【注目書籍】若さと健康のカギを握る「老腸相関」の核心に迫る

早く老いる人とゆっくり老いる人の違いは「腸」にあるのかもしれません。『最高の食べ方がわかる! 老けない腸の強化書』(内藤裕二監修/新星出版社)では、老化と腸の深い関係を解き明かしていきます。監修者は、腸内細菌研究の第一人者で、長寿で知られる地域に住む高齢者と、都市に住む京都府京丹後市の高齢者と、都会である京都市の高齢者の腸内細菌などを比較したコホート研究を続けている内藤裕二氏。その実地で得た情報と、世界の腸についての研究をもとに、最新の「腸」による老けない食生活を紹介するのが本書です。

酪酸産生菌が多い腸内環境は老化速度を遅くする

実年齢が同じでも、見た目の若さ、内臓などの状態は人によって違い、老化速度(ペース・オブ・エイジング)には個体差があることが注目されています。老化速度に差がつく最大の理由は「腸内環境(腸内フローラ)」であると内藤氏は主張します。

見た目や内臓などが老けている人の多くは、腸内細菌の多様性が失われ、からだに良い働きをする「有用菌」が減少し、「悪用菌(大腸菌や黄色ブドウ球菌などからだに悪い成分を作り出す腸内細菌)」が勢力を増している状態だといいます。

それに対して、見た目や体内の臓器が若々しい人の腸内環境は、腸内フローラに多様性があり、「有用菌」の数が多いのだそうです。

京丹後市の100歳以上の「長寿者」数は全国平均の2.7倍。その理由は、「酪酸」という成分を作り出す「酪酸産生菌(有用菌)」が腸内に多いためであることが、内藤氏らの研究によりわかってきました。

短鎖脂肪酸の一つである「酪酸」は大腸のエネルギー源であり、悪用菌の発生を抑制する働きがあります。また、この酪酸が大腸の代謝を活発にするので、ビフィズス菌などの有用菌が棲みやすい環境になり、老化の原因となる炎症を防いでくれます。
さらに、酪酸産生菌が増えると、脳細胞の老化を抑制するという報告もあるそうです。

水溶性食物繊維を摂って、有用菌に短鎖脂肪酸を生み出してもらう

では、どうすれば酪酸産生菌のような有用菌の多い腸内環境を作れるのでしょうか。
まずは発酵性の高い「水溶性食物繊維」を摂ること。食物繊維の中でも、海藻、ごぼう、きのこ類、大麦、オーツ麦、いも類、根菜などに多く含まれる水溶性食物繊維は、有用菌のエサになり、短鎖脂肪酸を作り出します。

短鎖脂肪酸には、酪酸のほかプロビオン酸、酢酸などがあり、どれも腸内のエネルギー源となるだけでなく、腸内環境を整えたり、血糖値や血圧の調整、免疫を高めて病気のリスクを下げたり、老化を進行させる原因の炎症を抑える作用も報告されています。

そのため短鎖脂肪酸を食べ物や飲み物から摂りたいところですが、それらはにおいや味が強く、そのもの自体では摂りづらいのだとか。そこで、水溶性食物繊維が含まれる食材をたくさん食べることで、腸内で有用菌に産生してもらうことになります。

日本人と海外の人では、腸内細菌の種類が違うため、長生きするために食べた方がいい食品も自ずと変わります。しかし、食の欧米化にともなって日本人の食物繊維摂取量が激減し、現代の日本人は、不溶性食物繊維、水溶性食物繊維を合わせても、1人1日あと10g以上の食物繊維を摂る必要があるそうです。

発酵食品、オリゴ糖、オメガ3脂肪酸の摂取や栄養バランスも重要

水溶性食物繊維以外に、意識して摂りたい食品としては、みそ、しょう油、納豆、ヨーグルト、キムチなどの発酵食品。また、バナナ、玉ねぎ、はちみつなどに多く含まれるオリゴ糖。さらに、青魚や亜麻仁油、エゴマ油などに多く含まれるオメガ3脂肪酸の油です。

本書には、そうした食品が摂れる老化防止レシピも30品紹介されています。主菜、副菜、デザートなどバラエティに富んだメニューで、いろいろ味わいながら老化防止を実践できるのも楽しさの一つ。本書の理論に基づき、レシピは脂肪、塩分、糖分は控えめに作られています。

腸内には約1000種類、約100兆個の腸内細菌がいて、その種類は人それぞれ。現在、さまざまな種類の乳酸菌やビフィズス菌入りの食品が販売されていますが、同じ菌でも合う人と合わない人がいるそうです。

自分にとって合う食材を見つけるためにも、毎食好きな食材ばかりでなく、たくさんの種類の食材を摂ることが大切だとか。

食材に含まれるタンパク質、ビタミン、ミネラル、ファイトケミカルなどの中にも、老化防止の栄養成分は含まれていますので、できるだけ好き嫌いなく食べるようにと勧められています。

「老化時計」をはじめ国内外の最新アンチエイジング研究も紹介

最後に本書では、現在進行形で進められている国内、国外の最新研究についても紹介しています。

国内では、東京大学による老化細胞を除去する研究、慶應義塾大学による腸内細菌が作用する仕組みの研究、順天堂大学による老化細胞を除去するワクチンの開発、京都大学による老化によって低下した免疫の働きを回復させる研究など。

海外では、ポリフェノールで寿命を伸ばす研究、長寿遺伝子とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」を活性化させて若返らせる研究、老化細胞を破壊して除去するサプリメントの開発や、老化のスピードを測る「老化時計(エイジング・クロック)」の開発についてなど。

そのような研究が役に立つのも、私たちが実践してこそ。今わかっている老化防止の方法を実践しながら、さらに年齢を取らない方法が現れたら、それを実践する。その積み重ねが健康寿命を伸ばす秘訣なのでしょう。

【書籍情報】
『最高の食べ方がわかる! 老けない腸の強化書』(内藤裕二監修/新星出版社)


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