フードロス削減時代のロングライフ商品を支える 「酸化抑制・防止技術」最前線

年間523万トンといわれる日本のフードロス削減は、事業者、家庭が双方で取り組むべき課題です。政府が「賞味期限の基準緩和」について食品の賞味期限・消費期限の延長方針を検討する中、ロングライフ商品が広がりを見せています。ロングライフ商品を支える酸化抑制・防止技術にも様々な技術革新が。革新が進む「鮮度を保つ」最新の技術をレポートします。

食品ロスをもたらす要因の一つが「賞味期限の短さ」

昨今の日本における年間食品ロスは523万トンで、これは飢餓で苦しむ人々に対する世界の食品支援量の1.2倍に相当します。その内訳は「事業系食品ロス」が279万トン、「家庭系食品ロス」が244万トン(農林水産省、環境省、2021年度推計)で、約半分が家庭からの排出です。内訳では事業系におけるロスで規格外品や返品、売れ残りなどが多いのに対し、家庭系では食べ残しと未開封の状態で捨てる“直接廃棄”の2つが4割以上を占めています。

こうした実態からも分かるとおり、食品ロスの削減には事業系と家庭系の双方における取り組みが必要です。そこで政府は2023年11月、「賞味期限の基準緩和」に関する検討について発表しました。具体的には賞味期限を設定するときに基準となる安全係数を引き上げるという内容で、現行の基準は2005年に策定されたものです。当時と比べると食品の保存技術が向上していることを理由に、食品ロスの削減を推進する目的で2025年度には見直す方針をまとめました。
食品メーカーにとっては「保存技術の向上」が、賞味期限を延ばして食品のロスを減らすことに加え、ロングライフ商品の価値を一般消費者に広く周知するカギとなっていくことでしょう。

進化し続ける食品業界の「鮮度を保つ」技術

あらゆる食品でその鮮度を保つ要となるのが、“酸素との接触をいかにして防ぐか”ということです。酸素が食品を含む他の物質と結合する反応を酸化と呼び、この反応は見た目や風味の変化に留まりません。近年では次に挙げるような、酸化から食品を守る技術が飛躍的な進歩を見せています。

牛乳も常温で2~3ヵ月の保存OK!「ロングライフ紙パック」

紙パックの飲料はすべて、冷蔵庫で保存しても数週間ほどしか持たないと思っていませんか?酸素の透過を防いで光を遮断するアルミ箔をパックの6層構造の中に組み込んだ「ロングライフ紙パック」は未開封であれば長期保存が出来るだけでなく、常温での保存も可能です。
その理由は、徹底した無菌の環境下で食材や飲料を充填するため、細菌やカビ、酵母といった食品に変敗をもたらす微生物が混入していないから。滅菌の工程では熱による食品の劣化を最小限に抑えるような技術も合わせることで、素材本来の栄養価や風味を壊しません。

肉や魚を潰さずに3倍も長持ち!「真空スキンパック」

従来のトレイラップ方式で売られている生肉や生魚で、時間経過とともに変色しているのを見かけたことがある人は少なくないでしょう。通常、このようなトレイラップ方式では生鮮品の酸化は免れず、およそ3~5日間ほどで消費期限を迎えます。ただ、単なる真空パックだと食材は空気圧によって押し潰されかねません。

近年、大手スーパーで導入され始めた「真空スキンパック」では特殊なフィルムを用いることで、食材の形状を保つことに加えて内部からの水分流出も抑え、消費期限と保存期間の両方を延ばすことが出来ます。

青果物の呼吸に合ったガス透過量を設定!「鮮度保持フィルム」

野菜や果物をビニール袋などに入れ、口をきつく縛ってしばらく置くと異臭が発生するのは、青果物自身が呼吸をしているから。密閉された袋内は偏ったガス濃度になり、これが青果物の鮮度低下と傷みにつながります。これを解決するのが、フィルムにミクロ穴加工を施す等の方法によって、酸素の透過量の調整を行う「鮮度保持フィルム」です。これによって袋内では酸素や二酸化炭素などのガス濃度が最適に保たれ、それぞれの青果物に合ったガス濃度環境で野菜や果物をいわば“冬眠状態”にすることで鮮度を維持することができます。

わずかな酸素も接触させない新技術で”開封後”も鮮度が長持ちする食用油

油は調理時における焦げの予防だけでなく、食材から出る栄養分の流出を抑えたり、脂溶性ビタミンの吸収を高めたりする役割もあります。しかし、酸化してしまった油ではこうした機能を十分に発揮できないどころか、異臭や胃もたれを起こす原因にも。おいしくて健康に良い油を選ぶには、酸化されにくい製法と技術で作られた製品を見極めることが重要です。

2024年2月に発売された「日清ヘルシークリア」(日清オイリオグループ)は、「ウルトラ酸化バリア製法」という日本で初めての技術を駆使した製品で、油に対してわずかな酸素も接触させないような製造方法が話題を呼んでいます。

日本初 油の酸化を抑制しロスを減らす「ウルトラ酸化バリア製法」

多くの植物油はその化学構造内に二重結合をもつ不飽和脂肪酸で、例えばオレイン酸では1つ、リノール酸では2つ含まれています。この二重結合は反応しやすい電子をもち、酸素が反応した結果に出来上がる化学構造は、もとの脂肪酸が持つ機能性を保持していません。したがって油の酸化防止では、いかに油を酸素に触れさせないようにするかがカギとなります。
これを重視して開発されたのが、日清オイリオグループ株式会社の「ウルトラ酸化バリア製法」です。この技術は、次に示す3つの強力かつ新しい製法で構成されています。

ウルトラ酸化バリア製法|その①「日清ウルトラファインバブル製法」

「日清ウルトラファインバブル製法」とは、超微細な泡を窒素でつくり、これを油に吹き込むことで油中の酸素を徹底的に追い出す製法です。開封後の酸化指標について一般的なキャノーラ油と比較したものでは、120日経過時点の変化率が半分以下に減りました。また、生風味について比べたものでは、120日経っても開封時とほとんど変わらない風味を維持していました。これにより、開封後も油の酸化を抑えて油本来の風味を損なわずに保存できるということが分かります。

ウルトラ酸化バリア製法|その②「Neoナチュメイド製法」

「Neoナチュメイド製法」とは低温そして高真空における脱臭で、製造後に酸化油脂として生成する脂質ラジカルを抑える製法です。この脂質ラジカルは非常に反応性が高く、生成すると脂質が次々に酸化されてしまい、動脈硬化やがんなど様々な疾患を引き起こすと考えられています。「Neoナチュメイド製法」による製造では、従来品と比べて脂質ラジカルの総量を約半分にまで減らすことが可能になりました。また、脂質ラジカルに加えて、臭いの原因物質となる揮発成分量を抑制できることも分かっています。

ウルトラ酸化バリア製法|その③「酸化ブロック製法」

「酸化ブロック製法」とは、容器の中で油以外のヘッドスペースと呼ばれる空隙部分から、酸素を徹底的に追い出す製法です。ヘッドスペースに対し、窒素を用いて極限まで無酸素状態にすることで保存中の酸化を抑えます。その結果、一般のキャノーラ油と比べると、開封前で32ヶ月経ったときの酸化指標を約5分の1に減らすことが出来ました。この製法なくして、充填時の鮮度を保存中もそのまま維持し続けることは難しいと言えるでしょう。

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酸化抑制技術革新による二次的なメリットも

このような酸化を抑制する技術革新は、鮮度を保って消費期限の延長をかなえることで食品ロスの削減につながる可能性を秘めているだけでなく、二次的なメリットも大きいと言えるでしょう。

例えば、食品のおいしさを維持することはもちろん、災害時などへの備えもしやすくなります。また、食品の機能性が保たれることで身体の正常な代謝における材料となったり、抗酸化作用を発揮したりすることで私たちの健康へ寄与します。さらには、高齢化や様々な環境要因によって新鮮な食品が食べられないというような人に対し、遠方から鮮度が高くて栄養価がそのまま保持された食品を届けることも可能です。

様々な工夫や改良が加えられたロングライフ商品を含め、より良い製法や技術革新、潜在的ニーズを突くような商品設計についてますます目が離せません。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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