
ポリフェノールの視点は「抗酸化性」から「酸化物」へ。効果を引き出す「食べ合わせ」とは?

これまで「抗酸化」の印象が強かったポリフェノール。しかし現在、ポリフェノール自身が酸化されることで健康効果を発揮する「酸化物」としての側面に、新たな光が当たっています。紅茶をはじめとする茶葉のポリフェノールを研究する日本獣医生命科学大学 応用生命科学部食品科学科 教授 奈良井 朝子先生に、食べ合わせや食品加工におけるポリフェノールの可能性について伺いました。
鍵を握る着眼点、ポリフェノールは「抗酸化性」から「酸化物」へ
奈良井先生がポリフェノールに魅せられ、ご研究に邁進されることになったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか?
私はもともと、最初からポリフェノールを扱っていたわけではありませんでした。現在の大学へ入職した際に研究していたのは、当時の上司が進めていた「環境にやさしい条件で、植物由来の酵素を用いてアミノ酸からペプチドを合成する」という夢のある研究です。この研究を中心に行いつつ、植物性のポリフェノール酸化酵素の講義や実習も担当していたことで、徐々にポリフェノールそのものへの興味が湧き始めていたのを覚えています。
また、植物から目的の酵素(当時はアミノペプチダーゼ等のペプチド関連酵素)を抽出するには、酵素の回収率や活性の低下を招く「褐変反応」※が避けられません。こうした不利な影響もあって、正直なところ、ポリフェノールは「面倒くさいもの」と感じていた時期もあります。しかし、植物に多く含まれる成分として重要性は高く、学会でも褐変の制御や抗酸化性などの機能性が盛んに取り上げられていたため、情報は常に仕入れるようにしていました。
そのような折、緑茶カテキンの研究で著名な中山勉先生(静岡県立大学 食品栄養科学部 客員教授)が赴任してこられたことに、ある種の運命を感じたのです。先生の仕事をお手伝いするなかで、世界的に広く飲まれている「紅茶」の研究に踏み出すことに決めました。

※褐変反応:食品中の成分が反応して茶褐色に変化する現象のことで、ポリフェノール酸化酵素などの酵素的な反応と、メイラード反応やカラメル化などの非酵素的な反応の2種類がある。本文では前者のことを指す。
ポリフェノールの機能性では「抗酸化性」がよく知られていますが、こちらについても詳しくお聞かせください。
緑茶や紅茶に限らず、野菜や果物など多くの植物に含まれるポリフェノールの性質として欠かせないのが「抗酸化性」です。これは、ポリフェノール自身が極めて酸化されやすいという性質を指します。
ポリフェノールが、生体内の分子に代わって自ら「身代わり」となって酸化されることで、酸化ストレスから生体を守り、さまざまな疾患の抑制につながるのです。
ここで、身代わりとなったポリフェノール自身は「酸化物」へと変化するという側面を見逃してはいけません。実は、ポリフェノールを理解する上では、この「抗酸化性」という性質と肩を並べるほど、「酸化物」という側面も極めて重要なキーワードなのです。
先生が数あるお茶のなかでも、特に「紅茶ポリフェノール」に着目して研究を進めていらっしゃるのは、なぜでしょうか?
ポリフェノールの「抗酸化性」が注目される一方で、「酸化された後のポリフェノールが体内でどう振る舞うのか」という点については、まだほとんど解明されていません。
ポリフェノールは、緑茶では単量体(モノマー)として、紅茶やウーロン茶ではそれらが酸化されて連結した重合体(ポリマー)として存在しています。つまり、この重合体は、「酸化物」です。
これまでの研究で、生体の細胞膜を構成するリン脂質やタンパク質との相互作用は、単量体よりも重合体の方が強いことが分かってきました。言い換えれば、酸化物の方が生理作用をより強く引き起こしている可能性が高い、ということです。
なかでも紅茶には、カテキンが酸化されて生じる赤橙色色素の「テアフラビン」というポリフェノールが含まれています。しかし、これは天然の含有量が少なく、当時は試薬も市販されていなかったため、実験材料としては不向きな側面がありました。
そこで私は、入手しやすい緑茶カテキンに市販のポリフェノール酸化酵素を組み合わせ、テアフラビンを効率よく合成する手法を確立したのです。これが複数の成果を生み、論文発表につながったことが、紅茶研究に的を絞る大きな転機となりました。

出典:紅茶ポリフェノールLab
https://wellnesslab-report.jp/pj/koucha-polyphenol/
現在は、4種類あるテアフラビンの構造の違いが、リン脂質やタンパク質との相互作用にどう影響するかという「構造活性相関」の解明を進めています。生体内での最終的なアウトプットを確認するには、細胞系や動物系の詳細な実験がおこなえる他機関との共同研究が欠かせません。その前段階として、現在は試験管レベルで、一つでも多くの基礎データを着実に積み重ねているところです。
抗菌や抗ウイルス作用を期待して「うがい」に用いるなら、やはり酸化物である紅茶の方が適しているのでしょうか?
不純物や生体分子が取り除かれた試験管内の実験環境であれば、酸化物を含む紅茶の方が、単量体を含む緑茶よりも抗菌・抗ウイルス作用が強いという話は有名です。しかし、実際にヒトを対象に検証してみると、期待したほどの有意な差が見られないこともあります。
その要因の一つとして考えられるのが、唾液の介在です。唾液の分泌量や、その中に含まれるタンパク質とポリフェノールの相互作用には個人差があり、それらが複雑に影響し合うことで、本来期待されるはずの生理作用が十分に発揮されない可能性があります。
今後はこうした個体差や相互作用なども解明していきたいと考えています。
ポリフェノールの効果を左右する成分として、特に注目されている成分があれば教えていただけますか?
私が特に注目しているのは、ビタミンCとの相互関係です。市販のペットボトル茶飲料には酸化を防ぐためにビタミンCが添加されており、例えば急須で淹れた緑茶の約6〜7倍という高濃度のビタミンCが含まれています。これは、消化管内で数時間にわたりカテキンの酸化を抑え続けるのに十分な濃度です。対して、急須で淹れたお茶に含まれるビタミンCは、ごくわずかか(緑茶)、あるいはほとんど含まれていません(ウーロン茶、紅茶)。このビタミンCの有無や濃度の差は、ポリフェノールの効果を左右する重要な因子と考えられます。

消化管内にビタミンCが豊富にあると、ポリフェノールの酸化が抑えられるため、分子量の小さい単量体の状態が維持され、血液中へと移行しやすくなる可能性があります。
逆に、ビタミンCが少ない環境では酸化(重合)が進みやすく、大きな「酸化重合体」へと変化します。すると、周りのリン脂質や消化酵素などのタンパク質とより強く相互作用するようになり、血液中へ移行せずに、そのまま消化管内で機能を発揮する可能性が考えられるのです。現時点では、「どちらが良い」と断定はできません。それぞれ作用する部位やメカニズムが異なるという仮説を立て、研究を進めているところです。
また、こうした視点は、過去の疫学調査の結果を読み解く際にも必要ではないかと考えています。疫学研究において、細胞実験ほど明確な効果が観察されないケースがあるのは、カテキン単量体ですら経口摂取後に血中へ吸収される量が少ないこと、調査対象者の生活(飲酒・喫煙・運動)習慣の違いが影響することに加えて、検証に用いたお茶が「市販のペットボトル」か「急須で淹れたもの」かという区別がなされていないことも一因かもしれません。こうした新たな検証のあり方を提案できるよう、現在は基礎データの蓄積に注力しています。
















