健康を左右するマイクロバイオーム。パーソナライズ食品という新たな市場誕生の可能性も

人体に生息する微生物の総体であるマイクロバイオーム。私たちの健康に多大な影響を与えていますが、微生物の総数はヒトの細胞数の10倍とも言われ、その解析はこれまで複雑すぎるために困難とされていました。しかし、次世代シーケンサーの登場で解析が可能となり、さまざまな研究が行われるようになりました。今回は研究が進んでいるマイクロバイオームと健康との関係や、新しい市場誕生の可能性について解説します。

健康・疾患関連の論文数が増加している「マイクロバイオーム」とは

マイクロバイオームとは、細菌・真菌・ウイルスなど、人体に共生する微生物の総体のことで、細菌叢(さいきんそう)と呼ぶこともあります。マイクロバイオームの論文数は増加していて、そのほとんどが、特定の細菌叢が健康や疾患と何らかの形で関係していることを示しています。人体のあらゆる場所に微生物は生息していますが、とくに腸に生息する腸内細菌と健康との関係に注目が集まっています。

腸内細菌の代謝物が疾患発症・抑制に寄与

腸内細菌叢のバランスの偏りが発症と関連していると考えられる疾患は多く、具体的には、不眠、うつ、自閉症、パーキンソン病などの精神や神経の疾患、動脈硬化、糖尿病、肥満などの生活習慣病、炎症性腸疾患、リウマチ、アトピー性皮膚炎などのアレルギー・自己免疫疾患などがあげられます。その機序については腸内細菌の代謝物、とくに短鎖脂肪酸が重要な役割を果たしていると指摘されています。

たとえば小児アレルギーの場合、短鎖脂肪酸が免疫細胞の発達や機能に関わることでアレルギーの発症が促進または防御されており、腸内の短鎖脂肪酸の量がアレルギー発症を規定する因子の一つではないかと考えられています。この他にも短鎖脂肪酸はストレス軽減による睡眠の質の改善効果があると期待されており、ストレス緩和標的療法開発の最初のステップになる可能性を秘めています。

マイクロバイオームにおけるパーソナル製品という新しい市場誕生の可能性

いま、マイクロバイオームにアプローチすることで健康の維持・増進を図ろうと、研究や商品開発が盛んに行われており、ここでも腸内細菌への関心が高くなっています。
腸内細菌の主なエサは食物繊維です。そこで、健康に寄与する腸内細菌を増殖させるのに適した食物繊維を探索する研究が進められています。

また、ビフィズス菌など健康にプラスに働く菌を生きた状態で摂取するプロバイオティクスも腸内細菌叢のバランスを整えるとして推進され、これらを利用した食品開発が行われるようになりました。Grand View Researchは2022年1月に発表したレポートで、2030年までに世界のプロバイオティクス市場が1,112.2億ドルに達すると予測しています。

さらに今後注目されるのが、腸内細菌叢にアプローチするパーソナライズされた製品の開発です。腸内細菌叢は指紋と同様に人それぞれ異なるため、腸内細菌叢をよりよい状態へと導く最適な栄養も異なります。たとえば、腸内細菌叢検査を実施後に、検査結果に基づいた食事を提案したり、検査結果に応じて微調整した食品を提供したりすることが可能となるでしょう。マイクロバイオームにおけるパーソナル製品という新しい市場が今後、誕生するかもしれません。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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