コンソーシアムは、「オートファジーの日」を2月12日に制定(日本記念日協会認定)し、2023年を「オートファジー元年」と銘打ち、今後正しい情報の発信、啓発に注力するとともに、2月12日には「オートファジーの日」を記念して “オートファジーの秘話を語る” をライブ配信した。「オートファジーの日」の由来は、リソソームの発見者であるベルギーの生化学者クリスチャン・ ド・ デュープ 博 士 に よって、1963年に初めてオートファジーという用語が公式の場(ロンドンで開催のCiba Foundation Symposium Lysosome学会)で使われた日を記念して決めた。記念日当日の12日には、吉森教授や、からだにいいことの奥谷裕子代表取締役、協和の生命科学アカデミーHIROKO学長の竹腰泰子氏、UHA味覚糖の松川泰治執行役員らが登壇し、日本の健康長寿を支えるオートファジーの過去と未来、若さと健康を保つ秘訣などの講演がライブ配信され、多くの視聴者を得たという。

その前週に行われたプレス発表会の講演では消費者向け取組み第一弾として、オートファジー表示ガイドライン案を発表し、注目を集めた。オートファジー表示ガイドライン案では定義として、「全身の細胞に備わっている分解機構であり、細胞内成分などを回収・分解し、その結果得られる分解物をリサイクルすることで細胞を正常な状態に維持する機構の一つである。あらゆる生命現象に深く関わっており、健康的な生活を送る上で欠かせないものである」とした。対象品目は原料および成分で、対象者は同コンソーシアム企業会員内におけるオートファジーを訴求・標榜する食品の販売者である。

表示基準には表示例として、①「オートファジー」という単語のみ、もしくはオートファジーの定義 ②企業や大学等との共同研究によって開発された製品 ③「オートファジー」がノーベル賞を受賞した研究分野であること等々を挙げた。表示項目は、認証マークと訴求する原材料名とした。オートファジー認証マークも決定し、細胞の自食作用をイメージしたようなものに仕上げている。誇大広告の禁止等の健康増進法や景品表示法、薬機法に触れないよう禁止事項も定めている。今年のアイフィアHFEでは、5月18日午後1時30分からオートファジーコンソーシアムのセミナー(東京ビッグサイト会議棟)が開催され、吉森栄誉教授や松川氏らが登壇する。

「FOOD STYLE 21」2023年3月号 F‘s eyeより


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