
ポリフェノールの視点は「抗酸化性」から「酸化物」へ。効果を引き出す「食べ合わせ」とは?

ポリフェノールの効果を操る「食べ合わせ」、食品開発の新たな調査設計に期待
ポリフェノールと食品成分との、食べ合わせや飲み合わせについてお伺いします。まず、ビタミンCは一緒に摂取することが推奨されるのでしょうか?
現時点では、「目的とする作用や部位によって推奨が変わる」というのが妥当な回答です。ビタミンCを一緒に摂ることで消化管内での酸化が抑制されれば、当然ながら酸化物としての作用は期待できません。しかしその反面、酸化されずに小さな単量体の状態を保てるため、消化管から血液中へ移行して全身の組織に届き、そこで作用を発揮することが期待できます。
一方で、「食後血糖値の上昇抑制」や「脂質の吸収抑制」を期待する場合は、あえて酸化物へと変化させ、リン脂質や酵素タンパク質とより強く相互作用させることにより、消化管内での機能性をより強く引き出せるかもしれません。
つまり、ポリフェノールを「どこで、どのように効かせたいか」という目的次第で、ビタミンCとの組み合わせはどちらも正解になり得ます。
ここで課題となるのは、機能評価のための指標をどこに設定するかという点です。ビタミンCとポリフェノールは双方が優れた抗酸化性を持つため、「抗酸化力」を指標にすると、どちらの効果によるものか判別が困難になります。
そこで、例えばカテキン特有の生理活性を評価指標に据えれば、ビタミンCの有無による明確な違いが見えてくるはずです。実際、テアフラビンとリン脂質の相互作用については、ビタミンCの有無による効果の相違がすでにデータとして現れ始めています。
ビタミンC以外で、ポリフェノールとの食べ合わせや飲み合わせについて明らかになっている成分があれば、ぜひお聞かせください。
食べ合わせについては、まだ研究の余地が多分にある分野ですが、私たちは乳化などの「洗浄作用」という視点から検証を行いました。着目したのは、「油っこい食事の際にお茶を飲むと口の中がさっぱりする」という現象です。
バターや生クリームといった「油っこい」食材の多くには、中性脂質(食物油脂の主成分であるトリアシルグリセリド)とともに乳化作用を有するリン脂質が共存しています。そこで、緑茶と紅茶を用いて、リン脂質による乳化(油を水に分散させる作用)に及ぼす影響を試験管内の実験で比較しました。予想では、紅茶の方がより強くリン脂質と相互作用することで親水性/疎水性バランスが変わり、乳化に影響を及ぼすと考えていました。

しかし実験の結果、緑茶はリン脂質による乳化を顕著に促進させ(乳化油脂量が増加)、紅茶では乳化が全く促進されなかった代わりに油滴の径がわずかに大きくなったのです。さらに興味深いことに、紅茶の場合は細かい凝集物が生じていることも分かりました。この凝集物が、口の中では物理的刺激となって知覚の変化をもたらし、油滴が大きくなって油脂への接触可能な面積が減ることと合わせて脳に「さっぱりした」という感覚を抱かせているのかもしれません。
これらの作用はサポニンやカテキンではなく、別のポリフェノール化合物によるものだという点まで分かってきました。こうした食後の感覚についても、物質レベルで解明することを目指し、研究に取り組んでいます。
ポリフェノールの研究や活用について、今後の展望や期待されていることについて教えてください。
緑茶と紅茶の実験からは、「さっぱり感」という感覚的な違いの背景にある新しいポリフェノール化合物の存在に加え、油の乳化作用にも大きな差異があることが分かりました。このうち乳化作用については、食品加工の現場において、緑茶の持つ健康効果を備えつつ「天然の乳化剤」としても活用できるといった、実用的な可能性を秘めています。
もちろん、これらはまだ研究の緒に就いたばかりで、紅茶が乳化を促進しない理由など、さらなる検証が必要な部分も多く残されています。現時点では、食べ合わせや飲み合わせが健康維持以外にも寄与できることに期待し、対象とするお茶の種類を広げながら、加工などの実用的な応用への可能性を探っているところです。
ポリフェノール研究の全体を見渡すと、今、大きな転換期を迎えていると言えるでしょう。これまでは「ポリフェノール=抗酸化性」という視点からさまざまな生理機能が語られてきました。それが近年では、「酸化物(重合物)」による働きや、ポリフェノールが特定の受容体に作用して神経を刺激するなど、抗酸化性とは異なるメカニズムに注目が集まっています。これにより、認知機能や運動機能への好影響といった、新たな領域での研究も進められています。
お茶は長い歴史の中で愛飲され、毒性もほとんど報告されていない安全性の高い飲料です。その信頼を背景に、今後はお茶に留まらず、野菜のポリフェノールなどについても「抗酸化作用を超えた多面的な機能」が次々と解明されていくでしょう。私自身もその一端を担い、研究を通じて新たなブレイクスルーを生み出していきたいと考えています。
最後に、食品関連企業の研究開発やマーケティング担当者に向けて、ポリフェノールの新たな視点を交えたアドバイスをお願いします。
これまで多くの企業や疫学調査において、ポリフェノールの特徴は「抗酸化性」として広く認識されてきました。一方で、ポリフェノールそのものを「酸化物」という観点で捉えた報告や商品設計は、ほとんど見受けられません。例えば、急須で淹れたお茶とペットボトル飲料の違い、さらには添加されるビタミンCの量によって酸化状態が異なることに着目した調査や試験設計を行えば、従来とは異なる興味深い知見が得られるはずです。
こうした「酸化物ならではの効果」を戦略的に活用する手もあります。ポリフェノールを消化管から血中へと移行させたいのであれば、ビタミンCを潤沢に添加して酸化を抑制する。逆に、消化管内における作用(抗肥満や食後血糖値抑制を介した抗糖尿病など)を狙うのであれば、あえて一定まで酸化(重合)させた上で、後から品質保持のためにビタミンCを加えるといった、意図的な配合設計も考えられるでしょう。
将来的に作用部位やメカニズムがより明確になれば、ビタミンCの添加量を見極めることで、機能発現の方向性をコントロールすることも可能になります。さらに、酸化の有無によって得られる健康効果は異なってくることが証明されれば、お茶の活用の幅は今よりもずっと広がっていくはずです。ぜひメーカーの方々にも、この「酸化物としての機能」という新たな視点に注目していただきたいと考えています。

奈良井 朝子 先生 プロフィール
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部食品科学科 教授
農学博士
東京大学農学部農芸化学科を卒業。同大学院農学生命科学研究科博士課程修了。現在、日本獣医生命科学大学において、食品に関する成分化学、酵素学、機能学を中心に、植物性食品成分の生化学的変化ならびに生体分子との相互作用について精力的に研究中。















