04認知症コラム
認知症と睡眠不足の関係は?
睡眠不足が招くリスクや毎日の睡眠のポイントもご紹介
2025.12.25
長期間にわたる生活習慣病の追跡研究で知られる久山町研究では、睡眠不足により認知症の発症リスクが高まる可能性が示唆されています。睡眠不足と認知症はどのような関係があるのか、また、睡眠不足により心身にどのような影響が生じるのかまとめました。健康に暮らしていくためにも、適切な睡眠についての理解を深めておきましょう。
睡眠不足が認知症に与える影響は?
睡眠不足はアルツハイマー型認知症の
発症リスクと関係があると考えられている
アルツハイマー型認知症の原因物質として注目される「アミロイドβ」は、正常な脳でも生成されますが、分解とのバランスが崩れると蓄積し、神経細胞の働きを阻害します。とくに、ノンレム睡眠中に排出されるため、睡眠不足が続くと脳内に蓄積しやすくなり、認知症の発症リスクが高まると考えられています。
久山町研究では、睡眠時間が5時間未満の人は、5〜6.9時間の人に比べて認知症発症リスクが2.6倍に上ると報告されており、予防には適切な睡眠時間の確保が重要です。
睡眠障害も認知症と関係がある
睡眠不足が続くと、不眠症や過眠症といった睡眠障害を引き起こすことがあります。この睡眠障害も認知症の発症と無関係ではないと指摘されています。
イタリアで実施された研究によれば、軽度アルツハイマー型認知症の方の約6割が何らかの睡眠障害を有しています。また、研究参加者の約2割が、「夜にうまく寝付けない」「朝早くに目が覚める」などの睡眠に関わる問題を抱えていました。認知症の発症リスクを軽減するためにも、睡眠障害への適切な対応が必要といえるでしょう。
出典:Rongve A, Boeve BF, et al.「Frequency and correlates of caregiver-reported sleep disturbances in a sample of persons with early dementia」(Journal of the American Geriatrics Society, 58(3):480–486, 2010)
認知症以外に睡眠不足が招く5つのリスク
睡眠不足は認知症の発症リスクを高める可能性があるだけではありません。睡眠不足が引き起こすとされる認知症以外のリスクについてみていきましょう。
免疫力の低下
免疫細胞は睡眠中に活性化します。睡眠不足が続くと免疫細胞の働きが鈍くなり、感染症への抵抗力が弱まる点に注意が必要です。また、睡眠不足は自律神経のバランスを乱すため、成長ホルモンの分泌が減少したり、めまいや耳鳴りなどが頻繁に生じたりする原因にもなりえます。
集中力や判断力の低下
睡眠不足は脳の働きを鈍らせ、注意力や思考力の低下を招きます。日中の強い眠気や意識のぼんやり感が判断力を曖昧にし、仕事上のミスや予期せぬ事故のリスクを高める要因にもなりかねません。日々のパフォーマンス維持には、十分な睡眠の確保が大切です。
代謝の低下
睡眠不足が続くと、代謝機能が鈍化し、消化や細胞修復といったプロセスが滞りやすくなります。寝ても疲れが取れない、肌荒れが続くなど、身体の不調が現れやすくなるでしょう。また、代謝機能の鈍化に加え、食欲を抑えるホルモンの分泌量も減るため、太りやすくなることもあります。
生活習慣病の発症リスクの向上
睡眠不足が続くと、血糖値や血圧をコントロールするホルモンの働きが鈍くなり、糖尿病や高血圧、心疾患などの生活習慣病の発症リスクが高まります。
また、睡眠中に気道が塞がり無呼吸状態に陥る「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」や慢性的な不眠につながることも少なくありません。閉塞性睡眠時無呼吸症候群も生活習慣病の発症リスクの一つです。寝起きに疲れが取れていないときは、一度医療機関で相談してみましょう。
気分の不安定
睡眠不足は感情をコントロールする脳の働きも鈍化させます。悲観的な思考に傾き、些細なことで不安を感じたり、イライラしやすくなったりすることもあるでしょう。また、精神を安定させる働きをするセロトニンの分泌量が減少し、うつ症状に陥ることもあります。
毎日の生活で意識したい睡眠改善のためのポイント
心身の健康を守るためにも、質のよい睡眠をしっかりととることが大切です。睡眠の質を改善するために普段からできることを紹介します。
睡眠時間をしっかり確保する
睡眠の質を改善するには、まず毎日睡眠時間をしっかりと確保することが大切です。成人の睡眠時間は1日6~8時間程度が適切とされていますが、体質や生活スタイルによっても異なります。朝すっきりと目覚め、日中に強い眠気を感じていないかによって、質・量ともに十分な睡眠をとれているのか確認してみましょう。
ただし、長すぎる睡眠も、かえって脳の健康に悪影響を及ぼし、認知機能の低下リスクを高める可能性があるので注意が必要です。
目覚めたらまずは日光を浴びる
朝の光を浴びると体内時計が調整され、自然な眠気と目覚めのリズムが整いやすくなります。起床後すぐに窓を開けて太陽光を浴び、セロトニンの分泌を活性化するようにしましょう。また、日光を浴びることで、ホルモン分泌や生活リズムの調整を司るホルモン「メラトニン」が活発に分泌されるようになり、睡眠の質を改善しやすくなるともいわれています。
毎日決まった時間に起きる
毎日決まった時間に就寝・起床することも大切なポイントです。生活リズムが安定し、心身のコンディションが整いやすくなるだけでなく、入眠しやすくなり、夜中に目が覚める回数も減ります。また、体内時計が正常な状態になり、寝つきや目覚めの悪さも改善しやすくなるでしょう。
食習慣を乱さないようにする
睡眠前の飲食は、眠りの質を悪化させることがあります。胃の中に食べ物が入ると消化活動が活発になり、脳や神経の活動も活発になり、入眠が難しくなることもあるでしょう。夕食と就寝の間に十分な時間を空けたり、夕食を軽めにしたりすることで、自然に眠気が生じる生活にシフトしていくことが大切です。
長時間の昼寝を控える
昼寝の時間が長すぎると、夜のスムーズな入眠を妨げたり、睡眠の質が低下したりすることがあります。昼寝は短時間にとどめ、体内リズムの乱れを防ぐようにしましょう。また、日中に頭がすっきりとしないときは、昼寝ではなく軽い運動を取り入れることもおすすめです。適度に身体が疲れるため、夜に自然な眠気を得やすくなります。
出典:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
【認知症になる前に】睡眠不足が続くと現れるサイン
適切な睡眠時間には個人差があり、また、眠りの質もさまざまです。睡眠不足が続くと現れるサインを紹介するので、ぜひご自身の状態をチェックしてみてください。
会話や受け答えに違和感が出てくる
話の内容がかみ合わないことや的外れな返答が増えたときは、睡眠不足が続いているのかもしれません。記憶に混乱が生じ、同じ話を繰り返したり、言葉を探す時間が長くなったりすることもあります。
日中の活動量が目に見えて減る
外出や散歩を避け、家の中で過ごす時間が増えたり、身体を動かすことが面倒に感じて座位の時間が長くなったりするときも、睡眠不足が原因かもしれません。趣味や人付き合いへの関心が薄れ、社会生活にも影響が及ぶことがあります。
感情の起伏が激しくなる
睡眠不足が続くと感情のコントロールが難しくなります。急に怒り出す、落ち込む、泣き出すといった様子が見られたり、些細なことで不安を感じたりするようになるかもしれません。また、周囲の言葉や態度に過敏に反応し、拒否的な態度をとることもあります。
昼間に強い眠気やぼんやりした様子が続く
昼間に強い眠気を感じ、食事中や会話中に居眠りをすることもあるかもしれません。また、集中力が長続きせず、予定していたことをこなせなくなることもあります。
認知症と睡眠不足に関するよくある質問
認知症と睡眠不足についてよくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
睡眠不足は認知症を悪化させますか?
睡眠不足は認知症の発症リスクを高めますが、認知症を悪化させる直接の原因になるとは断定できません。しかし、睡眠不足が続くと生活習慣病の発症リスクを高め、免疫力を低下させることもあるため、認知症の方も適切な睡眠時間を確保することが大切です。
睡眠薬は認知症に影響がありますか?
睡眠薬と認知症についてはさまざまな研究が実施されてきましたが、まだ明確な関係は判明していません。しかし、不眠が続いた場合、「睡眠薬は認知症の発症リスクを高めるかもしれない」と睡眠薬の服用を拒絶するよりも、適宜服用してしっかりと眠るほうが認知症の発症リスクを軽減すると考えられます。
高齢者の睡眠不足と認知症の関係はありますか?
睡眠不足が続くとアミロイドβが脳内に蓄積し、アルツハイマー型認知症の発症リスクを高める可能性があります。良質な睡眠を適度な時間とるためにも、日中はしっかりと身体を動かし、昼寝時間が長引き過ぎないようにしましょう。
アルツハイマー型認知症の原因は睡眠不足ですか?
睡眠不足によりアミロイドβが脳内に過剰に蓄積すると、アルツハイマー型認知症の発症リスクを高めることが研究により示唆されています。しかし、アルツハイマー型認知症の原因は、睡眠不足だけではありません。年齢や遺伝、生活習慣病、喫煙習慣などもアルツハイマー型認知症を引き起こす原因といわれています。
認知症予防のためにも睡眠の質・量に注目しよう
睡眠不足は認知症の発症リスクを高めるだけでなく、生活習慣病の発症リスクを高めたり、免疫力の低下を招いたりすることがあります。心身ともに健康な状態を維持するためにも、睡眠不足に陥らないように工夫することが大切です。
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