【後編】「良質なタンパク質」の選び方+効率を上げる取り入れ方を押さえる!
筋肉合成の枠を超えて生理活性に欠かせないタンパク質を取り入れるには、良質なタンパク質を見極め、効率の良いタイミングや方法で摂取することが必要です。食事で摂ったタンパク質の5割は小腸で利用されるという現実や必須アミノ酸の中で注目しているロイシン、推奨するタンパク質の取り入れ方について、前編に続き、立命館大学スポーツ健康科学部の藤田 聡教授に伺いました。
「良質なタンパク質」の見極め方
前回のインタビューで、タンパク質は全身の生理的機能において必要不可欠であるという詳細な理由がわかりました。このタンパク質を摂取するにあたり、「良質なタンパク質」でるかどうかの見極め方について教えていただけますか?
良質なタンパク質を考える上でまず、タンパク質の基本を押さえましょう。タンパク質は20種類のアミノ酸が、鎖状に50個以上つながってできた化合物です。ヒトはその20種類のうち、11種類を他のアミノ酸などからつくり出すことが出来ますが、残りの9種類は体内で十分な量をつくることが出来ません。この9種類を必須アミノ酸と呼び、例えば神経伝達物質の基となるトリプトファンなどがあります。
そしてタンパク質には色々な定義付けがなされ、「アミノ酸スコア」もそのうちの一つ。これは、食品中に含まれるタンパク質のうち必須アミノ酸について、まんべんなく十分な量を含んでいるかどうかという考え方です。どれか一つでも少ない必須アミノ酸があれば、その食品としてのアミノ酸スコアは低くなります。これを考えることにより、不足している必須アミノ酸を他の食材で補い、食事全体で見たタンパク質の「質」を補正することができるのです。
必須アミノ酸の中で、とくに注目されているアミノ酸はありますか?
個人的に最も注目している必須アミノ酸は、BCAA(分岐鎖アミノ酸※)の3つのうちロイシンです。ロイシンは筋肉細胞の遺伝子に働きかける物質(mTOR、エムトール)を活性化することで、筋肉の同化作用を強くし筋肉量を増やしやすくすることが分かっています。
したがって、良質なタンパク質かを見極めるときには、9つの必須アミノ酸をそれぞれ十分に含んでいるかという点と、筋肉を作る目的があるならロイシンをどのくらい含んでいるかという2つの点を見るとよいでしょう。
※分岐鎖アミノ酸:BCAA(Branched Chain Amino Acid)はその分子構造の一部が枝分かれした構造をもつアミノ酸のことで、バリン、ロイシン、イソロイシンの3つを指す。筋肉に多く存在し運動時のエネルギー源として利用される。
ロイシンを多く含む食品には、どのようなものがあるのでしょうか?
ロイシンは他の必須アミノ酸と同様に植物性タンパクよりも動物性タンパクに多く、なかでも乳製品でチーズや牛乳、ヨーグルトなどで多く含まれています。ただ、植物性タンパクの中でも大豆はとても優秀です。最近は、牛乳の消費量が減る一方で、豆乳などの植物性タンパクを好む人も増えてきました。
しかし、タンパク質をつくる同化作用は動物性タンパクの方が勝っているため、高齢者など食事の量が限られている場合では効率的に摂取できるものを選ぶ必要があるでしょう。
目的に合った効率的なタンパク質の摂り方
タンパク質を摂る目的には、筋肉をつくる以外にどのような場合が当てはまりますか?
前述のとおり、タンパク質は筋肉をつくるほか、私たちが恒常性を保ちながら全身の代謝を維持したり、気持ちを安定化させたりするためにも必要なものです。しかし、疲労回復や美しい肌をつくることを目的に、特定のタンパク質やアミノ酸について時間を決めて摂取するという裏付けが明確に示されている訳ではありません。ある研究では、運動負荷を与えたあとにアミノ酸を摂取することで翌日の疲労が軽減するというような話もあるようです。
筋肉を増やすなら、どのように摂取するのが良いでしょうか?
筋肉量を増やすためには年齢に関わらず、体重1kgあたり1.6g程度を目安に摂るようにしてください。例えば体重50kgの人なら1日80g位です。また、古いタンパク質を壊して新しいタンパク質をつくるという観点も踏まえ、運動することが前提なら少なくとも1食で20~30g位を摂る必要があるでしょう。
また、筋肉をつくるときに体内で起こる刺激は食後1~2時間でもっとも高くなり、それ以降は時間とともに下がっていきます。この刺激を毎食20~30g程度の十分なタンパク質で活性化し、筋肉の合成能を最大化させることが重要です。足りていないと十分な刺激になりません。この場合、せっかく筋トレをしても筋肥大は起こりにくいということが、どの世代においても証明されています。反対に、過剰に摂っても体内にためておくことが出来ないため、毎食で補給することが必要です。
おやつ等の間食で、タンパク質を摂り入れるということは意味がありますか?
毎食で十分な量を摂ることが難しい場合や、一度に食べる量が限られている人にとっては間食で摂り入れることも手段の一つで意味があると言えます。ただし、既に毎食でしっかり摂れている人が、間食で追加することのメリットというのは明確になっていません。
ここで、食事で摂るタンパク質の量はあくまでも今、自身が持つ筋肉を維持するために必要な量、筋肉を増やしていくためにはもっと必要です。これを手軽に、ふだんの食事スタイルを大きく変えることなく取り入れることの出来る“おやつ”はメリットがあると思います。
近年、「朝タンパク」という言葉を耳にしますが、体内時計と摂取する時間との関連性はありますか?
おそらく多くの人で、夕食後から朝食後までの絶食時間がいちばん長くなるでしょう。空腹状態が長く続くほど体内では筋肉が分解されてアミノ酸を放出する、所謂“カタボリック”と呼ばれる状態に。そして、タンパク質を摂って放出から合成の状態に切り替えるタイミングが朝食です。ここでタンパク質の摂取量が足りないと、昼食まで分解が進むことになります。
絶食状態をいかに断ち切るかという点で、朝食にタンパク質を摂ることが大切です。また、筋肉を大きくするという意味でも、朝にタンパク質を摂ることが重要という考え方は間違いありません。
腸内環境がタンパク質の吸収や、活用の効率等に影響を与えることはあるのでしょうか?
腸内環境は多くの栄養素における消化吸収に関与し、吸収という部分でタンパク質も影響を受ける可能性は大いにあると言えるでしょう。
例えば、激しい運動をすると小腸の血流が一時的に少なくなり、その状態では小腸の細胞が傷つき壊されます。この状態でプロテインを飲んでも、運動前に比べてその吸収量が減るということも分かっているのです。
また、食として摂ったタンパク質は、ほとんどが遊離アミノ酸と一部がペプチドという形で吸収され、そのうち5割は代謝スピードの速い小腸が吸収して利用します。そういった意味でいうと、腸内環境は日頃から整えておくのがよいでしょう。
最後に、タンパク質のおすすめの取り入れ方について教えていただけますか?
また、企業に求められるタンパク質関連商品の在り方について、期待されていることがあれば教えていただけますでしょうか?
個人的によく話に出すのはヨーグルトで、朝食や夕食など時刻にとらわれることなく一品足せるという手軽さがいいと思います。食事で十分量に達していないなら、不足分を何か一品足すというよりも食後にプロテインで補うというのも手軽で良いでしょう。おやつとしてのプロテインバー等は、余計な糖質や脂質を摂り過ぎることの回避にもつながります。
また、調理に供するなら乳製品や大豆で取り入れるのもおすすめ。タンパク質というと肉や魚を想像しがちですが、主食で取り入れるよりも“ちょい足し”の方が簡単です。
最近では、生活者におけるタンパク質の機能に対する認識も高まりつつあり、これまでの“筋肉をつくる”という視点とは別の視点で商品を見られ始めています。ここに、タンパク質が身体にとって最も重要な栄養素である理由も、きちんと添えていくことが求められているのではないでしょうか。
藤田 聡 教授 プロフィール
立命館大学 スポーツ健康科学部 教授
博士(運動生理学)。2002年南カリフォルニア大学大学院博士号修了。2006年テキサス大学医学部内科講師、2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科特任助教を経て、2009年より立命館大学。米国生理学会(APS)や米国栄養学会(ASN)より学会賞を受賞。専門は運動生理学、特に運動や栄養摂取による骨格筋の代謝応答。監修本に『タンパク質まるわかりBOOK』、共著に『体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学』など。