04認知症コラム
認知症の方の遺言書に効力はある?
有効な遺言書を作成するポイントも紹介
2025.10.31
 
認知症を発症していても有効な遺言書を作成できるのか、不安な方も多いのではないでしょうか。この記事では、認知症の親に遺言書を書いてもらう際に押さえておきたいポイントや、相続人間でトラブルにならないための注意点について解説します。公正証書遺言といった遺言書の種類の違い、そして認知症になる前に進めておきたい準備も確認しておきましょう。
認知症の方が書いた遺言書は無効になる?
認知症の方が書いた遺言書は、認知症というだけでは必ずしも無効になるわけではありません。認知症と診断されていても、遺言書を作成した時点での「遺言能力」があれば、その遺言書は基本的に有効とされるケースが多いです。一方、遺言能力があっても、例のように遺言書が無効とされる可能性があります。
認知症かどうかよりも、遺言書作成時点での判断力・理解力といった遺言能力が重要なポイントです。
しかし、たとえ遺言能力があったとしても、遺言の形式が法律で定められた方式に従っていない場合など、無効とされるケースもあります。遺言能力の判断は専門的な知識を要するため、不安な場合は専門家への相談を検討するとよいでしょう。
- 遺言能力があっても無効とされるケースの例
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- 署名捺印や作成日の記載不備といった形式要件を満たしていない※
- 修正液の使用や訂正印の不備など、遺言書の訂正方法に誤りがある
- 詐欺や脅迫によって本人の意思に反する遺言を作成させられた
- 遺言の内容が公序良俗に反すると判断される(例:「不倫相手に全財産を譲る」など)
 
※出典:法務省「03 遺言書の様式等についての注意事項」
 
遺言能力とは
遺言を作成する際に自らの意思を明確に表現できる能力
遺言能力とは、遺言書の作成者が、作成時に遺言書の内容に自らの意思を明確に表現できる能力のことです。具体的には、「どの財産を誰に与えるのか」といった遺言内容を正しく理解し、その内容が自分の死後に相続人にどう影響するのかまで把握できている状態を指します。
民法によると遺言能力には、「満15歳以上であること(民法961条)」と「意思能力を持っていること(同法963条)」の両方が必要です。※
遺言能力が疑われる場合は、相続人が起こす遺言無効の訴訟の中で、医師による診断をはじめとする複数の要素から、最終的に裁判官が遺言能力の有無を判断します。
※e-gov「(遺言能力)民法961条・963条」
- 遺言能力を判断する要素の例
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- 主治医の診断や所見
- 本人の年齢
- 遺言時の病状や認知機能の程度
- 本人が理解できる程度の遺言内容の複雑さ
- 遺言内容と作成時の状況や人間関係の合理性
 
認知症が関わり遺言書の効力で
トラブルになりうる3つのケース例
認知症の方が作成した遺言書は、遺言能力を争点とした効力をめぐるトラブルが起こりやすいです。ここでは、代表的な3つのケースを紹介します。
ケース1
診断はなかったものの認知症の症状が疑われる中で遺言書を書いていた
認知症の診断を受けていなかった場合でも、作成時に遺言能力がなかったと判断されれば遺言書は無効です。認知症の診断がないからといって、認知症ではないという証拠にはなりません。
反対に、遺言内容を理解できる状態だったと認められれば、遺言書は有効です。遺言能力があったと証明するには、裁判で医師の意見書や介護記録、家族や同居人の証言などを提出する必要があります。
ケース2
認知症と診断が出る前に遺言書を書いていた
認知症の診断前に作成された遺言書であっても、診断時期と遺言作成時期が近い場合は無効になるリスクがあります。とくに、医師によって判断能力の低下が診断されていた場合、無効になる可能性が高いです。
一方、遺言書作成時に精神状態や認知機能がわかる診断が出ており、それによって遺言能力があると判断されれば、遺言書は有効です。遺言能力の有無は、認知症の診断時期と診断内容が裏付けとして影響します。
ケース3
認知症と診断された後で遺言書を書いていた
認知症の診断後に書かれた遺言書は、遺言内容の複雑さと診断内容の双方から有効かどうかが判断されます。たとえ医師から遺言能力があると診断されていても、遺言の内容が複雑な場合は注意が必要です。もし本人が遺言の内容を十分に理解できなかったと判断されると、遺言書は無効となります。
ただし、内容がシンプルで、遺言能力があったと証明できる医師の診断書があれば、遺言書が有効になる可能性があります。
 
【認知症が疑われる場合】有効な遺言書を
作成するためのポイント
認知症が疑われる状態でも、法的に有効な遺言書を作成できるケースがあります。ここでは、遺言書を作成する際に押さえておきたい3つのポイントについて解説します。
医師の診断書を取得する
認知症が疑われる場合に有効な遺言書を残すには、医師による診断書を取得するのが大切です。診断書は、遺言書作成時に本人に判断能力があったと示す有力な証拠となります。
とくに病歴や当時の健康状態、認知機能の検査といった、具体的な状態がわかるように記録してもらうのがポイントです。
万が一、裁判で遺言能力が争われた場合でも、医師による詳細な記録を根拠として提出できるため、遺言書が有効になる可能性が高まります。
遺言書を作成している過程を記録に残す
遺言書を作成する過程を記録に残しておくと、認知症が疑われていたとしても本人が自らの意思で遺言を作ったと証明しやすいです。
遺言者の認知機能が低下していると、「遺言書がほかの人に強制させて作られたのではないか」とほかの相続人から指摘される可能性があります。遺言書が無効にならないようにするには、作成時の打ち合わせ内容や、作成にかかわった人の証言などを記録しておくのが大切です。
遺言書を作成している過程を記録する具体的な方法は例で記載している通りです。過程を記録してくと、相続人同士で争いになった際にも、遺言者の意思を証明できる客観的な資料として提出できます。
- 記録に残す方法の例
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- 録画や録音で作成時の様子を残す
- 作成の経緯を日記やメモに記す
- 打ち合わせ内容を立ち会った専門家に記録してもらう
- 専門家との相談内容を記録する
 
公証証書遺言書を作成する
認知症が疑われる場合に有効な遺言書を残すには、公正証書遺言書は比較的無効にされにくい形式です。公正証書遺言は、公証役場で証人の立会いの下で、公証人が本人の意思を確認しながら作成されます。そのため、本人の意思を正しく遺言書に反映しやすく、すべて手書きで作成する自筆証書遺言よりも信頼性が高いです。※
※出典:法務局「自筆証書遺言と公正証書遺言の違い」
形式的な不備も発生しにくく、さらに原本は役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。公正証書遺言書を作成すると、遺言内容についてトラブルになり遺言書が無効になるリスクを下げられます。
有効な遺言書が残せないと
考えられる場合にできる対策
法定成年後見制度を利用する
有効な遺言書を残せないほど認知症が進行していると考えられる場合、法定成年後見人制度の利用を検討するとよいでしょう。法定成年後見人制度とは、認知症や障害などで判断能力が不十分な方のために、家庭裁判所が法定成年後見人を選任し、その後見人に財産管理や法的な契約の代行などをしてもらう制度です。※1
ただし、法定成年後見人制度を利用しても、遺言書を代理に作成できるわけではありません。遺言書は本人が作成しなければならず、認知症の場合は、遺言能力が一時的に回復した際に、医師2名以上の立ち合いが要件として求められます。※2
また、後見人で誰を選出するかは裁判所の判断で決まります。財産が多額で内容が複雑な場合には弁護士や司法書士などの専門家が選任されることもあります。選任には数カ月から半年程度の時間がかかり、申し立てには約3,400円の収入印紙代といった費用が必要です。※3
※1 出典:厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)
」
※2 出典:e-gov「(成年被後見人の遺言)973条」
※3 出典:裁判所「申立てにかかる費用・後見人等の報酬について」
【認知症になる前に】効力のある遺言書を
残すための3つの準備
認知症になると、意思能力がないと判断されて遺言書が無効になるリスクが高まります。効力のある遺言書を残すためには、早めの準備が大切です。ここでは、ポイントとなる3つの準備について解説します。
 
相続の話し合いや準備を行う
認知症になる前に効力のある遺言書を残すために、家族や相続人と相続について本人の意思を共有しておくと、誤解やトラブルを予防できます。話し合う際は、「誰がどの財産を相続し、どのように分配するのか」といった具体的な内容の整理が必要です。
なるべく早い段階から話し合っておくと、相続の手続きをスムーズに進められます。
- ポイント
- 
- すべての財産を相続人全員で把握する
- 誰に何を相続するかといった財産の分け方を決める
- 相続人同士で誤解や不満が残らないよう記録を残す
 
法律家に相談を行う
認知症になる前に効力のある遺言書を残すために、弁護士や司法書士に相談しておくのが重要です。専門家のアドバイスによって、有効な遺言書が作れるように正しい形式や内容の確認が可能です。認知症になる前に本人の意思を適切に反映させた遺言書が作成しやすく、後に無効になるリスクを防げます。
- ポイント
- 
- 法的に有効な形式や内容になっているか確認してもらう
- 遺言書に記載する財産や相続人について詳細に説明する
- 遺言書の作成に必要な手続きをサポートしてもらう
 
遺言書を作成する
認知症になる前に有効な遺言書を作成するには、適した遺言書の種類を選ぶ必要があります。
遺言書の種類は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言書」の3つです。※
とくに認知症が不安な場合は、公証人が本人の意思を確認しながら作成してくれる公正証書遺言との相性がよいでしょう。
※出典:日本公証人連合会「遺言」
| 種類 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | 
|---|---|---|---|
| 特徴 | 本人が全文・日付・署名を自筆 | 公証人が本人の口述をもとに作成 | 本人が作成し、公証人に存在を証明 | 
| 認知症との 相性 | △ (意思能力の証明が難しい) | ○ (医師の診断書+公証人の確認で安心) | △ (内容が不明なため争点になりやすい) | 
認知症と遺言書に関するよくある質問
遺言書を作成する際に、認知症による影響について不安や疑問を感じている方も多いかもしれません。ここでは、よく寄せられる質問とその解答をまとめました。ぜひ遺言書作成時の参考にしてみてください。
アルツハイマー型認知症の場合でも遺言能力はありますか? 軽度認知症の段階で作成した遺言書にも効力はありますか? 公正証書遺言は認知症により無効になることは稀ですか?
Qアルツハイマー型認知症の場合でも
遺言能力はありますか?
アルツハイマー型認知症の場合でも、必ずしも遺言能力がないとはされません。作成時に内容を理解して、その結果を判断できる状態であったとみなされれば、遺言書は有効です。
遺言能力の有無は、病名だけではなく、当時の本人の健康状態を踏まえて総合的に判断されます。
Q軽度認知症の段階で作成した遺言書にも
効力はありますか?
軽度の認知症であっても、遺言書作成時点で意思能力があったと認められていれば、その遺言書は有効です。ただし、医師による診断や本人の状態によって、遺言能力が不十分とされる場合、遺言書は無効と判断されることもあります。
Q公正証書遺言は認知症により
無効になることは稀ですか?
公正証書遺言は公証人が本人の意思を確認して作成されるため、無効となるケースは少ないです。しかし、認知症によって遺言能力が不十分であったにも関わらず、公証人が遺言書を作成してしまうケースも稀にあります。
作成時の認知機能や健康状態について、医師の診断書といった証拠も残しておくと、遺言書の有効性が高まります。
認知症が不安なら遺言書は早めの準備が大切
認知症が進むと、遺言書が無効と判断されるケースが多いです。有効な遺言書を残すには、認知機能が低下する前に早めに準備しておくのが重要です。たとえば、医師に診断書を書いてもらったり、家族と相続について話し合ったりといった対策が、遺言能力を証明する証拠になります。
また、認知症の進行が不安な方は、認知症に関する正しい知識と日頃の予防法を知っておくことが大切です。最新の研究では認知症予防につながるヒントが見つかることもあります。気になる方は以下からチェックしてみてください。
 
