“若返りタンパク質”「DEL-1」とは?注目される機能性の数々

血管の内側を覆う細胞から分泌される「DEL-1」は、体の中で炎症や免疫のバランスを整える働きをもつタンパク質です。加齢とともに体内量が減少することが分かっており、近年は“若返りタンパク質”としてメディアでも取り上げられるようになりました。

DEL-1が注目される背景には、炎症を抑える作用や血管・骨・口腔など幅広い領域に関わる多彩な機能が、研究によって明らかになってきたことがあります。DEL-1とはどのような分子なのか、その機能性や、体内で増やす可能性について、現時点の研究知見をもとに分かりやすく解説します。

「DEL-1」が世間から注目を集める理由

近年、メディアで“若返りタンパク質”と呼ばれ、注目を集めるようになった「DEL-1」。その正体は、体内で作られるタンパク質の一種で、炎症が起こりすぎないようブレーキをかける働きをもつことが分かってきました。DEL-1は加齢とともに減少し、皮膚や骨といった臓器によっても、その発現量や機能は異なることが分かっています。

例えば、顔の悩みを科学的に解説する情報番組では、 DEL-1 が“体の若々しさを保つ鍵の一つ”として紹介され話題となりました。こうしたメディア露出をきっかけに、DEL-1は美容や健康寿命延伸との関連でも関心を集めています。その背景にあるのが、DEL-1がもつ抗炎症作用や血管保護作用など、多彩な機能性の数々です。

生体内分子「DEL-1」とは?

DEL-1が発見されたのは1998年。血管がどのように形成・発達するのかを研究する過程で、血管内皮細胞の接着を制御する分子として同定されました。名称の「DEL-1」は、「発生段階(Developmentally)の血管内皮(Endothelial)に存在する遺伝子座(Locus)」に由来しています。

なお、DEL-1は「EDIL3(EGF like and discoidin domains 3)」とも呼ばれますが、これは国際的な遺伝子命名規則に基づく正式名称です。

DEL-1は、細胞の表面にある「インテグリン」と呼ばれる受容体と結合することで働きます。インテグリンは、細胞同士の接着や情報のやりとりを担う分子です。そのため、インテグリンの働き方は、炎症が長引くか、早く鎮まるかといった体の反応に大きく影響します。DEL-1がインテグリンと結合してその作用を制御することで、過度な好中球の遊走を阻止できるなど、様々な病態の改善効果が期待されているのです。

また、DEL-1は加齢ととともにその量が減少することから、加齢性炎症や加齢に伴う疾患との関連も示唆されています。将来的には、血液中のDEL-1濃度が炎症性疾患のマーカーとなるかもしれません。

免疫・心血管・骨格・口腔に対する「DEL-1」の機能

DEL-1は、その構造的特徴から、複数のインテグリンやリン脂質、免疫細胞に関わる分子と相互作用できることが分かっています。その結果、免疫反応や炎症の調整に幅広く関与します。

例えば、DEL-1は「エフェロサイトーシス」と呼ばれる仕組みを促進します。これは、役目を終えた細胞をマクロファージなどの食細胞が処理する過程で、炎症を速やかに鎮め、組織の修復を助ける重要な働きです。DEL-1がこの過程を支えることで、炎症が長引くのを防いでいると考えられています。

免疫系ではそのほかにも、好中球などの免疫細胞が過剰に活性化・移動するのを抑えたり、がん細胞や感染細胞を攻撃するエフェクターT細胞の働きが行き過ぎないよう調整したりする作用が報告されています。

一方、心血管系では、心機能を改善し、血栓症や動脈硬化の進行を抑制します。研究では、DEL-1が血管内皮増殖因子(VEGF)と相互作用し、シグナル伝達経路を調節することで、血管の内側の細胞を「休んだ状態」から「新しく血管を作る状態」へと切り替える働きが示されています。

そして、骨格系では、骨を作る骨芽細胞の成熟を促す一方、骨を壊す破骨細胞の成熟を抑える働きがあり、骨の再生や維持に関与すると考えられています。

さらに口腔領域では、口腔粘膜の修復や再生にDEL-1が重要な役割を果たすことが分かってきました。研究では、歯周炎モデルのマウスと霊長類にDEL-1を投与したところ、粘膜上皮や歯根膜、骨組織などの歯周炎に侵された組織が修復され、再生が起こったことが報告されています。

「DEL-1」を増やす2つの方法

DEL-1は、老化だけでなく炎症によっても減少することが報告されています。しかし、DEL-1を確実に増やす方法は、現時点ではまだ確立されていません。

研究段階では、抗菌薬などがDEL-1の発現に影響する可能性も示唆されていますが、日常生活の中で比較的身近な要因として報告されているのは、次の2つです。

1つ目は、オメガ3脂肪酸の摂取です。前述の歯周炎モデル動物を用いた研究では、炎症によって減少したDEL-1が、オメガ3脂肪酸の一種であるレゾルビンD1の作用によって回復したことが報告されています。

オメガ3脂肪酸には、魚介類に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、亜麻仁油や大豆油などの植物油に含まれるαリノレン酸などがあります。

2つ目の方法は運動で、運動によってヒト骨格筋組織におけるDEL-1の発現量が増加することが示されています。

ただし、これらの知見はいずれも限定的であり、ヒトでの効果や条件については、今後の研究を待つ必要があります。

「DEL-1」測定法と今後の展開

多機能分子として様々な領域で期待されるDEL-1の発現を高めることは、炎症性疾患や加齢に伴う疾患の治療において、新しいアプローチにつながる可能性があります。また、健康寿命延伸や未病の観点からも、今後さらに関心が高まっていくでしょう。将来的に、多くの人がDEL-1を手軽に把握できる方法が確立されれば、行動変容のきっかけになることも期待されます。
最近では、DEL-1を唾液から測定する方法(株式会社TANSAQ)が発表されました。これは医療用途ではなく、未病ケアの重要性を啓発することを目的とした取り組みです。

DEL-1には、まだ解明されていない点も多く残されています。一方で、日常的な食生活や生活習慣と関連する可能性も示唆されており、今後の展開に期待が高まります。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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