新時代のアンチエイジングの鍵となる「細胞再活性化」セミナーレポート

人生100年時代を迎えたいま、健康寿命を延ばし、豊かな人生を送ることへの社会的関心はますます高まっています。近年では、細胞そのものに働きかけて回復力を高め、老化を根本的に解決する方法が科学の力で解明されつつあります。
一般社団法人ウェルネス総合研究所は、ポストアンチエイジングとしていま注目される「細胞再活性化」について、2021年6月17日(木)にメディア向けオンラインセミナーを開催しました。そのキーワードとなるオートファジー研究の権威である大阪大学の吉森保先生と、サーチュイン遺伝子研究のスペシャリストである九州大学の片倉喜範先生を講師にお招きし、解説いただきました。その内容をレポートします。

第1部は吉森保教授がオートファジーから「細胞ケア」に焦点を当てる

第1部は「オートファジーによる『細胞再活性化』がもたらす健康寿命延伸への期待」と題して、大阪大学大学院生命機能研究科の吉森保教授がご講演されました。
ちなみに吉森教授はラバーダック(黄色い子アヒルの玩具)の世界的収集家でもあり、zoomの背景にキュートなラバーダックを従えての登壇です。

大阪大学大学院生命機能研究科 吉森保教授

まず知っておきたいのは「全身の健康を支えているのは細胞の健康であり、細胞が病めば病気になること」である、と吉森教授。細胞は生命の基本単位で、生き物はみな細胞からできており、目や皮膚、脳や肝臓といった器官、体のすべてが細胞で構成されています。そのため、細胞の中の新陳代謝が滞って細胞の中身が古く壊れたままになり、機能が低下すれば、体にも見た目にも不調があらわれます。

体内の不具合と見た目の衰え、そのどちらの老化も「細胞の機能低下」が根本原因という吉森教授。年齢を重ねるごとに細胞の新陳代謝は低下し、細胞の機能が低下するため、細胞そのものの新陳代謝を促し、細胞自体の機能を回復することが重要です。
オートファジーとは、細胞の中で物質を回収して分解し、リサイクルするシステムのことです。
オートファジーの主な働きの1つが「細胞内の新陳代謝」で、細胞の部品を少しずつ壊して入れ替え、細胞の恒常性を保ち健康を維持しています。「車の部品を毎日一つずつ新しくしていけば、車は新車になる。それと同じです」と、わかりやすく解説して下さいました。

そして、オートファジーのもう一つの重要な役割が「有害物の除去」で、細胞の中に侵入した病原体や、活性酸素を放出する壊れたミトコンドリアを狙って回収して除去します。このようにオートファジーは細胞の機能が保たれ元気であるために大きな役割をはたしており、オートファジーがうまく働かなくなると、パーキンソン病やアルツハイマー病、糖尿病などが引き起こされると考えられています。
このオートファジーの機能は加齢により低下しますが、オートファジーの活性が維持できれば細胞は再活性化し免疫力も高まり病気の予防になるので、健康寿命の延伸にもつながります。

オートファジーを促進する天然食品成分と実用化への期待

吉森教授の専門分野であるオートファジーは、細胞のケアにより「老化を抑えること」「寿命を長くすること」の実現に対して大きな可能性を秘めています。これからは、オートファジーに働きかけ、細胞を再活性化させる素材の研究が進み実用化されていくことに、おおいに期待しています。

創薬への期待はもちろんですが、日常で摂り入れやすい食品成分の実用化も目指し、多くの方の健康づくりに貢献して行きたいと思っています。

こうした研究成果の社会実装により、細胞をトータルケアすることで健康寿命を延伸し、多くの方の健康づくりに貢献したいと語る姿が印象的でした。

第2部は片倉喜範教授がサーチュイン遺伝子から「細胞再活性化」にアプローチ

第2部は「サーチュイン・オートファジー活性化の相乗効果が証明された期待の食成分」と題して、九州大学大学院農学研究院の片倉喜範教授がご講演されました。

九州大学大学院農学研究院 片倉喜範教授

別名「長寿遺伝子」として知られるサーチュイン遺伝子は、肝臓、心臓、脳、膵臓、脂肪細胞、骨格筋などに存在し、サーチュイン遺伝子を活性化すれば全身に良い効果があることが確認されています。ヒトでもサルでも、カロリーを制限するとサーチュイン遺伝子が活性化することがわかっていますが、カロリー制限は行き過ぎてしまうと、フレイルを加速させるなど、健康に逆効果を与えることもあるので、食品の研究を行う農学研究者である片倉教授は「食べないことではなく、食品で長寿遺伝子を活性化させ抗老化を実現させたい」と思い、研究をしています。

サーチュイン遺伝子にはSIRT1からSIRT7までの7種類があり、それぞれに異なる特性がありますが、片倉教授の研究室では特に寿命延長に関係の深いSIRT1、3、6を活性化する食品成分を探索。健康に良い食品として欧米で多数の論文のあるザクロに注目する中で、ザクロの主要ポリフェノールであるエラグ酸が腸内で代謝されてできる「ウロリチン」がSIRT1を活性化することがわかってきました。

サーチュインとオートファジーの相乗効果を発揮する食品成分「ウロリチン」

ウロリチンはサーチュイン遺伝子を活性化するだけでなく、オートファジー活性化も同時に促します。 オートファジーが活性化すると、ダメージを受けたミトコンドリアが分解され、サーチュイン遺伝子(SIRT1)が活性化することで、新しいミトコンドリアの合成が促進されます。つまり分解と合成のサイクルが活性化し、新陳代謝が活発になることが期待されます。

ウロリチンは肌への効果としてシワ改善、セラミド合成効果、また、紫外線によるDNAの損傷修復酵素であるXPCの発現を高めるなど、紫外線ダメージへの効果も認められています。

「将来は全身への効果についても研究を進めていきたい」と片倉教授。
細胞再活性化の切り札として身近な存在になる日も、遠くないかもしれません。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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