遺伝子活性のスイッチを制御する
「エピジェネティクス」。健康や美容への応用に期待

私たちの生活環境や習慣が、遺伝子の活性化スイッチのON/OFFに影響を与えています。この「エピジェネティクス」と呼ばれる仕組みはいま、医療や健康・美容への応用が期待され、大幅な成長が予測されています。今回はエピジェネティクスの研究や市場の動向を解説します。

遺伝子の情報を変えずにその働きを制御する「エピジェネティクス」とは?

エピジェネティクスとは、遺伝子の情報は変えずに、活性化する遺伝子のスイッチのON/OFFを制御することで、遺伝子の働きを制御する仕組みです。
生活環境や習慣の影響で、DNAにメチル基と呼ばれる分子が付くDNAメチル化や、DNAが巻きついているヒストンと呼ばれるタンパク質にメチル基やアセチル基などが付着するヒストン修飾などが起こります。この現象によって、遺伝子活性化のスイッチが切り替わります。これがエピジェネティクスです。

実はいま、エピジェネティクスはがん、精神疾患、代謝疾患、腎臓病、循環器疾患、自己免疫・アレルギー疾患などの発症に関連していると指摘されています。たとえば、遺伝子にはその遺伝子を使うかどうかを制御するプロモーターと呼ばれる部分があります。ここがDNAメチル化されると、その遺伝子は使えなくなってしまいます。遺伝子の中には、細胞が異常に増殖するのを止めるがん抑制遺伝子が存在します。このがん抑制遺伝子のプロモーターがDNAメチル化によって使えなくなってしまうと、がんを発症してしまうのです。

また、エピジェネティクスは次世代の健康にも影響を与えることが示唆されています。もともと痩せている女性が妊娠したり、妊娠中にダイエットをしたりすると低出生体重児が生まれやすいことがわかっていますが、低栄養状態による妊娠への影響はそれだけではありません。胎児期にエピジェネティックな変化を生じさせ、出生後成長するにつれて肥満、高血圧症、2型糖尿病、動脈硬化の進展による脳血管障害や虚血性心疾患などのリスクが高まることも明らかになりました。この概念はDOHaD(ドーハッド:Developmental Origins of Health and Diseaseの略)と呼ばれ、先制医療の分野で注目を集めています。

がんなど、さまざまな治療薬開発への応用に期待

エピジェネティクスがさまざまな疾患の発症に関与しているとされる一方で、多くの疾患の治療に応用されることが期待されています。研究・開発が進められ、すでに臨床で使用されているものもあります。
たとえば、治療抵抗性T細胞性リンパ腫や多発性骨髄腫の治療で、エピジェネティクス制御を標的とした治療薬がすでに用いられています。非ホジキンリンパ腫、前立腺がん、乳がんなどへの応用も研究中です。がん以外にも糖尿病性神経障害性疼痛、HIV感染、アルツハイマー型認知症の治療薬や、抗炎症薬なども開発が進められ、再生医療への活用も期待されています。

エピジェネティクス市場は約16%のCAGRで成長すると予測

ある市場調査レポートによると、2021年から2026年にかけて、世界のエピジェネティクス市場は約16%のCAGRで成長すると予測されています。
その要因は、世界中でがんやAIDSが増加していること、がん以外の疾患に対するエピジェネティクス・ソリューションの広範な採用が市場成長の推進力になっていることと分析されています。また、新型コロナウイルスの突然の発生・感染拡大も成長機会を提供していると見られています。

化粧品でも応用が期待されるエピジェネティクス

エピジェネティクスは医療だけではなく、化粧品にも応用され、アンチエイジングや美白などの効果をうたった製品が販売されています。世界のエピジェネティクス化粧品市場は過去数年間で大幅な成長が確認されていて、今後も継続することが予測されています。

また先に紹介したDOHaDの予防として、若年女性の栄養状態の改善が日本の大きな課題となっており、国も対策を検討しています。食品市場においても今後、エピジェネティクスを応用した新たな製品の開発が求められるかもしれません。エピジェネティクスの医療、健康・美容領域における市場動向に注目です。


ウェルネス総研レポートonline編集部

関連記事一覧