【注目書籍】70代を過ぎても食生活のポイントを押さえれば楽しく若返る

食べ物からできている人間にとって、食事は健康に生きていくためにもっとも大切なもの。だからこそ、今の自分に合った食事の内容、摂り方があるのかもしれません。『脳と体がみるみる若返る30の食習慣』(笠岡誠一著/髙橋書店)は、脳と体が若返る食習慣や、食事にまつわる日々の工夫、思い込みなどを紹介しながら、「人生はまだこれから! 食生活から一度きりの人生を楽しみましょう」とエールを送っているのです。

楽しい食事は体と心の栄養!

大学教授として、管理栄養士を目指す大学生に日々講義を行なっている著者は、「食事は、心や脳を若返らせる、もっとも身近で絶好の機会」といいます。

高齢になればなるほど、「栄養」「社会参加」「運動」という3本柱が大事になりますが、これらをないがしろにしていると、どんどんフレイル(肉体的・精神的に虚弱になる状態)に近づく心配があります。家族や友人も減り、食事を作ったり食べたりすることに喜びを見出せず、食べる意欲が減っていく……そんな人が多いのだそうです。

著者は、この世代へのエールとして「太ることを気にしないで」「食べたいときに食べよう」「野菜が多ければいいとは限らない」「ガマンをやめる」「ファストフードを活用する」「外食をして『食事は楽しい!』を実感しよう」といったアドバイスを30の項目にまとめて紹介しています。

これらの項目だけをみれば、読者は、これまで健康になるためにすすめられてきた生活習慣と違う……と、思うかもしれません。

例えば、これまでは生活習慣病にならないようにと、「太らない」ための生活をすすめられてきたのに、高齢になってみると「やせ」が問題といわれる。だから「肉を食べましょう」と言われても、「豆腐や納豆で十分でしょ」と、思うかもしれません。

そのギャップの理由は、高齢になると筋肉が減り、食も細くなっているのに、以前と同じようにダイエットでカロリーや体重を減らそうとしていると、どんどん栄養が足りなくなってしまう……ということに、気づいて欲しいから。

著者が、「太ることを気にしないで」「好きなときに好きなだけ食べて」「ファストフードも活用して」というのは、健康診断の数値が悪くないのであれば、むしろ好きなものをおいしく食べて、これからの人生も元気に活躍して欲しいからなのです。

今、何が食べたいのか体の声を聞く

年齢による食生活を変化させるだけでなく、食べ物の情報もどんどん更新され、これまで正しいと思っていたことがひっくり返ることもあるのですから、まさに自分に合った最新の情報を実行することが大事です。

厚生労働省と農林水産省が策定した『健康日本21』では、野菜は1日350g食べることとされてきましたが、著者によると「野菜はほとんど水分のため、それらだけではエネルギーが不足してしまう」そうです。

野菜を食べる大きな理由の一つは、「ビタミンAを欠乏させない」ため。そこで、野菜=350gという思いにとらわれずに、ビタミンAは緑黄色野菜から、他のビタミン類は果物や芋類、きのこなどから、食物繊維は米や玄米、納豆などから摂ろうと思えばいいのだそうです。

つまりさまざまな食材を取り入れ、食べたいものを、食べたいときに食べ、ガマンしないこと。「これを摂らなきゃ」「これだけ食べなきゃ」という思いは、食事をつまらなくしているのかも。もっと楽しく食べようということが、この本の最大のメッセージなのです。

自分が今、何を食べたいのか、体の声を聞くことも大事。
読者が健康体なら、味の濃い味噌汁が飲みたいと感じるならば、体が水分やミネラルを求めているのだととらえて、(毎日でなければ)素直にいただけばいいのだそうです。同じように甘いものが食べたいと思ったら、脳が疲れているのだろうと考えて食べればいいと言います。

楽しく、健康的な食事をするための工夫

また本書では、家で食事を作る場合、買ってきたもので食事をする場合、外食をする場合の工夫や楽しみ方にも言及しています。

まず、家で食べるときには、週に1回、「塩としょう油を使わない日を作る」あるいは「箸を使わないで食事をする」こととアドバイスしています。

例えば、塩の代わりにしっかり出汁を利かせたり、しょう油の代わりに中国や韓国、タイ、ベトナムなどの調味料を使ってみれば、味のバリエーションが広がります。また、箸を使わない食事(手巻き寿司や、スプーンやフォークを使う料理など)を作り、香りや食材の色を楽しみながら、脱日常の食事を演出することを提案しています。

さらに、冷凍食品の利用もすすめています。最近の冷凍食品は、特殊な冷凍庫で一気に凍結するため、短時間で完全に凍ります。そのため、解凍後も食材の中に水分がたっぷりと含まれ、味も色も後退しないおいしいものです。

「体に悪そう」という意見もありますが、それは誤解で、短時間で凍らせてしまう冷凍食品には微生物も存在せず、添加物も使用していないのだとか。ただ、封を開けたら早めに使いきること。そうしないとどんどん水分が蒸発しておいしくなくなってしまう……といった使い方のアドバイスもあるのは、さすが管理栄養士の著者ならでは。

孤食を解決する手段の一つとして外食もおすすめです。外食の頻度が高い人ほど「自分の健康状態は良い」と答えているという調査結果もあるのだとか。居酒屋メニューにもヘルシーなものはたくさんあります。

外食をする場合の工夫としては、これまで食べたことのないものに挑戦したり、たまには奮発すること。それは心の栄養になりそうです。

しかし、外食で気になるのは塩分などを調整できないこと。高齢になると舌にある味細胞の新陳代謝が低下し、「塩分」を感じにくくなるため、そこは注意が必要です。塩分の摂り過ぎは、高血圧が気になる人には深刻な問題ですから。

その対策として「旨みと酸味が利いた料理」を注文すること。塩味ではなく辛味の利いた「辛い味付けの料理」もすすめています。また、牛赤身肉やレバー、牡蠣、イワシ、チーズ、納豆などの亜鉛を多く含む食品は、味覚が鈍化するスピードをゆるめます。

本書の各章の終わりには、「カップラーメンは体に悪いですか?」「骨を丈夫にするには牛乳を飲むべきですか?」「ご飯など炭水化物は太りますか?」といった疑問のQ&Aが載っています。これらの答えもまた、必見です。

人にはそれぞれに異なる遺伝背景や人生経験があり、長く続けてきた食習慣があります。同時に、高齢者には高齢者に合った常識的な食生活もあります。本書は、常識的な食生活を土台に、読者が自分に合った調整をしながら、楽しく食事ができるようにサポートしてくれる一冊です。

【書籍情報】
『脳と体がみるみる若返る30の食習慣』(笠岡誠一著/高橋書店)


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